COLUMN

クレイグ・モド ぼくらの時代の本

クレイグ・モド ぼくらの時代の本
第5回 本をプラットフォームに ――電子版『Art Space Tokyo』製作記(前編)

craig_banner05Illustration:Luis Mendo

そう遠くない昔、出版界にKindleの火がまだつかず、EPUBといえばイースト・ロンドンのパブか何かで、Mobiといえば白鯨モビー・ディックか何かだと思われていた頃、ぼくたちは紙の束を持ち歩き、表紙を電車の乗客にさらしていた。その頃は、若い女の子たちがブログで熱狂したヴァンパイアの物語もまだ出版界の寵児とはなっておらず、イギリスの主婦たちも『トワイライト』の二次創作の虜になる前で、FlipboardもZiteもなく、自費出版もなかった(訳注:Flipboard、ziteはネット上のコンテンツを取り込んで雑誌のようなレイアウトで閲覧できるキュレーションアプリ)。ところが2010年、iPadが現れるとぼくたち——アシュレイ・ローリングスとぼく——は『Art Space Tokyo』という本に再び命を与えるべくクラウドファンディングサイトKickstarter(キックスターター)で出資を募り、そこからあらゆる変化が起こっていった(神様ありがとう!)。

ぼくたちがKickstarterで出資を募り始めた頃、2万5千ドルを集めるというのはずいぶん大変なことだった。今では10万ドル集められない人はもはや何者でもなく、100万ドル集められなければブログにだって書けやしない。クラウドファンディングは希望の星となったが、電子出版もまた、ニッチな産業ではなく本の主な流通経路となっていくだろう ★1 。クラウドファンディングによって、ものづくりが変化していくのは容易に想像できるが、出版へ与える影響やその功罪を判断することは簡単ではない。

プラットフォーム

この2年間でシンプルかつ動かしようのない事実が明らかになった。それは、本の未来がネットワーク化されたプラットフォームの上に成り立つ、という事実である。隔絶された島々の上に成り立つのではない。インターフェース、操作性、タイポグラフィといった表面上の進化だけでなく、プラットフォームは私たちの読み方も進化させる。プラットフォームは生産、消費、流通のシステムを生み出すが、こうした大きな変化は電子本を舞台に起きていて、電子出版はすべてこのシステムの内部で行われている。完成後の本と出版 ★2 は、ただ単にスクリーン上の文字のことだけを指すのではない。

Kickstarterのプロジェクトの一環として、ぼくたちは『Art Space Tokyo』の電子版を出版することを約束していた。そして今日、ついにその約束を果たすことができる。そこで、単にデータを売りつけて逃げ去るよりも、電子版出版までの過程を包み隠さず共有したいと思う(ほんとは嫌だけど)。

プラットフォームを視野に入れつつ、そしてこの2年間を振り返りつつ、今日にまで至った過程を説明してみたい。

『Art Space Tokyo』電子版

ぼくたちが出版する『Art Space Tokyo』電子版はマルチプラットフォーム対応、あらゆるフォーマットで読むことができる訳だが、プラットフォームは大きく2つのエコシステムに分けることができる。

・オープン(ウェブ)
・クローズド(iBooks、Kindle、その他Eリーダー)

ウェブ

『Art Space Tokyo』にはアクセス可能な住まいが必要だった。すべてのコンテンツにはオンライン上の公のアドレスが必要だった。ぼくたちはその住まいをhttp://artspacetokyo.comに決めた。本のすべての内容はここにある。インタビューも、エッセイも、アート・スペースの情報も。すべてのものがアドレスを持っていて、ぼくたちはそれを指し示すことができる。

どうしてそんなことをする必要があるのか。それはぼくが、公の終着地点があることは電子本にとって有益だと強く信じているからだ。今の世代のリーダー(デバイスではなく人間)は、テキスト共有への期待を膨らませているのだから、共有できない電子テキストは —— つまり、アクセスできない電子テキストは —— この世に存在していないに等しい。それは言い過ぎにしても、関心を引くことは少ない ★3

