マンガを取り巻く現況を俯瞰し、マンガと人々がいかにして出会うことができるか。マンガナイト代表・山内康裕さんが連載コラム「マンガは拡張する」全10回の中で描いた構想を、第一線でマンガ界を盛り上げる人々に自らぶつけていく[対話編]。11人目のゲストは、マンガを心から愛し、数々のマンガ作品をイメージしたお菓子のレシピ本『まんがキッチン』がロングセラーとなっているお菓子研究家、福田里香さん。「料理」という切り口でマンガの楽しみ方の新しい道を拓いた福田さんの視点から、マンガと料理の関係について語り倒します。
【下記からの続きです】
1/5:「お菓子を作ることでたぶんマンガを抽象化しているんですね、自分の中で。」
モチベーションは食欲ではなくてコンプリート欲
山内:料理研究家でマンガ好きな人ってどのくらいいるんですか?
福田:同世代ではほとんどいないと思います。料理研究家さんとは、同人誌レベルのマンガの話をしたことがありません。
山内:そうですか。だから食とマンガをつなげる人がいなかったのかな。世の中的に求められているのもあって生まれたカテゴリーですよね。
福田:求められているかどうかはわからないですが。
山内:マンガ読みは求めていましたよ。マンガに出てくるご飯はもちろんのこと、久井諒子先生の「ダンジョン飯」(KADOKAWA)は今年の上半期に発売された初巻で最も売れた作品ですし。
福田:「ダンジョン飯」はおもしろい! 今年は年に1度の『装苑』フードまんが特集(6月号)に本作を選びました。
山内:昔あった、料理バトルの中のトンデモ料理とは別の文脈で、だんだんとマンガの「食」が現実に近づいてきていますね。
福田:20年以上前の「クッキングパパ」(うえやまとち/講談社)の22巻に出てきた「おにぎらず」(※) が、今年に入って大ブレイクとかね。すごいですよね、一周回ってリアルで盛り上がって。
※「クッキングパパ」の第213話「超簡単おにぎり おにぎらず」(1991年発売の第22巻収録)に登場したレシピ。広げた海苔の上にご飯と具を乗せて包むだけでできる簡単レシピとして、2014年末ごろから「クックパッド」などのレシピ投稿サイトでの人気が急浮上し、レシピ本も相次いで発売されている。
山内:リアルの場所での「マンガ×食」というと、最近、期間限定のマンガがテーマのカフェなどが増えているじゃないですか。
福田:はい、ありますね。
山内:「マンガ×食」を大きく分けると3つのパターンがあって、
(1)作中の食べ物をそのまま再現したもの
(2)キャラ弁的なもの
(3)フードメニューにキャラクターの名前をつけたりして、連想させるものなど
と分けられると思っているんですが、この中だと福田さんはどれに納得感がありますか?
福田:答えが少しずれますが、基本的には、欲の問題だと思うんですよ。
たぶん、食欲じゃなくてコンプリート欲なんですよね。たとえば、マンガがアニメになったらアニメも見るし、声優さんも好きになるし、舞台になったら観に行って、グッズが出たら買って、コスプレをして、聖地巡礼に行って。
これらはほぼ視覚とか聴覚とか身体的なものなんですが、そこに味覚も加えられるんじゃないかということだと思うんですよね。五感で楽しみたい。作品すべてを自分のものにするために、自分に取り込むことが目的で。
その場合は「おなかが空いているから食べるもの」ということではないと思うんです。もちろん味はいい方がいいけど、たぶん大事なのはそこではなくて、どれだけ作品と密接なものになっているかが求められている気がします。
山内:作る方に愛があるかないかは、ファンにはバレますよね。
福田:はい。作品ファンから言えば、付け焼き刃ではなくきちんと考えて作ってほしいですよね。
あと、先ほどの3つに加えて、「その場で消費するもの」と「お土産タイプ」のもの。また少し分かれますね。
山内:それを聞いて、まずイメージするのは藤子・F・不二雄ミュージアム(川崎市)の「アンキパン」のラスク。ファンも喜ぶし、価格的にもお土産にしやすいですよね。
そして最近は、「神の雫」(亜樹直原作、オキモト・シュウ作画/講談社)みたいに、ワインやコーヒーなどの実際にためになる食の知識を主軸に置いたマンガが増えてきていますね。そういう意味で、食の新しい分野と連鎖するような機能を持つマンガのバリエーションが増えてきていると思っています。マンガにも、「知ってもらう」という新しい機能があるな、と。
出るべくして出てきた[マンガ×食]のプロダクト
山内:マンガの擬音が描いてあって、マンガの一コマに見立てているお皿(※編集部注:プロダクトブランド「Comicalu」による「マンガ皿」など)もときどき見かけますよね。あれはどう思いますか?
福田:出るべくして出てきたって感じですよね(笑)。「集中線つきで『ジャーン!』って出されるものは美味しい」っていう、刷り込みが完了したってことですもんね。もともと、お皿って食べ物を美味しく見せるために花柄などで美しく飾るものですけども。
山内:これで出てくれば、マンガ世代にはこれがメインディッシュだな、と伝わりますよね。
福田:おっしゃる通りです。もちろん、ギャグでポップなニュアンスになるけど、もはや花柄よりこっちのほうがおいしく見える、という一定数の評価を得るような時代だと感じます。
[3/5「暴力を料理に置き換え、技をウンチクに見立てるという発明。」に続きます]
(2015年8月26日更新)
構成:石田童子
(2015年6月30日、マンガナイト事務所にて)
「引っ越したKitで、秋のいちじく祭り」
福田里香 (軽食と菓子)+n100 +辻 和美(ガラス器)
タロー屋(パン)+田中美穂植物店(苗)+藤井果樹園(果実)
■日時:2015年9月11日(金)〜13日(日)
①12:00~13:30/②15:00~16:30
■場所:Kit 1F-2F(京都市上京区)
■料金:2300円(tasting figs plate + drink/電話かメールにて要予約)
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