マンガを取り巻く現況を俯瞰し、マンガと人々がいかにして出会うことができるか。マンガナイト代表・山内康裕さんが連載コラム「マンガは拡張する」全10回の中で描いた構想を、第一線でマンガ界を盛り上げる人々に自らぶつけていく[対話編]の6人目のゲストは、株式会社SCRAP代表取締役の加藤隆生さん。「リアル脱出ゲーム」という大きな器の中で、「新世紀エヴァンゲリオン」「ワンピース」「進撃の巨人」「名探偵コナン」など出版社を問わずさまざまなマンガ・アニメ作品と次々とコラボした公演を制作し、その動員数は年々増え続けています。それぞれの作品の魅力を最大限に引き出し、リアルの場での新感覚の体験に再構築していくプロに、マンガ制作サイドや作品そのものとの距離感、そしてこれから先のリアルの場での作品体験の可能性を伺ってきました。
【以下からの続きです】
1/6「『リアル脱出ゲーム』はほとんどの作品に対応できるハードなんです。」
2/6「世の中は出会いに左右されている。」
3/6「新しく作るより、既にあるものを書き換える。」
4/6「コスプレも、物語の装置になる。」
5/6「読んで終わりではなく、もっとリアルなものにしたかった。」
「未来永劫残る」作品とそうでない作品の違いは?
加藤:僕が今までのマンガイベントに行って思うのは、50年以上前に生まれたキャラクターで作ったディズニーランドがこんなに流行っているのに、今の日本のコンテンツは何をやっているんだろう、ということなんですよ(笑)。基準はいろいろあると思いますが、最近であれば「ディズニー」や「ハリーポッター」よりも「ワンピース」や「進撃の巨人」のほうが売れた作品だと言えるんじゃないか、それならディズニーランドのようなものが日本のマンガでもできるんじゃないか、と思います。それなのに、子どもが楽しめる「ワンピース」のイベントはあっても、僕らのような大人が何度も通って楽しめるような場所というイメージは湧かない。それはみんながマンガに対して「一過性のもの」だと思っていることに原因があるんじゃないかと思うんですよ。「ミッキー・マウスは未来永劫残る」という共通認識があると思うんだけど、「ワンピース」は「“今は”流行っているよね」という感覚がある気がして。どんなにワンピースが流行っていても、みんなどこかで次のマンガに乗り換える準備をしている。もちろんビジネスとして次々と新しいものを作っていく必要もあるんだけど、一度「ワンピース」や、あるいは「ドラゴンボール」などのマンガで未来永劫続くテーマパークが作れないのか。そういうことを考えてもいいと思いますね。
山内:鳥取県境港市に「水木しげるロード」がありますよね。水木しげるさんの作品って、NHKで2008年に「ゲゲゲの女房」が放送されて、その時期にすごく注目を集めたんですが、「水木しげるロード」は今でも集客が伸びているそうで、どうやら日本人の意識の中で「ゲゲゲの鬼太郎」は既に未来永劫続くものになっているんだと思います。どうやってその段階に持っていくか、ということなんでしょうね。例えば「ドラゴンボール」は良い事例になるかもしれません。連載が1995年に終了してからもアニメやゲーム、映画になって今でもみんなが見に行くコンテンツになっています。
加藤:僕はやっぱり“幸福な出会い”がないだけだと思います。僕も含めてですが、「ドラゴンボール」や「ワンピース」というコンテンツを使って上質なアトラクション作ることができる人との幸福な出会いがまだない。お金をかければいい、という問題でもないし、そういうきっかけが必要なんだと思います。
体中で物語を読むメディアを作る
山内:出版社の雑誌自体は一つのブランドでもあるので、その雑誌レーベルのもとでリアルな場が作られるとうまくいくのかな、と思います。僕はそういう場とリアル脱出ゲームの相性がすごく良いと思うんですよ。
加藤:企画もハードですから、「リアル脱出ゲーム」というハードとマンガとの相性が良かったんだと思います。あとはコーディネーターがいるかどうか、でしょうか。いろんな要素をトータルでコーディネートできる人がいないとうまくいかないし、それができる人はまだ少ないと思います。そういう意味では株式会社コルクの佐渡島庸平さんがやろうとしているエージェントシステムなどには可能性を感じます。彼のやろうとしていることが成功するかどうかは、今後のマンガ業界の一つの分かれ目になる気がします。
山内:出版社の垣根を超えることも大事ですね。
加藤:それで言うと、うちは本当に節操ないですからね。この前は「進撃の巨人」(講談社)と「ワンピース」(集英社)と「名探偵コナン」(小学館)と「DEATH NOTE」(集英社)がリアル脱出ゲームのパンフレットの同じページに並びましたから(笑)。
山内:本当に垣根がないですね(笑)。
既にさまざまコラボ企画がある中で、SCRAPとして今後やっていきたい企画はありますか。
加藤:僕らはもともと「謎」を作っている会社でもゲームを作っている会社でもなくて、「物語にどうしたら入り込めるか」を考えている会社なんですね。既存の紙や映像メディアでもない、「場所」自体で物語を体感する。体中で物語を読むメディアを作ることが目的です。だからそのコンセプトに一致するならデバイスでも映画でもテレビでも、何でも使うし、イベントという形態にこだわっているわけでもないんです。リアル脱出ゲームでは、「イベントを通じて体中で物語を読む」というメディアを作ったわけですが、別の物語体験の可能性もあると思います。そういう意味では、いろいろなことを試しながら、これだったらできる/できない、というトライアンドエラーを続けていくのかなと思います。
山内:僕もマンガの場づくりの実例として、一リアル脱出ゲームファンとしても次の企画に期待しています。今日はありがとうございました!
[マンガは拡張する[対話編]06:加藤隆生(株式会社SCRAP代表) 了]
構成:松井祐輔
(2014年12月2日、株式会社SCRAPにて)
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