ぼくはまた、オンライン上にすべてのコンテンツを置くことによって、電子の本も紙の本もより売れるようになると信じている。コンテンツを公開していると、自サイトへのリンク数は飛躍的に増えていく。http://read.artspacetokyo.comは、東京のアート界についての記事をオンラインで公開している英語サイトとしては最大規模のものだろう。オーガニック検索(自然検索)でサイトを訪れる人の数も次第に増えていき、すべてのページから他の商品も購入できるようにしておくことで、商品購入者の数もまた増えていく。そしてそれらの数は随時ぼくのもとに報告される。

テキストの集積は「本」と呼ばれているが、だからと言ってウェブサイトのように機能しない、という訳ではない。http://read.artspacetokyo.comのサイト上では、紙の本のような固定されたレイアウトをあえて崩した。テキストを一続きに表示して、コンテンツの無限性をゆるやかに示したかったからだ。

27インチのデスクトップで見たときのサイト:

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iPhoneで見たときの同じサイト:

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詳細:
http://read.artspacetokyo.comはモバイル機器からの閲覧に最適化されている。時代を考慮してもそうだし、『Art Space Tokyo』のようなガイドブックにとって各デバイスで閲覧できることはとても重要なことである。
・iPhoneやiPadで「ホーム画面に追加」する際、Retinaディスプレイ対応のアイコンを表示するようにした。
・シンプルなJavaScriptライブラリを使って、そのアイコンを「アプリ」のように置けるようにした。ハイパーリンクでページを行ったり来たりする必要はあるけれど。
・Typotheque社がCSSの@font-face機能を使ったウェブフォントサービスを提供してくれているおかげで、紙の本も、ウェブで配信するPDFやEPUB、Mobiファイルも、すべてFedra Sans and Displayというフォントに統一することができた。

ここまで来ると、1つの大きな疑問が浮かび上がる。
すべてを無料で公開して、どうやってお金を稼ぐんだ?

プラットフォームとプレミアム商品、がその答えだ。

プラットフォームとプレミアム商品

ぼくたちにとってのプレミアム商品は、手に取ることができる本、つまり紙の本である。しかし同時に、プラットフォームのエコシステムにきちんと根ざした「本当の」電子本にも価値があると思っている(それから、どんなプラットフォームでも読めるDRMフリーの電子本にも ★4 )。

たとえば、AmazonのKindleで本を購入するということは、Kindleというプラットフォームの持つあらゆる利点(メモ機能やシェア、ハイライトの共有)に接続が可能になるということを意味する。この接続にこそ「本当の」価値がある。これにお金を払うだけの価値はあるし、その価値は今後ますます高まっていくだろう。

Kindle、iBooks、そしてPDF

『Art Space Tokyo』は、KindleiBooksNookから購入できる。そして、それぞれのプラットフォームでは8.99ドルで売られている。別のプラットフォームで読みたい人には、DRMフリーのMobiファイル、EPUBファイル、PDFファイルがすべてセットになったパッケージを用意している。このパッケージは14.99ドル。

iBooks

iBooks

Kindle(E-Ink&Fire)

Kindle(E-Ink&Fire)

セット ——Mobi、EPUB、PDF

セット ——Mobi、EPUB、PDF

紙+デジタル

紙の本を購入する場合、ぜひ連絡をしてほしい。紙の本の購入者には電子版セットを無料で差し上げている。もちろん、すでに購入したという人にも、このセットをお渡しする。ぜひsupport@prepostbooks.comにメールを。

