INTERVIEW

デザインの魂のゆくえ

デザインの魂のゆくえ:第1部「経営にとってデザインとは何か。」②明和電機篇
「宗教こそ『不可解なもの』の象徴だし、お札なんてそれこそマスプロダクションじゃないですか。」

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「オタマトーン」などのヒット商品を生み出し、その奇天烈なライブ(=製品デモンストレーション)のパフォーマンスでも知られる明和電機。そこから発表されるさまざまなプロダクトは、20年以上もの間「日本の中小企業に扮したアートユニット」という明和電機のコンセプトとともに発信され続け、今ではお茶の間から国内外のアート業界に至るまで、唯一無二の存在感を築き上げています。
先日からDOTPLACEで始まったこの連載「デザインの魂のゆくえ」立案者のデザイナー・小田雄太さんは、実は明和電機の出身者。在籍当時のことも振り返りつつ、明和電機のクリエイティブの核を担う代表・土佐信道さんから見た「経営とデザイン」観について『ほぼ日刊イトイ新聞』『Newspicks』の2媒体とともに伺ってきました。
 
●本連載「デザインの魂のゆくえ」企画者の小田雄太さんによるこの連載の序文はこちら
●本連載の第1部(ほぼ日刊イトイ新聞+COMPOUND+Newspicks合同企画「経営にとってデザインとは何か。」)のプロローグはこちら

【以下からの続きです】
1/5:「『情念』が中心にあった上で、常に擬態をやっているのが明和電機です。」(2015年11月26日更新)
2/5:「『ナンセンス』なものを『コモンセンス』に叩いていくプロセスには、徹底的に論理が必要で。」(2015年11月26日更新)
3/5:「『グリコにおまけをつける』こととかも、全部当時の社長自身が考えているんですよね。」(2015年11月30日更新)
4/5:「ライブをやってて一番面白いのは、楽器が壊れる瞬間。」(2015年12月2日更新)

同じ船の乗組員だから持ち場をまっとうしてほしいし、影響も受ける

小田:もう一つ聞きたいことがあって。
 明和電機を卒業した工員って、こういう表現が正しいかわからないですけど、みんなそれぞれ今ちゃんと仕事している人が多いじゃないですか(笑)。

土佐:僕はそういう人を見つけるのがうまいんですよ(笑)。

奥野:普段はどういうリクルーティングをされているんですか。いい子がいる、という情報を人づてに聞く感じですか。

土佐:そうですね。僕自身がそばにいて面白いと思う人とやります。しかも僕は工員さんにものすごく影響を受けます。例えばその工員さんが演劇好きだと、演劇の仕事が入ってきたりしますね。

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小田:工員になる人って若い人が多いじゃないですか。でも土佐さんってそんな僕たちの話を親身に聴いてくれましたよね。僕も当時大学卒業したてで、社会のしくみを何もわかってないのに好き勝手言っていたじゃないですか。その話を聞いて、しかもちゃんとかたちになるまで監督してくれることもあって、それは本当にすごいなと思います。

土佐:仕組みに興味があるのかもしれないですね。その人がなぜ、それに興味があるのか。

奥野:工員さんと土佐さんは、どういう関係だと認識されているんですか。

土佐:船の乗組員ですかね。そういう意識はあります。小さい船なので、自分の持ち場をきっちりやってほしいと思っています。明和電機は少数精鋭で、エキスパートとしてやってくれないと回らないので、そこができないときははっきりとダメ出しします。でも、何だかんだ先頭で「波動砲を撃て!」とか工員さんに言いながら、結局自分で撃っちゃってるんですよね(笑)。

行き着く先は「宗教」モデル?!

奥野:明和電機と似たような会社って、あるんですかねえ。

土佐:真言宗の総本山で金剛峯寺のある高野山とかじゃないですかね。どういうことかというと、明和電機は「マスプロをやるプロダクション」だと思っています。つまり、マスプロモーション(興行/みんなに見てもらう事業)とマスプロダクション(興行/みんなに使ってもらう事業)です。これって実は宗教のモデルに似ていて。宗教こそ不可解なものの象徴ですし、山奥まで参拝しに行って、そこでお札などを売っているのって、それこそマスプロダクションじゃないですか。それを「信仰」というかたちでマスプロモーションもしていますし。世界では十字架ほど売れているプロダクトはないですからね。聖書はベストセラーですし。明和電機もそういうイメージでいます。

