「オタマトーン」などのヒット商品を生み出し、その奇天烈なライブ(=製品デモンストレーション)のパフォーマンスでも知られる明和電機。そこから発表されるさまざまなプロダクトは、20年以上もの間「日本の中小企業に扮したアートユニット」という明和電機のコンセプトとともに発信され続け、今ではお茶の間から国内外のアート業界に至るまで、唯一無二の存在感を築き上げています。
先日からDOTPLACEで始まったこの連載「デザインの魂のゆくえ」立案者のデザイナー・小田雄太さんは、実は明和電機の出身者。在籍当時のことも振り返りつつ、明和電機のクリエイティブの核を担う代表・土佐信道さんから見た「経営とデザイン」観について『ほぼ日刊イトイ新聞』『Newspicks』の2媒体とともに伺ってきました。
●本連載「デザインの魂のゆくえ」企画者の小田雄太さんによるこの連載の序文はこちら。
●本連載の第1部(ほぼ日刊イトイ新聞+COMPOUND+Newspicks合同企画「経営にとってデザインとは何か。」)のプロローグはこちら。
【以下からの続きです】
1/5:「『情念』が中心にあった上で、常に擬態をやっているのが明和電機です。」(2015年11月26日更新)
ごっこ遊びだからこそ「燃える」
小田:土佐さんが一つの作品を作り上げていく過程を、明和電機にいた当時から僕は横目で見ていたんですけど、こういうのって普通の企業だと、「R&D(リサーチ&ディベロップメント)」という名のもと、だいたいの場合は10〜20人くらいのチームを組んでやるんですよ。
土佐:むしろそれでよくできますね。
小田:そうですよね。例えば土佐さんのものづくりに近い例だと、「妖怪ウォッチ」とかを作っているゲーム会社の「レベルファイブ」の代表の日野さんは、プロジェクトに対して「仮で名前をつけるな」ということを言うんだそうです。それを徹頭徹尾やらないとコンセプトは生きてこないということを言っていて、これは確かに土佐さんも普段からやっていたことだなあと。
「自分で全部やる」ことで、プロダクトの世界観を練り上げる。明和電機にはそういう手法があったと思うんですけど、最初になんとなく名前をたくさん作って、その音感の中でしか考えないという企業があるのは事実なんですよね。本来であれば、しっかりと社長と話をして、これから作る製品の背景から作り込んで、ネーミングの音感がどうかとか、ウェブで検索してみて同じような名称がないかどうかなどを検討します。それで名前が決まったら、今度はロゴを作って、そして最後は商品とロゴのかたちが結びつくように考えないといけない。そうして最後に一つにまとまっていくものですよね。
土佐:それを僕は一人でやっているわけですけど、一人でやっていると、何だか詐欺をやっている気分になります(笑)。このあたりの作業って、映画などではよく詐欺師がスーツを着て、指輪などをキメて、それなりに狙いながらやっていますね。何というか、僕はそういうことを自分でやるのが好きなんだと思います。多分、シミュレーションだから燃えるのかもしれませんね(笑)。ごっこ遊びだからこそ燃えるというか。その感じはありますね。
奥野:上司から言われてやることではないということですね。
土佐:まさにそうですね。自分の中から出た「ゲーッ」の精度を上げていく。
小田:ただ土佐さんは、そのかたちのまとめかたの完成度がすごく高いというか。普通は「ゲーッ」となったものって、その当初の感じを残そうとしたりしてしまうこともあると思うんですが、土佐さんの作り出すかたちって、何かへの「擬態」というよりも、もうちょっと先の「デザインをする」というところにまで踏み込んでいる気がしていて。
土佐:確かにそこはちょっと考えるかな。「デザイン」って組み合わせの部分があるじゃないですか。企業の製品開発の場合は、クライアントの求めている部分に近づけるためにどんどんかたちを見せていく必要があります。その答え合わせをどれだけ速くやるかということ。でも僕はそうじゃなくて、自分が作ったものにぴったり合うイメージをひたすら探求している気がしますね。
奥野:一般的には、クライアントへの提案やプレゼンのときってだいたい2、3案作ると思うんですけど、それはもちろんないってことですよね。土佐さんご自身が決裁しているわけですもんね。
