マンガを取り巻く現況を俯瞰し、マンガと人々がいかにして出会うことができるか。マンガナイト代表・山内康裕さんが連載コラム「マンガは拡張する」全10回の中で描いた構想を、第一線でマンガ界を盛り上げる人々に自らぶつけていく[対話編]。10人目のゲストは、リイド社で「トーチweb」の編集長を2014年8月の創刊から務める関谷武裕さん。近年マンガを扱うウェブマガジンが林立する中、劇画タッチの作品や時代劇コミックといったこれまでの同社のイメージを覆すようなコンセプトのウェブマガジンを立ち上げ、様々な仕掛けを試みる関谷さんが思い描くこれからの編集者像や未来のマンガについて語り合いました。
【以下からの続きです】
1/8:「いつかは自分と同じ年代の人に向けてモノを作りたいという想いは常に持っていました。」(2015年5月18日公開)
「辺境の地」から革命を起こす!
山内:ターゲットとしている年齢層は、10代20代というよりは、30代くらいなんですか?
関谷:僕がこの企画を立ち上げたときがちょうど30歳くらいだったので、その前後5歳「25歳から35歳」あたり、昭和50〜60年代生まれのSNSを日常的に利用している方をターゲットにしています。実際、読者の半数以上が25歳から35歳で、次が下の世代、その次が上の世代という感じで推移しています。
山内:今の10代くらいの子が好きなマンガの絵ってやっぱりちょっと違いますよね。僕ら30歳前後の人たちが好きなマンガの絵と。
関谷:違いますね。「comico」とか見てても全然違うなって感じますし。
山内: 25〜35歳くらいの人たちって、王道のマンガを経た上で、それぞれ興味のあるマンガに行く年代でもありますよね。「オタク」とか「萌え」という方向性で行く人もいれば、サブカルチャーとかの文脈に行きたいと思っている人もいる。「トーチ」は後者に対して提供できているメディアなのかなって思いますが、そこでおそらく多くの人たちが壁に当たっているのが、「じゃあそういう人たちにどうやってお金を払ってもらうのか」っていう問題ですよね。
ある意味「オタク」のマーケットであれば、周辺グッズも含めて販売ができて、プレイヤーが少なくてもマーケットにしやすいと思うんですけど、こういうのが好きな人っていろんなことに興味があるから、お金が分散しちゃう。その場合のマネタイズはどう考えたらいいのか。プレイヤーは多いんだけど、払っている額が現実に少ないから、そういう人にどうやってお金を払いたいと思ってもらうのかが、次のステージなのかなって気がしますね。
関谷:そうですね。マネタイズに関しては紙での出版はもちろんですが、電子書籍化、グッズをはじめとする商品化、グッズを自社のECサイトで販売したり、イベントを打ったり、広告収入だったりと複合的に行おうと思っていました。立ち上げから3年で使う予算を決めて、3年で収益化していこうということだけ決めて……ただ実際はやってみないとわからないので「やりながら考える」というのが正直なところ。
それと新しい試みとして当初、「赤字額」というのを表示させてたんです。それはちょっと内部事情で表示ができなくなってしまったんですけど(笑)。
山内:黒字になったのかなって思ってました(笑)。
関谷:(笑)。あれもコンテンツの1つだと思っていて、「ライフネット生命保険」さんが、保険金額の内訳をきちんと開示して、「何故この金額に設定されているのか」という内情を全部さらけ出して顧客を得たっていう話を参考にしたんです。
「この雑誌にいくらかかっているか」なんて読者には実際わからないじゃないですか。実際、雑誌って全然儲かってないし、大体どこも赤字で推移していると思うんですけど。そういった内情をもうちょっとオープンにしてもいいんじゃないのかなって。雑誌がどうやって作られて、単行本化とか商品化されて、経済が回っているのか。それを読者の方と共有したかったんです。
お金をどうやって落としてもらうのかというところは、そもそもバジェットが小さい企画ですし、僕はこの「トーチ」というサイトでめちゃくちゃ儲かろうとは思ってないんです。こんなこと言ったら会社に怒られるかな……(笑)。作家さんと、読者と、僕らの会社が、普通に生活できればいいというか。うまく経済として回っている仕組みができればOK。
その仕組みが上手くデザインできれば、次にもう少し大きいバジェットで作るときにも応用できますし、今はテストパターンのような状況で会社からやらせてもらっているところですね。
僕らは立ち上げのときに、ミシマ社さんとかを参考にしてたんです。あそこって他の出版社とはまったく違う方法で運営してて、すごく「イケてる」と思うんですよ。何がイケてると感じさせるかっていうと、独自システムで経済が回っている状況です。「トーチ」は「イケてるウェブマガジンにしよう」というのが合言葉。作品に関しても、その人の独自の手法でマンガが構成されていて、なおかつ人におもしろさが伝わってるって状況イケてるよねっていう考え方で編集してます。革命は誰も思ってもいないような辺境から常に起こるんだって信じています。
[3/8「『売れてるのが正義』とは違うマンガのあり方を誰かが提示しなきゃいけない。」に続きます](2015年5月19日公開)
聞き手・構成:二ッ屋絢子
(2015年4月27日、リイド社にて)
COMMENTSこの記事に対するコメント