2015年2月。東京マラソンに向け、カゴメ株式会社と明和電機がコラボレーションを果たし制作された「ウェアラブルトマト」が発表されました。マラソンランナーが走りながらトマトを補給するためのウェアラブルデバイス――。その奇天烈なコンセプトとフォルムゆえに、ギャグプロジェクトの一言で片付けられてしまいかねないこのアイデアが実を結ぶまでの過程には、明和電機代表・土佐信道さん独自のロボット観が存分に活かされています。今回のプロジェクトにとどまらず、これまでの明和電機の製品づくりは、ウェアラブルという切り口や新しい技術に対してどのようなアプローチを続けてきたのでしょうか。掘り下げてお話を伺ってきました。
ウェアラブルトマト誕生の経緯
――まずは、今回のウェアラブルトマトの企画の概要について、お話をいただけますか?
土佐信道(以下、土佐):はい、よろしくお願いします。今回の企画は、カゴメが東京マラソンのスポンサーをされていて、毎年ランナーの方々にトマトを配られていていたんです。去年は自動販売機で配ったということだったんですが、どうもしっくりこないと。なので、今年は明和電機と一緒にやってみないかということで、ウェアラブルというテーマとも絡めて何かできませんかという提案をいただきました。この企画がなんと企画会議で通ってしまい、実現することとなりました。
そもそも、僕はこれまでにもまともな機械なんてつくったことがありませんでした。なので、企画の最初の段階でも「まともなモノはつくれませんよ」という宣言をしていました。それでも大丈夫です、ということで引き受けることになりました。
トマトは明らかに手で食べた方がいい ——明和電機にとっての「ウェアラブル」
――そうだったんですね。今回の企画の大きなテーマである、「ウェアラブル」というコンセプトを聞いて、そして実際に与えられたトマトを目にしてまずはどうしようと考えましたか?
土佐:いま、「ウェアラブル」という言葉がブームになっていますね。そちらはいわゆる電子ガジェットとしてのウェアラブルです。身体情報を記録してコンピューターでどう活用するのか、ということが主な目的だと思いますが、明和電機は全然そっちの「ウェアラブル」ではないんですよ。
実は80年代にもそういう今のウェアラブルのような流行りはありましたよね。例えばデータグローブ[★1]や、ヘッドマウントディスプレイ[★2]など……。そういうものを目の当たりにしつつ、そういう方向性じゃないと思いながら、「指パッチン木魚」のような100ボルトの電流スイッチを身体に装着し、重たいものを背負うような「メカニカルなウェアラブル」の方向に明和電機は進んでいきました。こういったウェアラブルは明らかに今の「デジタルなウェアラブル」とは流れが違うものなので、本当にこの企画は私たちで大丈夫なんですか?という気持ちがありました。
★1:手袋型のインターフェース用装置。人間の手の動きをデータ化してコンピュータに入力することが可能
★2:頭部に装着するディスプレイ装置で、ウェアラブルコンピュータの一つ。バーチャルリアリティ(VR)の先駆者アイバン・サザランドによって1968年に開発された
それでも大丈夫ということだったので、企画を考え始めました。大きなテーマは、トマトを走りながら食べさせるということですが、これはそもそも命題として「明らかに手で食べたほうがいい」ということがあるんですね(笑)。すでにその時点で僕の大好きな「ナンセンスマシーン」なので、作る動機が湧き出し、実際の制作に移りました。
――制作の過程で、トマトを背負って摂取する、というモデルはすぐに想像がついたんですか?
土佐:そうですね。まずは明和電機の製品づくりには決まってアイデア出しの段階があり、ブレスト的なものから始めます。最初はあまり何も決めずに、トマトを食べるとはどういうことか、どうやって食べるかということだけを考えてたくさんスケッチを描きます。
例えば、頭に浮かせてみてはどうか、風船で浮かせてトマトを飛ばせばいいんじゃないかだとか……。ウルトラマンのように頭からコロコロ転がってくるだとか……。顔につけたらどうなるかなんてことも考えました。
象の鼻みたいに掴んで口に運んでみるとどうか……なども考えました。その中で、肩に乗せてみればどうだろうかというのがあり、実はこれが最終的に今のアイデアにつながってきたんですね。
なんとなく当初の段階から、キャラクター性があったほうがいいんじゃないか、ということも考えていましたね。それはすごくキャッチーですし、明和電機は過去にも「オタマトーン」のような製品もありましたので、そういうイメージをもたせたウェアラブルをつくりたい、と思いました。
[2/6「納品前後は『エンジニアのトライアスロン』のようでした。」に続きます]
聞き手・構成:小原和也
1988年生まれ。慶応義塾大学大学院政策メディア研究科。株式会社ロフトワーク。
デザイン行為を支援するための発想方法の研究を行う。『ファッションは更新できるのか?会議』実行委員も務める。
(2015年2月19日、明和電機アトリエにて)
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