INTERVIEW

デザインの魂のゆくえ

デザインの魂のゆくえ:第1部「経営にとってデザインとは何か。」②明和電機篇
「『情念』が中心にあった上で、常に擬態をやっているのが明和電機です。」

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「オタマトーン」などのヒット商品を生み出し、その奇天烈なライブ(=製品デモンストレーション)のパフォーマンスでも知られる明和電機。そこから発表されるさまざまなプロダクトは、20年以上もの間「日本の中小企業に扮したアートユニット」という明和電機のコンセプトとともに発信され続け、今ではお茶の間から国内外のアート業界に至るまで、唯一無二の存在感を築き上げています。
先日からDOTPLACEで始まったこの連載「デザインの魂のゆくえ」立案者のデザイナー・小田雄太さんは、実は明和電機の出身者。在籍当時のことも振り返りつつ、明和電機のクリエイティブの核を担う代表・土佐信道さんから見た「経営とデザイン」観について『ほぼ日刊イトイ新聞』『Newspicks』の2媒体とともに伺ってきました。
 
●本連載「デザインの魂のゆくえ」企画者の小田雄太さんによるこの連載の序文はこちら
●本連載の第1部(ほぼ日刊イトイ新聞+COMPOUND+Newspicks合同企画「経営にとってデザインとは何か。」)のプロローグはこちら

まずはフィールドナチュラリスト的に、自分で何でもやってみる

COMPOUND・小田雄太(以下、小田):今回の企画で土佐さんにお声がけしたのはですね、なんか改まっちゃってアレですけど(笑)、おかげさまで、僕が明和電機で最初に仕事をしてから10年経ちました。独立してからはもう5年目で、明和電機の後に別の企業を2つ3つ経験して、「COMPOUND」を設立して今に至ります。
 最近、「デザイン」や「ものづくり」みたいなテーマで企業の代表の方が表に出て話すことが多くなってきていますよね。「経営はデザインである」と言うようなかたちで、「デザイン」という言葉自体が一人歩きしてしまっている印象があります。でも、この使われ方って、ある種の流通やマーケティングの言葉にしかなっていないと思っていて。そもそも、日本のデザインってそこまでスケールが大きいものではなかったはずだし、日本の経済やものづくりを支えてきた中小企業の考え方ってそんなに「デザイン」と「経営」を相対化できるものじゃないと思っています。
 ものづくりやデザインと経営が地続きになっているようなかたちで実践されている方に話を聞こう、というのが今回の「経営にとってデザインとは何か。」というシリーズの主旨なんです。その方針が決まったときに、やはり土佐さんのされていたことがすぐに思い浮かんだんですよね。あと、僕は明和電機で学んだことが本当にたくさんあって、自分のベースにあるものは今も変わっていないんだなと思うことが多くて。当時は土佐さんや中村至男さん(※編集部注:アートディレクター。明和電機の製品のパッケージやポスターなどのグラフィックデザインも手掛ける)から学ぶことがたくさんありましたし、今日は土佐さんからそのような話が聴けると感じたんです。よろしくお願いします。

土佐信道(以下、土佐):わかりました。どこから話そうかね。

(左から/敬称略)土佐信道(明和電機代表)、小田雄太(COMPOUND)

(左から/敬称略)土佐信道(明和電機代表)、小田雄太(COMPOUND)

小田:ではまずは、明和電機のものづくりについて伺わせてください。
 明和電機って、作品をシリーズで分けていますよね。多くのアーティストだと「自分から出たものすべてが作品です」と言う人もいると思います。でも、土佐さんの場合は、「ここからここまでは『ツクバ』シリーズ」「ここからは『魚器(NAKI)』シリーズ」「次は『エーデルワイス』シリーズ」という風に、明確なラインとして分けていて、しかもそれに対して、一つひとつ丁寧に色やロゴといった仕様を決めて……というように、すべてのラインにポジションを与えているじゃないですか。それって多分、企業がやっているブランドづくりと何ら変わらないことなんですよね。これって意図的にやっていることなんですか。

明和電機 公式サイト「製品紹介」のページより(スクリーンショット)

明和電機 公式サイト「製品紹介」のページより(スクリーンショット)

土佐:これって僕から言わせると、芸術家はみんな、例えばピカソもやっていることなんですよね。ピカソにも「青の時代」とか「新古典主義の時代」とかあるじゃないですか。もしこういう芸術家と違う点があるとするならば、明和電機は“擬態”をやっているんですね。あるときはグラフィックデザイナーをやったり、あるときはミュージシャンをやったりするけど、どれもそれが本業ではないんです。でもその中心にあるのは、いつも芸術という「情念」を「ゲーッ」と吐き出すことです。

