INTERVIEW

マンガは拡張する[対話編]

マンガは拡張する[対話編]
加藤隆生(株式会社SCRAP代表)×山内康裕 5/6「読んで終わりではなく、もっとリアルなものにしたかった。」

マンガは拡張する対話編_加藤

マンガを取り巻く現況を俯瞰し、マンガと人々がいかにして出会うことができるか。マンガナイト代表・山内康裕さんが連載コラム「マンガは拡張する」全10回の中で描いた構想を、第一線でマンガ界を盛り上げる人々に自らぶつけていく[対話編]の6人目のゲストは、株式会社SCRAP代表取締役の加藤隆生さん。「リアル脱出ゲーム」という大きな器の中で、「新世紀エヴァンゲリオン」「ワンピース」「進撃の巨人」「名探偵コナン」など出版社を問わずさまざまなマンガ・アニメ作品と次々とコラボした公演を制作し、その動員数は年々増え続けています。それぞれの作品の魅力を最大限に引き出し、リアルの場での新感覚の体験に再構築していくプロに、マンガ制作サイドや作品そのものとの距離感、そしてこれから先のリアルの場での作品体験の可能性を伺ってきました。

【以下からの続きです】
1/6「『リアル脱出ゲーム』はほとんどの作品に対応できるハードなんです。」
2/6「世の中は出会いに左右されている。」
3/6「新しく作るより、既にあるものを書き換える。」
4/6「コスプレも、物語の装置になる。」

未来に続くマンガの「場」とは

山内:SCRAPさんはもともとフリーペーパーを作られている団体でした。そもそも、脱出ゲームを始めたきっかけはなんだったんでしょうか。

加藤:そもそもずっと、物語の中に入りたいと思っていたんです。マンガを読んで面白かったから終わりじゃなくて、もっとリアルなものにしたかった。「ドラえもんってどうやったらうちに来てくれるんだろう」と思って、机の引き出しを綺麗にしたり、押し入れのある部屋を自分の部屋に選んだり。いつか運命的な出会いがあって、冒険が始まるんじゃないかと妄想したり。そういう経験って大抵の子どもはありますよね。でも大人になってもドラえもんは来ないし、空から女の子も降ってこない(笑)。なんとかマンガの世界に入り込めないかなとずっと思い続けていて、そこで脱出ゲームに出会ったんです。僕も脱出ゲーム自体はもともと知っていたんですが、あるときフリーペーパーの企画会議で「脱出ゲームはどうか」という意見が出たんですよ。「あれ楽しいんですよ」「俺もやってるよ。楽しいよね」なんて話している中でハッと気づいたんです。「脱出ゲームをリアルな空間でやれば今まで考えてきたことが全部うまくいく」、と。それに気付いた瞬間の衝撃は今でも覚えていますね。僕らはフリーペーパーを発行するとき必ずイベントもするようにしていたんです。だから「脱出ゲーム」がテーマの号(『SCRAP』第19号/特集「出口の見えない人生に、“脱出ゲーム”はいかがかしら?」、2007年8月発行)のときにイベントとしてリアル脱出ゲームをやったんです。企画のときから手応えがあって、「これはいける。100人は集まるな」と思いましたね(笑)。

山内:それが今や年間100万人規模に(笑)。実際に開催してみて、今のような規模になることは想像できましたか。
 
加藤:「どこまで広がっていくかわからないな」とは思いました。すごく可能性を感じて、アイデアもたくさん浮かんできて。例えばゲストハウスやショールームでやったらもっと面白いんじゃないか、とか。実際にイベント翌日、ショールームを持っている会社に問い合わせもしたんですよ。他にも、劇場やライブハウスならどうかな、言葉が関係ないから海外でもできるな、とか。一回やったときにそのくらいは思いついていましたね。そりゃ、年間100万人も来るようなものになるとは思ってなかったけど、100人のイメージが500人くらいにはなったかな(笑)。とにかくどうなるかわからない、理論上はどこまでも広がる企画だと感じました。

山内:僕のマンガナイトの活動ももともと「リアルな場」の可能性を感じて始めたんです。マンガって、Amazonのレビューなどのウェブ上でのリコメンドはたくさんあるんですが、それはそれでいいんだけど、対面で勧められた方が読みたくなるんじゃないか。そう思ってマンガの読書会から始めたんです。それからだんだん50人くらいは集まるようになっていった。僕もその中で、マンガは一人で読むものじゃなくてみんなで読む、コミュニケーションのツールとしても可能性があると感じて、読書会から発展したイベントやワークショップをするようになっていきました。
 そんな中で最近考えているのは「常設」の場所の可能性です。マンガってイベントは多いんですが、常設の場所は少ないんですよね。お祭りとしてのイベントも重要なんですが、それをつなぐものとして常設の場所があるともっといいんじゃないか。アニメやマンガに関する“いつもある「場」”は、雑誌にとどまらない。これからはリアルな場所に可能性があると思っています。

6/6「みんながマンガを『一過性のもの』だと思っている。」 へ続きます]

構成:松井祐輔
(2014年12月2日、株式会社SCRAPにて)


PROFILEプロフィール (50音順)

加藤隆生(かとう・たかお)

1974年岐阜県生まれ、京都府育ち。同志社大学心理学部卒。バンド「ロボピッチャー」のギターボーカル。2004年にフリーペーパー「SCRAP」創刊。08年、株式会社SCRAP設立。誌面と連動したイベント企画のひとつとして開催したリアル脱出ゲームが好評を博し拡大化する。教室やマンションの1室から夜の遊園地、東京ドームなど幅広い場所に謎を仕込む。2014年までに世界中で120万人以上を動員した。

山内康裕(やまうち・やすひろ)

マンガナイト/レインボーバード合同会社代表。 1979年生。法政大学イノベーションマネジメント研究科修了(MBA in accounting)。 2009年、マンガを介したコミュニケーションを生み出すユニット「マンガナイト」を結成し代表を務める。 また、2010年にはマンガ関連の企画会社「レインボーバード合同会社」を設立し、“マンガ”を軸に施設・展示・販促・商品等のコンテンツプロデュース・キュレーション・プランニング業務等を提供している。 主な実績は「立川まんがぱーく」「東京ワンピースタワー」「池袋シネマチ祭2014」「日本財団これも学習マンガだ!」等。 「さいとう・たかを劇画文化財団」理事、「国際文化都市整備機構」監事も務める。共著に『『ONE PIECE』に学ぶ最強ビジネスチームの作り方』(集英社)、『人生と勉強に効く学べるマンガ100冊』(文藝春秋)、『コルクを抜く』(ボイジャー)がある。http://manganight.net/