出発地点

「iPad版」を出すと発表したとき、ぼくたちはつとめて「iPadアプリケーション」とは呼ばないようにした。

思い出してみてほしい。2010年5月、iPadが発売された直後のことを。iPadでの出版の展望などまるでなく、ぼくたちは皆、本をアプリとして捉えるのが正しいモデルなのかどうか判断しかねていた。印刷されたものが本であると考えられていたこともあり、iPadでの出版はとてもややこしいものに思えた。それで当時のぼくたちは、Kickstarterのプロジェクトとして紙の本を作ることに集中した。昔の『Art Space Tokyo』をアップデートし、再び印刷し、布表紙のハードカバー版として再販することにしたのだ。

『Art Space Tokyo』——紙の本

『Art Space Tokyo』——紙の本

フルタイムで作業して数ヵ月かかったものの、何とか出版することができた。出来上がりはすばらしかった。バッカー(Kickstarterでのプロジェクト支援者)たちも、満足してくれたようだった。ぼくたちはその後1ヵ月をかけてプロジェクトで得た知識をまとめ、彼らに事後分析を公表した(「キックスタートアップ」)。嬉しいことに、Kickstarterから「事後分析部門最優秀賞」として表彰されるというおまけ付きだった。

アプリってどうなの?

2010年の秋がやってきて、ぼくたちは『Art Space Tokyo』のカスタムアプリの製作を検討し始めたものの、考えれば考えるほど、それは合理的でないように思えた。「シンプルな」アプリの製作さえ難しいようだった。いや、本当に ★5 。シンプルであれ複雑であれ、理にかなったアプリを作っている人はほとんどいなかったのである。

その当時、いくつかの大手出版社が雑誌アプリの販売を始めていた。WIRED(ワイアード)、Popular Science(ポピュラーサイエンス)、The New Yorker(ザ・ニューヨーカー)はその先駆けだった。しかしその出来はがっかりするようなものだった。テキストは画像化されている。ファイルサイズは大きすぎる。各号をダウンロードするのも手間がかかる。スクリーンで読む読者のことが考えられていない。これは電子出版物における読書の正しい方向ではない、謙虚な『Art Space Tokyo』としてはこの方向は忘れよう、そう思った。

ナビゲーションのややこしさも、さらに事態を悪くする一因だった。しかもアプリごとに操作が微妙に異なっていた。紙の雑誌の「ひたすらページを進めばいい」という明快さは、「革新」への努力、紙での作業工程をなんとかデジタルにも当てはめようという努力のうちに失われてしまった。こうしたアプリはやはり機能しない。

複雑すぎ

複雑すぎ

説明が多すぎ

説明が多すぎ

恐ろしいことに、こうした画面が他にもたくさん

恐ろしいことに、こうした画面が他にもたくさん

そして、こうしたフランケンシュタインのように恐ろしい雑誌アプリを調べていけばいくほど、PDFの形式がまだマシな解決策になるのではないかという思いが強くなっていった。少なくともPDFならテキストデータの保持が可能になる。検索もできる。サイズも軽くなる。ナビゲーションも次のようにいたって明快。「ひたすら・ページを・進めばいい ★6 」。

シンプルなPDF

そんな訳で『Art Space Tokyo』の記事をもとに、InDesignで縦置き用と横置き用のPDFを作ってみることにした。試みはある程度成功した。文字は少し小さくて不格好だったけれど、それにしても。PDFはそれまで目にしたどのアプリよりも快適な使い心地だった。

PDFの革新的な利点は何か?

・製作にコストがかからない
・比較的ファイルサイズが小さい
・すべてのiOSデバイスのiBooksで読み、検索することができる
・テキストデータを保持している

このPDFをDropboxに入れさえすれば、あらゆるプラットフォームとデバイスの垣根を超え、いつでも電子本で読むことができる。もちろん、これはちょっとしたハックだが、アプリにしてしまうよりはマシだった。

とはいえ、PDFがiPadでの読書に最適だと思っていた訳ではない。ましてや『Art Space Tokyo』の電子版をPDFで販売しようとも思っていなかった。もっと掘り下げて考えたいと思っていた。