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 その中心がないと、絶対に“擬態”はできません。
 芸術家には絶対にテーマというものがあって。それが変わるということは、ブランドが変わってしまうようなものなんですね。なので、一見整理されているように見える「魚器」や「ツクバ」シリーズもいきなり始まったわけじゃなくて。「ゲー、ゲーッ」って吐き出してみた後にちょっと離れてみると、これってこう括れるんじゃないかっていうふうに、後から決まっていくことが多いんです。
 生物学者には「フィールドナチュラリスト」と「キャビネットナチュリスト」という呼び方があります。例えばダーウィンは、航海して目的の島に到着したら、とにかく何でも収集するんです。そのときの態度はフィールドナチュラリスト的で、その時点では分類のことなんかまったく考えていません。その後、イギリスに戻ったらそれをキャビネット状に並べていって、そこから論理的にカテゴライズしていくことで「発見」に繋げていくんです。それと同じように、僕も最初はフィールドナチュラリスト的に自分で何でもやってみて、そこから論理的に構築していって、適切なネーミングやイメージを発見するんです。

名前を与えるということ

小田:なるほど。土佐さんは製品を作るときに毎回ロゴを作りますよね。「ロゴを作る」というのは土佐さんにはどういう意味があるんですか。

土佐:それはねえ、とにかく僕がロゴが好きでね(笑)。ロゴが好きということもあるんですけど、でもどんなものも最初は全然ロゴなんて考えていなくて。
 例えば「オタマトーン」は、イメージとしての「笑うボール」みたいなものから始まって、「くすぐると笑うボール」みたいな抽象的なところから制作が始まりました。しかも最初は「Mロボ」って呼んでいたんですけどね。その後、「Mロボ」をくすぐる「Sロボ」というものも考えて売上倍増!みたいな(笑)。でも結局これはボツになって、今度は「歌うボール」を作りましょうってことになって。あと音符がおたまじゃくしに似ているということからひらめいて、そこからやっと具体的に考えていく、という感じです。おそらくここまでは自分の中ではエンジニア的な作業という感じです。

ほぼ日刊イトイ新聞・奥野武範(以下、奥野):「オタマトーン」は本当に人気ですもんね。


オタマトーンの演奏デモンストレーション

土佐:で、この後からひたすらネーミングを考えます。最初のころは「オタマ」って呼んでいたんですよ。「ヤマハ!」「フジヤマ!」「オタマ!」みたいな(笑)。でも調べたらそれも商標を取られていることがわかって、次に「オンプー」はどうかとなって、でも「プー(poo)」って「うんち」の意味なので、それも却下になって。

土佐さんによるスケッチより

土佐さんによるスケッチより

小田:ちなみに、作品のネーミングや響きを考えるときに、本決まりはしないまでも、ある程度はその作品にある背景も一緒に考えていくわけですよね。それが商品のコンセプトにもなっていく。

土佐:そうそう。子供に名前をつけるのと一緒で、それをもっとも端的に表しているものを探すというわけです。最終的にポンと出てきたんですけどね、「オタマトーン」という名前は。この過程はつまり、「世界観を強くしていく」っていうことだと思うんです。で、オタマトーンをおもちゃ屋さんで見たときに、一見したら楽器ってわからないと思うんです。でもロゴが楽器っぽさを出しているとこれは楽器なんだなってわかるのと同じで、ギターやアンプについているようなロゴをイメージして作っていきましたね。

2/5「『ナンセンス』なものを『コモンセンス』に叩いていくプロセスには、徹底的に論理が必要で。」に続きます

聞き手:小田雄太(COMPOUND)/奥野武範(ほぼ日刊イトイ新聞)/福田滉平(NewsPicks)
取材・構成:小原和也
企画:小田雄太(COMPOUND)
(2015年10月20日、明和電機アトリエにて)

本取材は、『ほぼ日刊イトイ新聞』『NewsPicks』でもそれぞれの編集方針に沿って記事化・掲載されています。
▶ほぼ日刊イトイ新聞:芸術家+デザイナー+経営者=?
▶NewsPicks:明和電機がオタマトーンを生み出した仕組み


PROFILEプロフィール (50音順)

土佐信道(とさ・のぶみち)

1993年にアートユニット「明和電機」を結成。日本の高度経済成長を支えた中小企業のスタイルである青い作業服を着用し、作品制作や音楽活動、ライブパフォーマンスなど多岐に渡って活動を展開。魚骨をモチーフにしたナンセンスマシーン「魚器(なき)」シリーズなどがある。


PRODUCT関連商品

明和電機 ナンセンス=マシーンズ

土佐 信道 (著)
単行本: 175ページ
出版社: NTT出版
発売日: 2004/11/15