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小田:僕はこの連載の序文にも書いたように、デザインというのは設計だと思っていて、明和電機ではそういう考え方をいろんなかたちで学べたんじゃないかなと思ってます。明和電機が演劇集団のようなユニットだったら僕は多分すぐに辞めてたと思う。本当だったら組織を作ってみんなでやることを、土佐さんは全部一人でやっていて、それをサポートすることで完成までの課程が見られたのがすごく面白かった。
 あと僕、「デザインが課題解決だ」っていうの、すごく嫌いで。もちろん、デザインはどこかでコミュニケーションの衝突を解決するようなものではあると思うんですけど、その一方で、不可解さみたいなものに対して「あれって可愛いよね」って言われるようなところまでを見込んで、あえてちょっと不可解さを残したりすることで設計しきるというか。それによって共感してもらえるものになっていくんじゃないかなと思っていて。

奥野:土佐さんが大切にされている「不可解さ」というキーワードで、デザインと経営の関係性が一気にわかるようになりましたね。

土佐:僕の活動は「不可解なもの」と「理論」の往復運動のようなもので。一貫して「ナンセンス」という不可解なものを論理で追いかけるということをしているんです。

奥野:「オタマトーン」のように、マスプロダクト化されていない制作活動は、いわゆる純粋なアートとしての活動なんですか。

土佐:そうですね、いわゆる「プロトタイプ」と言われるものですね。F1カーみたいなものです。これがないと、普及車(=マスプロダクト)に落ちていかないんです。

「明和電機 製品カタログ2015」より

「明和電機 製品カタログ2015」より。掲載されているほとんどの製品は「プロトタイプ」。

奥野:土佐さんは、自分がやりたいと思えることってどうやって出てくるんですか。

土佐:感覚的な部分が大きいですけど、今の時代性や、「これは何だろう」と自分の中で引っ掛かるものを対象にして深めていきます。もちろんリサーチもよくしますし、詳しい人に会ったりしていくうちに、ビジョンが見えてきたら作品にする、という感じですね。その時点ではもちろんネーミングもロゴもない。自分の中で情念のようなものが溜まってきたときに、何かしら着地点があるな、と探求していって、その先に「……納得!」となる瞬間があります。この状況に持ち込めると、もう自分のものですね。
 「自分が納得できる」ということの一番の強みは、人を説得できるんです。自分が今取り組んでいるプロジェクトの意義を深いところまで一番理解できているので、その面白さを絶対伝えられる自信もありますし、そこまでいけると強いですね。

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奥野:ただ、自分の中で「完全にわかっている」場合でも、100%面白がってもらえるとは限らないんじゃないですか。

土佐:面白がってもらえますね。その確固たる自信があるので。そういうときって、自分がやっていることを「カッカッカッ」と笑えるような感覚になるというか。例えばニュートンも「りんごは地球の中心に引っ張られとるやーん。」って発見する瞬間があったと思うんですよ。ダーウィンだと「生き物って全部つながっとるやーん。」みたいな感じ。こういうのが頭の中で現象として起きることがある。この感覚が一番伝わりにくいのは「宗教」ですかね。お釈迦さんも各々が頭の中で「わかったー!」ってなっているんだと思います。でもこれはかなり高次元のことなので、その結果わかった時点で死ぬ人もいると思いますし、死なないでいる人は、ではこの感覚はどうやったら伝わるかなと考えて、音やことばを使ったりして創意工夫をしていくと思うんです。こういう、もう一つ上のレイヤーのコミュニケーションが起こると面白いと思いますね。
 それは僕でいうと、ライブでの楽器や機械がオタマトーンになったり、書籍になったり、というかたちで現れているんです。

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[「経営にとってデザインとは何か。」②明和電機篇 了]

聞き手:小田雄太(COMPOUND)/奥野武範(ほぼ日刊イトイ新聞)/福田滉平(NewsPicks)
取材・構成:小原和也
企画:小田雄太(COMPOUND)
(2015年10月20日、明和電機アトリエにて)

本取材は、『ほぼ日刊イトイ新聞』『NewsPicks』でもそれぞれの編集方針に沿って記事化・掲載されています。
▶ほぼ日刊イトイ新聞:芸術家+デザイナー+経営者=?
▶NewsPicks:明和電機がオタマトーンを生み出した仕組み


PROFILEプロフィール (50音順)

土佐信道(とさ・のぶみち)

1993年にアートユニット「明和電機」を結成。日本の高度経済成長を支えた中小企業のスタイルである青い作業服を着用し、作品制作や音楽活動、ライブパフォーマンスなど多岐に渡って活動を展開。魚骨をモチーフにしたナンセンスマシーン「魚器(なき)」シリーズなどがある。


PRODUCT関連商品

明和電機 ナンセンス=マシーンズ

土佐 信道 (著)
単行本: 175ページ
出版社: NTT出版
発売日: 2004/11/15