EPUB

初めてEPUBがぼくを興奮させたのは、2010年の9月下旬にワルド・ジャクイス(Waldo Jaquith)の作品を見たときだった。

その当時のぼくはiBooksに全く関心がなかった。偽りのページに偽りのページめくり、紙の本の見た目だけを稚拙に真似たものだったし、タイポグラフィも未熟で、ハイフンを使って単語を2行に分けること(ハイフネーション)もできない。iBooksに関わろうとは全く思っていなかった。しかし、ワルド氏が「Virginia Quarterly Review(ヴァージニア・クォータリー・レビュー)」に発表した作品はぼくの興味をかき立てた。彼が時間をかけて生み出した作品は、これまで見たどのiBooks出版物よりも今後への期待が持てるものだった。

彼の作品には適切な改ページと柱(ヘッダー)があった。文書構造を体現するタイポグラフィ。印象に強く残る写真。見た目が複雑すぎて避けられがちなカスタムアプリとは違い、「VQR」はシンプルだった。それだけでなく、やはり彼のデザインには何か特別なものが宿っていた。しかも余分なコストがかかっていない上、オープンスタンダードを採用している。この2つの点はそれまでの雑誌アプリにはない特徴だった。

ワルド・ジャクイスが2010年に発表した「VQR」のEPUB作品

ワルド・ジャクイスが2010年に発表した「VQR」のEPUB作品


時を同じくして、EPUB 3の胎動が聞こえてきた。2010年のBooks in Browsers会議(訳注:ウェブブラウザを読書システムとして利用することを検討・推進する会議)で、ビル・マッコイは(最近ようやく認められた)EPUB 3の詳細を熱く語っていた ★7 。それは電子出版の世界とウェブデザインの世界の衝突だった。HTML/CSS/JavaScriptがEPUB 3の核となるようだった。これはデジタル好きな者たちにとっては朗報だった。とくに、ウェブサイト作りに詳しい者たちにとっては。

E-Ink

偉大なE-Inkスクリーンに映るジョブズ

偉大なE-Inkスクリーンに映るジョブズ


それからほどなく、2010年11月にぼくはKindleを買い、恋に落ちた。E-inkが採用されたKindleは、今でもお気に入りテクノロジーの1つである。Kindleはぼくが持っている機器の中で最も「慎ましい」ものだと言える ★8 。読書に集中できるし、世界のどこからでもアクセスできて、バッテリーは永遠とも思えるくらい長持ちする。まるで魔法のようだ。

こうしてぼくの関心は次の2つに向かっていった。1つはEPUB 3と結びついたiBooks、そしてもう1つは、今後普及していくであろう独自のエコシステムを持つ、エレガントなKindle。

電子本のプラットフォーム

2011年の1年で、iBooksは複雑なレイアウト、カスタムフォント、ハイフネーションなどへの対応を徐々に向上させていった。Kindleよりもデザインしやすいという認識が広がっていった。一方で、Kindleは真の読書プラットフォームを目指していた。あらゆるデバイスで読むことができる、ウェブ上での存在感を高める、ソーシャルリーディング機能を付ける、本を貸したり共有したりする革新的な機能を開発する、などへの歩みを進めていった。

EPUBに準拠することや、良く設計された既存のプラットフォーム上で開発を進めることで、読者はたくさんの機能をタダで享受できるようになる。

・本物の自己充足型の読書プラットフォームである
・だからこそ、本のような形態のコンテンツを売り、消費することに特化したプラットフォームである
・テキストデータを保持している。画像テキストというナンセンスな事態に陥っていない
・すべての本で操作が統一されている。読者はあらためて読み方を学び直す必要はない。上に行って下に行って左に行って右? いや、ひたすら・ページを・進めばいい、のである
・Kindleでは、ハイライトやメモが苦もなくソーシャルネットワーク上で共有できる
・iBooksやKindleは、本を買ったときに「アプリを追加した」というよりは、自分だけの「図書館」や読書スペースを作り上げているような気持ちにさせてくれる ★9
・高橋信雅によるイラストはiPadやiPhoneで見て美しいだけでなく、E-Iinkを採用しているKindleで見ても美しい
・@font-face機能を使って、紙でも電子でもThpotheque社のFedraフォントファミリーを使用することが可能になり、『Art Space Tokyo』の「ブランド」構築をすることができた

