マンガを取り巻く現況を俯瞰し、マンガと人々がいかにして出会うことができるか。マンガナイト代表・山内康裕さんが連載コラム「マンガは拡張する」全10回の中で描いた構想を、第一線でマンガ界を盛り上げる人々に自らぶつけていく[対話編]。10人目のゲストは、リイド社で「トーチweb」の編集長を2014年8月の創刊から務める関谷武裕さん。近年マンガを扱うウェブマガジンが林立する中、劇画タッチの作品や時代劇コミックといったこれまでの同社のイメージを覆すようなコンセプトのウェブマガジンを立ち上げ、様々な仕掛けを試みる関谷さんが思い描くこれからの編集者像や未来のマンガについて語り合いました。
【以下からの続きです】
1/8:「いつかは自分と同じ年代の人に向けてモノを作りたいという想いは常に持っていました。」(2015年5月18日公開)
2/8:「独自のシステムで経済を回して、“イケてる”ウェブマガジンに。」(2015年5月18日公開)
3/8:「『売れてるのが正義』とは違うマンガのあり方を誰かが提示しなきゃいけない。」(2015年5月19日公開)
4/8:「スマホをいじるちょっとした時間で、どこまで遠くに行けるか。」(2015年5月20日公開)
5/8:「僕らは書店を這いずり回って、1冊の本を一生懸命売り続けていくしかない。」(2015年5月22日公開)
6/8:「マンガ家のマンガ以外の活動も一緒に見られたら。」(2015年5月22日公開)
「今ほしいもの」ではなく、未来を見据える編集がおもしろい
山内:トーチ編集部の年齢層はどのくらいなんですか?
関谷:僕が今32歳で、副編集長が33歳、その下にいるのが34歳、一番新しく入ってきたのが30歳ですね。リイド社の変わり者たちです。
山内:その辺の年代って、バブルの頃には子どもで自分自身はお金を持ってなかったけど、「なんか良かった」という感じが残っているから、ある意味楽観的なんですよね。もうちょっと下になるともっと考え方がシビアなんですよ。この世代って、「何とかなるじゃん」「何とか生きていける」っていう感覚を持ってる世代だから、つなぎ役としてはちょうどいい(笑)。
関谷:山内さん、そういうこと意識してるんですね!(笑)
山内:結構感じてますよ。その楽観的なところが、新しいものを生み出すところのトリガーになる気がしますね。経営の視点で言うと、「アダプティブ戦略」っていうのがあって、インターネットも含めて、今はマーケットリサーチがすぐできる時代ですよ、と。すぐできるんだから、ニーズに対して先を読むんじゃなくて、今あることを明日・明後日やるのがベストだっていう考え方なんです。それってベターな解決策だとは思うのですが、つまらない気もします。マンガ家さんとかって、半年後とか1年後、3年後を見据えた未来を今から考えるじゃないですか。アダプティブな考えでは、「今ほしいもの」しか出してくれないんですよ。そうじゃなくて、読者は気づいていない何かを見せてほしいと思っている。それを作れるのがこの年代だと思っています。編集者も「次世代」って言ってしまったところはそういう部分にあって、ただニーズを反映するんじゃなくて、先を見て、さっき関谷さんがおっしゃったような「自分のいいと思ったものは3年後ウケると思っている」みたいな、そういうのを出せる編集者さんが一番いいと思います。
関谷:編集者としてはやっぱり10年後にも残ってるものを作りたいと思うし、なるべく遠くにモノを投げたいっていう感覚があります。もう、「トーチ見て人生おかしくなった」っていう人が出てきてほしい(笑)。脱サラしました、みたいな。
山内:(笑)。怖いですね!
関谷:今、サラリーマンしながらマンガ家とかミュージシャンやってる人増えてきてますよね。それこそ脱サラなんかしなくても好きなことできるし、おかしくて愉快な人生は送れるはず……。
山内:僕は、それも「マンガ」というもののインフラ化かなって思ってて。「これだけで一生費やします」じゃなくても、マンガってもっと身近にあるものでいいんじゃないかって。
関谷:そうですよね。働きながらマンガ描いてもいいじゃん!っていう。そういう人が描くマンガがおもしろかったりするんですよね。やっぱマンガ家をやってるだけじゃ感じられない機微もありますし。そして僕は単純に、見たことないマンガがもっと見たい! 「トーチ」は兼業マンガ家さんの持ち込み大歓迎です(笑)。
[8/8「マンガが動いているのを見て、『未来だ』と衝撃を受けました。」に続きます](2015年5月26日公開)
聞き手・構成:二ッ屋絢子
(2015年4月27日、リイド社にて)
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