小田:この時点でもう全体像が見えているんですね。
土佐:そうですね。このタイミングでいつもグラフィックデザイナーの中村至男さんと打ち合わせをするんですけど、この人もすごく感覚的な人で、いつも手作業でいろいろ切ったり貼ったりしながら二人でゲーゲーやって、それをコンピューターでブラッシュアップしていく、という感じですね。
社長も一緒になってスタディする
小田:例えばポスター一つを作るにしても、土佐さんと中村さんの作業を見ていてビックリしたことがあって。最初の打ち合わせでは、中村さんがただ幾何形体だけがレイアウトされたプリントを持ってきて、それでアイデアについて話したりするじゃないですか。それって実は非常に抽象的な部分だけを擦り合わせて試行錯誤しているんですよね。本来、一般的な社長とデザイナーという関係性だったら、「早く完成図を見せてよ」ってなるんですけど、土佐さんと中村さんのやりとりを見ていると、中村さんだけじゃなくて土佐さんも一緒になってスタディしながら、最終的には合致させていきますよね。
土佐:そうだね。これは中村さんだからできることですね。
小田:こういう作るプロセスで、土佐さんから中村さんに“委ねる”タイミングってあるんですか。
土佐:“委ねる”というのは、自分のクリエイションを預けるということかな。何だろう……肌感覚とか温度感とか、その人が持っているものを判断して、大丈夫だと判断したら委ねますね。一緒にゲーゲーやったりする中で、感覚的に非常に近いものを感じたら、任せても大丈夫かなって思えますね。
小田:実は明和電機にインタビューに来る前に、大分県にある焼酎の〈いいちこ〉などで有名な三和酒類さんに行ってきたんですよ。〈いいちこ〉といえばポスターが有名ですけど、30年前から作られているそのポスターは、名誉会長である西さんが全部デザインの意思決定をしていて、社内にもポスターがたくさん貼られていて、これはもう広告デザインなのか会社としての標語なのか区別がつかないレベルにまで馴染んでいたんです。
土佐さんは明和電機で同じようなことを自分で全部やっていると思っていて、本来だったら外注などで外に預けていいものまで土佐さんがやっちゃう。そこの判断基準というか、境界というか、土佐さんの美学みたいなものがあると思うんです。それはもしかしたら先述のフィールドナチュリストとキャビネットナチュラリストの例かもしれませんが、こういう境目は土佐さんの中にはどこにあるんですか。
土佐:それこそ小田くんの言う「デザインは設計だ」ということがポイントかもしれませんね。僕のものづくりの最初にある、自分の中にある情念のようなものをゲーゲー出してく段階は、絶対に自分のテリトリーだし、誰にも切り取れないものです。そして次のステップでは、それを理性でビシバシ叩いていくということをやります。つまり、「ナンセンス」なものを「コモンセンス」に叩いていくというプロセスがあって、そこには徹底的に論理が必要で。ビシバシ締めていくような段階までいくと、中村さんのような方であれば後はほぼ任せられますね。
最終的には、僕が作らなくても発注すれば作れるし、僕が死んでも作ることができる状態にしたいし、逆にその状況を見てみたいという気持ちはありますね。普遍性が増していって、ゆくゆくは伊勢神宮のように永遠に残っていくような、構築しては潰して、構築しては潰して……という過程の中でこそ本質が残っていくので、そんな状況は見たいなと思います。そこまで高めることができれば、後は安心して任せられますね。
[3/5「『グリコにおまけをつける』こととかも、全部当時の社長自身が考えているんですよね。」に続きます]
聞き手:小田雄太(COMPOUND)/奥野武範(ほぼ日刊イトイ新聞)/福田滉平(NewsPicks)
取材・構成:小原和也
企画:小田雄太(COMPOUND)
(2015年10月20日、明和電機アトリエにて)
本取材は、『ほぼ日刊イトイ新聞』『NewsPicks』でもそれぞれの編集方針に沿って記事化・掲載されています。
▶ほぼ日刊イトイ新聞:芸術家+デザイナー+経営者=?
▶NewsPicks:明和電機がオタマトーンを生み出した仕組み
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