iBooksだけの特徴:
・Kindleよりも少しだけ複雑なレイアウトが可能だった。各章の冒頭、著者略歴、インタビュー、その他本の大事な部分に、微妙にニュアンスの違うタイポグラフィをなんとか導入することができた。Typothequeのフォントを採用することで、どんなときでも美しい見た目の電子本ができた ★10

Kindleだけの特徴:
・Amazonでの販売で、認知、信頼、手軽さを得ることができる
・読者のハイライトやメモが『Art Space Tokyo』のデータベースに集まってくる
・その結果として、「最も多くハイライトされた文章」といった測定が可能になる
・メモやハイライト共有ボタンをオンにしておくと、読書の状況や本に追加した注釈などが、Kindle上のフォロワーに公開できるようになる
・Kindle版はiOSやAndroidなどのデバイスからでもアクセスができる。一度買ったら、どこでも読める
・読者がKindleを使ってFacebookやTwitterに共有したハイライト文章は商品の入口となる。これにより、共有—閲覧—購入という一貫した循環システムが作り上げられている。このエコシステムはiBooksにはない

では、何か諦めなければいけない点はあるのか。まず、インタラクティビティの拡大は諦めなければならない。スクロールではなく「ページ」モデルにも従わなければならない。タイポグラフィについてもあまり手を加えることができない(特にKindle Fire以外のデバイスでは、ほとんど手をつけられない)。

ある種の本にとって、こうした難点は致命的問題である。だから、通常とは違った読み方をするような本は、なんとしてでもアプリを作らなければならない ★11しかし『Art Space Tokyo』はいたって「普通の」本である。伝統的な印刷物の美学に従って作られている。内容も、厳密に始めから終わりまで一直線に進む訳ではないものの、わかりやすく構成されている。外部資料へのリンクを載せて、「インタラクティビティ」についても補強している ★12 。ぼくたちの場合、iBooksやKindleというプラットフォームを使う利点のほうが、難点よりも大きかったという訳だ。そしてその利点は、単体アプリをデザインし、開発し、維持することに伴う難点よりも、ずっとずっと大きかった。

こうしたことは、市販されている多くの本にも当てはまると思っている。だからこそ、ぼくたちが『Art Space Tokyo』で行った試みは、他の出版者たちにとってのロールモデルとなり得ると思っている。そして、ぼくらのような方法ですでに出版を行っている人々にとっては、この文章が自分たちのプラットフォームの選択が正しかったと確認するものになることを願う。

後編に続きます
 
 
Note
 
★1Amazon: Kindle Ebooks Now Outsell All Paper Books Combined in UK(Amazon:UKで、Kindle電子書籍の販売部数が紙の本を上回る)Cult of Mac、2012年8月

★2Post Artifact Books & Publishing(完成後の本と出版)craigmod.com、2011年6月。もちろん、表面上の進歩も電子書籍での読書を押し進める。Retinaディスプレイとそれに対応したフォントは、目に優しい読書体験を提供してくれる。Retinaに近い品質のタブレットが値下げを続けていくと、Einkディスプレイの採用数が減っていくのは避けられないかもしれない。

★3│The Daily(ザ・デイリー)が2012年7月に3分の1近くの人員削減を行うこととなった理由の1つは、彼らのコンテンツがいわゆる壁に囲まれた状態だったからだろう。デイリーのコンテンツは専用のアプリからしかアクセスできなかった。いくつかの記事はウェブサイト上で制限された形で見ることはできたが、大部分は見ることができず、手を煩わすことなくTwitterやFacebookで共有することもできなかった。これは彼らに限った問題ではないが、それは言い訳にはならない。

