マンガを取り巻く現況を俯瞰し、マンガと人々がいかにして出会うことができるか。マンガナイト代表・山内康裕さんが連載コラム「マンガは拡張する」全10回の中で描いた構想を、第一線でマンガ界を盛り上げる人々に自らぶつけていく[対話編]の6人目のゲストは、株式会社SCRAP代表取締役の加藤隆生さん。「リアル脱出ゲーム」という大きな器の中で、「新世紀エヴァンゲリオン」「ワンピース」「進撃の巨人」「名探偵コナン」など出版社を問わずさまざまなマンガ・アニメ作品と次々とコラボした公演を制作し、その動員数は年々増え続けています。それぞれの作品の魅力を最大限に引き出し、リアルの場での新感覚の体験に再構築していくプロに、マンガ制作サイドや作品そのものとの距離感、そしてこれから先のリアルの場での作品体験の可能性を伺ってきました。
【以下からの続きです】
1/6「『リアル脱出ゲーム』はほとんどの作品に対応できるハードなんです。」
2/6「世の中は出会いに左右されている。」
場所の意味を書き換える仕事
山内:僕は東京ドームシティ アトラクションズで行われたエヴァンゲリオンの公演(「消えたパイロットの謎」、2012年)に参加したんですが、あれは衝撃でした。僕は男友達とも行ったんですが、普段って男友達と遊園地なんて行かないじゃないですか(笑)。でもその公演のときはすごく楽しく過ごせたんです。謎解きにアトラクションが必要になっていて、遊園地自体も楽しめる構成になっていたんですよね。同じような方もたくさんいて、みなさん長時間、遊園地を楽しんでいるんですよ。普段は行かないような場所に違った文脈で行く機会が生まれて、その場所自体の楽しさも体験できる。それってすごいことだな、と。
加藤:僕らの仕事は場を“作る”ことではないと思っているんです。“作る”というより“書き換える”。世の中には新しいことを作る人はたくさんいるんですが、“既にある場所の意味を書き換える、価値を書き換える”ということは意外とやられていなくて。例えば「リニューアルオープン」と言っても見た目が変わっただけだったりして、意味自体が書き換わっていることが少ないんです。そうじゃなくて「意味を書き換えるダイナミズム」みたいなものが僕らの企画はある。そこを理解して仕事をさせていただける方とはいい仕事ができるし、結果も出ますね。その東京ドームシティアトラクションズでのエヴァンゲリオン企画は大成功でした。
山内:“意味を書き換える”という発想は面白いですね。昔はコミュニティ育成には場所・ハコモノが必要だったのが、今ではコンテンツが重要になってきている。それでもプレーンな場所にコンテンツを持ってくるというやり方が普通ですよね。例えばコミックマーケットは「東京ビックサイト」というプレーンな場所に「コミックマーケット」というコンテンツを持って来ている。でもSCRAPさんは、既にコンテンツを持っている場所の良さを活かしながら、その意味を書き換えている。それは新しい形ですよね。イベントってある意味では「お祭り」で、その時だけハレの日になる。でも場所の書き換えであれば、書き換える前の場所のポテンシャルも再考できるかもしない。お祭りももともと近所のお祭りとか、日常の空間をハレの日にするものですから、SCRAPさんのやっていることって日本人の根幹に立ち返っているのかな、とも思いますね。
加藤:そうかもしれないですね。脱出ゲームって日本と海外ではお客さんの受け取り方がちょっと違うんです。海外で僕らのフォロワーになってくれる人たちは、大規模なイベントじゃなくて、小さなお店を作るんです。その小さなお店をディープに作り込んでいるんですよ。それはそれで流行っているんだけど、遊園地のような大きな場所では誰もやらないんです。なぜかと言うと、お金がかかるから。それと、大規模な空間では受け入れられないと思われているようなんです。でも僕らは「この遊園地が呪われています!」とか、「悪の手先が!」とか平気で言ってしまって、「いつもの遊園地を異空間にする方法」を知っている。普通に来ているお客さんに迷惑がかからないように「この爆弾を、何も知らない普通のお客さんに気づかれないように解除しろ」みたいな、一見空気を壊しかねない指示もしてしまう。それを日本人は受け入れてくれることを学んでいるんです。でも海外では受け入れてもらえないと思われているし、やろうとする人もまだ少ない。回数を重ねて行く中で受け入れてくれる人も増えてきた印象ですが、気質の違いを感じましたね。
[4/6「コスプレも、物語の装置になる。」 へ続きます]
構成:松井祐輔
(2014年12月2日、株式会社SCRAPにて)
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