INTERVIEW

マンガは拡張する[対話編]

福田里香(お菓子研究家)×山内康裕:マンガは拡張する[対話編]
「マンガ家の『食』への思いはデビュー作にこそ表れる。」

マンガは拡張する対話編_11

マンガを取り巻く現況を俯瞰し、マンガと人々がいかにして出会うことができるか。マンガナイト代表・山内康裕さんが連載コラム「マンガは拡張する」全10回の中で描いた構想を、第一線でマンガ界を盛り上げる人々に自らぶつけていく[対話編]。11人目のゲストは、マンガを心から愛し、数々のマンガ作品をイメージしたお菓子のレシピ本『まんがキッチン』がロングセラーとなっているお菓子研究家、福田里香さん。「料理」という切り口でマンガの楽しみ方の新しい道を拓いた福田さんの視点から、マンガと料理の関係について語り倒します。

【下記からの続きです】
1/5:「お菓子を作ることでたぶんマンガを抽象化しているんですね、自分の中で。」
2/5:「『マンガ×食』のモチベーションとなるのは、食欲ではなくコンプリート欲。」
3/5:「暴力を料理に置き換え、技をウンチクに見立てるという発明。」

マンガ家の「食」への思いはデビュー作に表れる

山内:福田さんから見て、「この人はご飯好きだな」と思うマンガ家さんはいますか?

福田:オノ・ナツメさんとか、すばらしい。公式サイトにデビュー前のイラストも載ってますが、ものを食べているカットのなんと多いことか! そこを見込んで拙著の挿画をお願いしました。
 個人ブログは仕事じゃなくて自由なんだから、興味があるものしか描きませんよね。たとえば、バトルものが好きな人だったら決めポーズ、メカ好きはロボットばかり描くし、巨乳好きは巨乳が素敵に見えるポーズを描いている。「食べている」シーンを思いつく人って、食べることに萌えがあるんだと思います。

山内:なるほど。一枚絵を見るとわかりますね。

福田:あとはデビュー作を見るとわかります。デビュー作って、自分の一番の力を込めて描くものだから。「エースをねらえ!」のヒロイン・岡ひろみですよ! 誰もが一歩も動けないような一点、そこを“エース”と呼びます。そこを撃ち抜くんです、デビュー作では(笑)。そこに食べ物が入ってきたら「この人は好きなんだな!」って思います。

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 「進撃の巨人」(諫山創、講談社『別冊少年マガジン』にて2009年より連載中)なんかもそうですよね。

山内:「進撃の巨人」はすごく食べてますよね(笑)。

福田:最初から食べてます(笑)。諫山先生は「小さい人間が大きくなって変身する、ウルトラマンみたいなのがやりたかった」と話されているんです。でもそれだけだったら、もし他の人が描いていたとしても食べるシーンがない話を作っていたかもしれませんよね。
 それから羽海野チカさん。初連載「ハチミツとクローバー」でブレイクしたのですが、1話目の胆としてコロッケが出てきます。主人公のはぐちゃん(花本はぐみ)がコロッケをサクっと食べるところを見て、2人の男の子が恋に落ちるという重要なシーンです。他の作家が描いたら、ヒロインが水をかぶって下着が透けて見えて男の子がドキッ!っていうシーンになるかもしれません。

山内:(笑)。好きなものが重要なシーンに出てくる。なるほど。

福田:デビュー作にはすべてが出ると言いますが、それに気づいたのは先ほどもお話しした萩尾望都先生がきっかけですね、「ルルとミミ」。デビュー前、編集さんに「あなたのマンガには生活感がない」と言われ、「生活感を出すためにお菓子をいっぱい飛ばそう」と思いついたらしいんです。

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山内:生活に一番身近なものとして、思いついたのがお菓子だったんですね。

福田:それが作家性、その人なりの“エース”。編集さんの完全指導のもとに描かれたデビュー作はまた違うかもしれませんが。
 逆にマンガ家自身はそれほど食に興味がなかったのに、編集さんからテーマや原作を振られて後天的に大ヒット、というマンガもあると思いますよ。それこそ、「孤独のグルメ」、「花のズボラ飯」(久住昌之原作、水沢悦子作画/2009年より秋田書店『Eleganceイブ』にて連載)、「神の雫」とか原作ものはそうじゃないかな。原作・作画・編集者が化学反応を起こして名作が生まれる。

山内:マンガ家さんが本当に好きで描いているんだな、と感じるものと、課題を与えられて苦労して描いているなあ、と感じるものはありますね。僕はどちらかというと、苦労して描いているものが好きです。ラストに向かってストーリーが濃くなるというか、思いが詰まってくるのがわかります。

福田:どっちが良い・悪いではなくて、そういう作品を読むのが楽しい。料理は自然に描けてもメカは資料を見ながら描いているんだな、とか、おしゃれなジーンズのステッチの描き方ってあるんだなあ!と知ったり。マンガって、作者の痕跡を鑑賞できるんですよね。

5/5「マンガ読みにはマンガ読みの適性がある」に続きます

構成:石田童子
(2015年6月30日、マンガナイト事務所にて)

【福田里香さん関連イベント】

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「引っ越したKitで、秋のいちじく祭り」
福田里香 (軽食と菓子)+n100 +辻 和美(ガラス器)
タロー屋(パン)+田中美穂植物店(苗)+藤井果樹園(果実)
■日時:2015年9月11日(金)〜13日(日)
①12:00~13:30/②15:00~16:30
■場所:Kit 1F-2F(京都市上京区)
■料金:2300円(tasting figs plate + drink/電話かメールにて要予約)
◯詳細はこちら:http://kit-s.info/events/2608


PROFILEプロフィール (50音順)

山内康裕(やまうち・やすひろ)

マンガナイト/レインボーバード合同会社代表。 1979年生。法政大学イノベーションマネジメント研究科修了(MBA in accounting)。 2009年、マンガを介したコミュニケーションを生み出すユニット「マンガナイト」を結成し代表を務める。 また、2010年にはマンガ関連の企画会社「レインボーバード合同会社」を設立し、“マンガ”を軸に施設・展示・販促・商品等のコンテンツプロデュース・キュレーション・プランニング業務等を提供している。 主な実績は「立川まんがぱーく」「東京ワンピースタワー」「池袋シネマチ祭2014」「日本財団これも学習マンガだ!」等。 「さいとう・たかを劇画文化財団」理事、「国際文化都市整備機構」監事も務める。共著に『『ONE PIECE』に学ぶ最強ビジネスチームの作り方』(集英社)、『人生と勉強に効く学べるマンガ100冊』(文藝春秋)、『コルクを抜く』(ボイジャー)がある。http://manganight.net/

福田里香(ふくだ・りか)

福岡県生まれ。武蔵野美術大学卒。(株)新宿高野に勤務後、独立。 お菓子研究家として雑誌や書籍を中心に、フードのイベントなどでも幅広く活躍中。 主な著書に、マンガをイメージしたお菓子を作り、マンガとフードのエッセイを書き下ろした『まんがキッチン』(アスペクト/文春文庫)、『まんがキッチン おかわり』(太田出版)など。レシピ本には他にも『フレーバーウォーター』 『自分でつくるグラノーラ』(文化出版局)、『フードを包む』(柴田書店)、エッセイ本に『ゴロツキはいつも食卓を襲う フード理論とステレオタイプフード50』(太田出版)などがある。


PRODUCT関連商品

まんがキッチン おかわり

福田里香 (著), よしながふみ (イラスト)
大型本: 96ページ
出版社: 太田出版
発売日: 2014/5/29