★4│独自のプラットフォームの例としては、ヘンリク・ ベルグレンによるReadmillという素晴らしい試みがある。

★5│大量の本を1つひとつアプリにしていくというのは合理的ではない。特に出版社の立場からすれば。個々の本として電子書籍を考えるのではなく、プラットフォームという観点から捉えるべきである。本のための新しいプラットフォームを作ることは非常にハードルが高く困難な要求で、利益や機能性を得ることが難しく、iBooksやKindleのような既存プラットフォームのように「無料で」本を作ることは厳しいだろう。アル・ゴア著「Our Choice」の電子版を例に考えてみよう。このアプリは業界でも優れたデザイナーとエンジニアが二年近くもの歳月をかけて開発したものである。作業を行うにつれて、彼らは電子書籍を作るだけでなく、有機的なプラットフォームが必要であることに気付く。そして! この仕事を終えた彼らに、最良の解決策がやってくる。彼らの会社はFacebookに買収されたのである!

★6│「ひたすら・ページを・進めばいい」の精神についてぼくは2011年のBooks in Browsersの会議でスピーチを行った。

★7Books in Browsersでのビル・マッコイのEPUB 3に関する講演はこちら

★8│トム・アーミテージは彼のブログBERG Blogで、KindleとiPadを鮮やかに比較しながら「慎ましい」技術について語っている。

★9│どうでもいいことのように思えるかもしれないが、ぼくは、電子書籍を所有しているという感覚、あるいは電子書籍の輪郭が目に見えることは、消費者の心理にとって非常に重要なのではないかと思っている。ぼくのエッセイはKindleで数千部売れている。ウェブサイト上に無料で公開しているにも関わらず、である。ぼくのエッセイが売れるのは、Kindleで買ったときに得られる所有感が大きく関係していると思う。この感覚は、ウェブ版の閲覧では得られない。

★10│とは言うものの、これはiBooksだけの利点ではなくなってきている。KindleのKF8フォーマットはより多くの文字デザインを表現できるようになっている。しかしこのフォーマットも、現在のところKindle Fireのみしか対応していない。

★11│ロビン・スローンはFish: a tap essayというアプリでそれを実現している。iBooksやKindleでは実現できないようなアイデアを形にしたアプリの好例。彼はウェブ雑誌ContentsにFishに関するエッセイ「House of Cards」を寄稿している。

★12│iBooks版とKindle版にはグーグル・マップへのリンクもつけて補強している。章ごとにオンライン版へのリンクもつけた。

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本をプラットフォームに
電子版『Art Space Tokyo』製作記
オリジナル執筆:2012年8月
クレイグ・モド 著
樋口武志 訳
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『ぼくらの時代の本』
クレイグ・モド
訳:樋口武志 大原ケイ


美しい紙の本/電子の本
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電子版 本体900円+税
印刷版 本体2,000円+税(四六判240頁・縦書)

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PROFILEプロフィール (50音順)

クレイグ・モド

作家、パブリッシャー、デザイナー。 拠点はカリフォルニア海岸地域と東京。 MacDowell Colonyライティングフェロー、TechFellow Award受賞、2011年にはFlipboardのプロダクトデザインを担当。New Scientist、The New York Times、CNN.com、The Morning News、Codex: Journal of Typographyなど様々な媒体に寄稿している。 http://craigmod.com

[本章翻訳]樋口武志(ひぐち・たけし)

1985年福岡生まれ。早稲田大学国際教養学部卒。2011年まで株式会社東北新社に勤務。現在、早稲田大学大学院在学中。共訳書に『イルカをボコる5つの理由』(インプレスジャパン)、ピコ・アイヤー「空港は検査場」、ニコール・クラウス「若き絵描きたち」(ともに早稲田文学フリーペーパー『WB』)など。字幕翻訳に『ディクテーター』、『エージェント:ライアン』、『パラノーマル・アクティビティ/呪いの印』など。