2014年12月15日、メディアの枠を超えた本作りの経験を綴るクレイグ・モドによるエッセイ『ぼくらの時代の本』がボイジャーより刊行されました。その刊行当日に代官山T-SITE内Anjinにて行われた刊行記念イベントには、平日にもかかわらず120人以上が訪れました。その中で行われたDOTPLACE編集長・内沼晋太郎とのトークの模様を抜粋してレポートします!
★前編からの続きです。
★このトークのノーカット版の動画はこちら。
本が場所を取るからこその良さ
内沼:「電子の時代になったら、本が場所を取らないからいい」という話があるけれど、実は「場所を取るからいい」ということもあると思うんです。たとえばこのAnjinという会場は壁際に本が並んでいるけれど、この雰囲気の良さは本が場所を取っているから。(展示されている本を見て)「こんな雑誌、昔あったんだ」とか気づいたりする感じがいいですよね。
クレイグ:なんでここでイベントをやりたかったかというと、ここの本屋(代官山 蔦屋書店)が大好きで、週に3、4回ここに来て執筆したりするからでもあるんですが、この場所が3年前にできた一方で、アメリカではボーダーズが潰れた[★1]。日本でこんな素敵な場所が立ち上がったことは衝撃的で、もしアメリカでこんな本屋を作ろうと言い出したら変だと思われるはずなのに、実際はこの本屋は日本ですごくうまくいっていて、そのギャップが面白い。本はその土地の文化とつながっていると思います。
★1:ボーダーズは米国ミシガン州に拠点を置いていた国際的な書店チェーン。2011年に経営破綻
内沼:ここがなぜ特別なのかというと、「本のある空間」を作って、その空間を売りにしているから。今は本屋を作ろうと思っても、本を売って利益を得ることだけを考えていたら成り立たないんですが、ここは「本のある空間は素敵だね」という気持ちを商売に繋げている。最近オープンした湘南T-SITE[★2]には30店舗ぐらいのテナントが入っているんですが、高い家賃を出してでもそこに出店したいのは、そこに人が集まって、本以外のものも買いたくなる空間だから。そうやって施設全体の構造をデザインしているんだと思います。
★2:カルチュア・コンビニエンス・クラブが運営する文化複合施設。本トークの会場であるAnjinが入っている「代官山T-SITE」の系列施設として、2014年12月に神奈川県藤沢市にオープンした
クレイグ:アメリカだと、ここみたいに本を置きっぱなしにすると盗まれたりします。こんな場所が作れるアメリカ人はいないんじゃないかな。
内沼:それでも、「本を売る以外のこと」を考える本屋は日本にもまだそんなに数は多くないですよ。僕は下北沢で B&Bという本屋をやっていますが、本自体は売れなくなっていく中で、「本が好き」という気持ちはみんなの中でむしろ高まっています。「本のある空間に行ってみたい」と思う人が増えた。このことに、この3、4年で一部の人がちゃんと気がついて、それをビジネスとして成り立たせられるように盛り上がってきたんだと思ってます。
クレイグ:ある意味、印刷された本は電子本と戦っているわけではなくて、Facebookやインターネットと戦っているんだと思う。デジタル時代に入って、ここ3年くらいはスマホが人々の生活の中にものすごく入り込んできているのも、(本のある空間に価値が置かれるようになった)一つの原因なんじゃないかなと思います。
クレイグ:最後に、ここにいる人たちに心からの感謝を伝えたいです。この本が出来上がるまでに掛かった僕の力は本当に少しだけで、ボイジャーの高山みのりさんが編集に非常に力を入れてくれたし、翻訳者の樋口武志さんと、僕のエッセイを読んで一番最初に自主的に日本語に翻訳してくれた大原ケイさん、デザイナーの長瀬映子さん、イラストレーターのルイス・メンド、ボイジャーを立ち上げた萩野さん、ボイジャーのみなさんのおかげでこの本を作ることができました。みなさんに拍手を。
[『ぼくらの時代の本』刊行記念イベントレポート 了]
構成:後藤知佳(numabooks) / 写真:祝田久(株式会社ボイジャー)
(2014年12月15日、代官山T-SITE Anjinにて)
著者 クレイグ・モド
訳者 樋口武志/大原ケイ
価格 印刷本:2,000円+税(四六判240頁・縦書、電子本データつき)/電子本:900円+税
版元 ボイジャー
発売日 2014年12月15日(月)
印刷版 取り扱い書店 BinB store/Amazon/代官山 蔦屋書店/B&B/
丸善 丸の内本店/ジュンク堂書店 池袋本店/紀伊國屋書店 新宿本店/ほか全国の主要書店
電子版 取り扱い書店 BinB store/Kindleストア/iBookstore/
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