「戯曲にはふたつの価値があると思います。ひとつは読み物としての価値。そしてもうひとつは新しい演劇を生み出すという価値。過去の戯曲が未来の演劇のかてになる。その機会は多い方がいい。そんな考えから戯曲を公開してみることにしました。自由に読んでください。」――柴幸男さんが主宰する劇団「ままごと」が昨年より始めた「戯曲公開プロジェクト」のページの冒頭にはこうあります。演劇界の芥川賞とも称される岸田國士戯曲賞を2010年に『わが星』で受賞した柴幸男さんが今、自らの戯曲を無料公開する理由とは? 多くの人にとって馴染みの薄い「戯曲」という文学の1ジャンルの受容のされ方は今後どうなっていくのか? DOTPLACE編集長の内沼晋太郎が聞き手となり、出版・本(ホン)という視点からこのプロジェクトについて伺いました。
世に広まらないと上演されない
——柴さんが主宰されている劇団「ままごと」では、ご自身のサイト内で「戯曲公開プロジェクト」という試みをはじめられたということで、それに関してのインタビューを読ませていただきました。
柴幸男(以下、柴):小劇場レビューマガジン「ワンダーランド」という、演劇を好きな人が訪れるサイトのインタビューですね。
ままごと「戯曲公開プロジェクト」をめぐるインタビュー(1) – ワンダーランド
ままごと「戯曲公開プロジェクト」をめぐるインタビュー(2) – ワンダーランド
——すごくいいインタビューで、重要なことはほとんどそこで語られてると思いますが、改めて伺いたいのは、通常、出版社から出版されるか、劇団が自費出版するかしない限り世に出ない戯曲を、無料でネットで公開するとはいったいどういうことなのか、ということです。演劇でも「ホン」と呼ばれるところの戯曲のことを、本、出版という観点でお伺いしたいと思います。
柴:僕は劇作家としても、演出家としても活動しています。劇作家によっては、自分が上演するため、もしくは依頼者のためだけに戯曲を書いていて、他の人に上演して欲しくないという方もいます。そこに良い悪いはないんですが、僕はどちらかというといろんな人にできるだけ多く上演してほしいという考えを持っています。それは、感情的にもそうですし、自分の公演と比べると高額ではないですが(上演料として)お金をもらえるという単純な理由もあります。なので、上演したい人たちには、上演する機会を持ってほしいと思っていました。
僕は高校の演劇部から演劇を始めて今に至るんですけど、自分が高校生の時は、演劇部に置いてある戯曲の本を読んだり、全部を買うほどのお金がなかったので本屋さんの戯曲のコーナーで立ち読みしていた記憶があるんですが、そうやって本と出会うわけです。自分の戯曲で言えば、岸田國士戯曲賞をいただいた『わが星』と、『あゆみ』が書籍化されたんですが、それ以外はどうやったら書籍化されるのか、声がかかるのを待つしかないのかな、という疑問がありました。つまり、書籍化されないと世に広まらない、世に広まらないと上演されない、待っているだけじゃ誰も上演してくれないんです。戯曲は印刷・製本して、上演会場で同人誌的に手売りもするんですが、会場に来た人しか買えない。だったらインターネットで公開しようと。最初は無料か有料か悩んだんですけど、1回読んでいくらということより、上演される回数を増やすことをなにより優先しようと考えた結果、無料にしようということにしました。
——読まれることでお金をもらうよりも、上演されることでお金をもらおうということですね。
柴:はい。それに戯曲は、読み慣れてない人にとっては難しいものなので触れられる機会を増やしたかったのと、演劇が好きな人が読みに来てくれれば宣伝にもなるかなというのはあります。
高校生にとっての戯曲選びの現在
——前述のインタビューではじめて知ったんですけど、「はりこのトラの穴」(脚本登録&公開サイト)というサイトがあって、演劇をやってる高校生はみんなまずあそこへ行くというお話ですが、インターネット以前は書籍になっている戯曲から上演作品を選ぶのが普通だったんですか。
柴:プロの劇作家が書いて出版された本や、高校演劇用に短い劇を集めた本、あとは過去に高校演劇で上演されて評価が高かった台本集というのがあります。その中から見つけるか、先生が書くか、生徒が書くか。
——「はりこのトラの穴」で、一番多く上演されているものが数年で300回を超えているということに、結構びっくりしたんですけど、こういうサイトではなく、ご自身のサイトで無料公開しようとお考えになったのには理由がありますか。
柴:一応、戯曲賞をいただいてプロとしてやってる身としては、ちょっと違う場がいいなと。自分でその場を作ってもいいし、劇団で公開するのもいいなと。無料でラインナップの一つになるというよりも、劇団としての活動の一つなんだというふうに見てほしかったので、自分たちのサイトで公開することにしました。
——なるほど。今後どこかプラットフォーム的なところに出すことは考えていますか。例えば、Amazonの「Kindleダイレクト・パブリッシング」(KDP)のような、自分たちで電子出版できるようなところに。
柴:人手がなくてやっていないですが、別のプラットフォームでも公開していけたらいいなと思っています。
無料公開を始めてから
——今無料公開から5ヶ月くらい経って(2014年11月時点)、反響はどうですか?
柴:上演機会が僕の体感では2倍くらい、過去と比べるとすごく増えてきていると思います。
——学校の演劇部とかが多いですか。
柴:多いですね。高校の部活、大学のサークルが一気に増えました。あとは地方の劇団、韓国の劇団もあります。
——細かい話なんですけど、戯曲そのものの出版の権利と、上演をする権利って別なんだということを初めて知ったんですが、上演権が2年か3年くらい公演の主催者側にある時があるんですか。
柴:ありますね。他で上演してほしくない場合、そうすることがあります。
——上演権は、通常、劇団が持っているものなんですか。
柴:契約次第なんですけど、(ままごと以外の)劇団から依頼されて書き下ろした台本を、明日からでも僕が上演していいのか、その劇団でしか3年間は上演できないのか。特に公共の劇場だと2年3年と契約書の中に盛り込まれて、例えば、戯曲賞を取った作品は、3年間その財団だけが上演権を持つということはありますね。そうなると作者も上演できないことが多いです。
[2/10「『わが星』が岸田國士戯曲賞をもらって、戯曲について考える責任があると思うようになりました。」へ続きます]
聞き手:内沼晋太郎(numabooks) / 構成:長池千秋 / 編集協力:鈴木恵理、細貝太伊朗
(2014年11月3日、RAILSIDEにて)
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