COLUMN

鷹野凌 今月の出版業界気になるニュースまとめ

鷹野凌 今月の出版業界気になるニュースまとめ
2015年12月「出版業界気になるニュース2015年回顧」

takano
 鷹野凌が毎月お届けする、出版業界気になるニュースまとめ。今回は年末ということもあり、2015年の出版業界を振り返ってみます。なお、ピックアップは鷹野の個人的興味関心に基づくため、著しく電子出版関連に偏っています。あらかじめご了承ください。

今年7月に行われた第22回東京国際ブックフェア 開会式の様子

今年7月に行われた第22回東京国際ブックフェア 開会式の様子

年初にはこんな予測をしていた

 まず、私が年初に予測していた2015年の動きについて。簡単にまとめると、以下の5つです。

(1)今年こそタブレットの大型化と高解像度化が進む
(2)電子図書館サービスが助走段階から離陸段階へ移る
(3)リアル書店やコンビニで電子書籍が入手可能な仕組みが普及する
(4)ソーシャルDRMで直接配信する出版社が増える
(5)出版社直営の作品投稿サイトが盛り上がる

(1)タブレットの大型化と高解像度化は進んだ?

 実はこちら、2014年に外した予測をもう1回挙げています。根拠は「12.2インチの大型 iPad」という噂が再浮上していたのと、そもそも10インチより大きいサイズがタブレットのラインナップ的には必然だと思っていたからです。

 結果としては、Appleから12.9型の「iPad Pro」が、Microsoftから12.3型の「Surface Pro 4」と13.5型の「Surface Book」が、東芝から12型の「dynaPad N72」が発売され、“大型化”へ向かいつつあるのは間違いないようです。来年はAmazon、Google、ASUS、Sonyあたりも12型超クラスを出してくるのではないでしょうか。

 「12インチ級タブレットは600gを切るくらいになるのでは」という予測も、「dynaPad N72」が579gだったので、辛うじて当たっていました。ただ、ジャーナリスト西田宗千佳氏のメルマガによると、重いパーツのカバーガラス、バッテリー、本体ケースのどれももう「劇的に軽くできる要素は見つからない」そうで、軽量化はそろそろ技術的限界に近いようです。

 ▶速報:iPad Pro発表。560万ドットの12.9型、プロセッサ刷新で4K動画を3つ同時に再生 – Engadget Japanese ※2015年9月10日
 ▶10月23日0時にPro 4予約開始:「Surface Pro 4」と「Surface Book」はPC市場を活性化させるか――国内初披露の実機リポート (1/2) – ITmedia PC USER ※2015年10月23日
 ▶東芝、紙ノートの代用を目指した世界最薄最軽量タブレット「dynaPad N72」 ~12型で厚さ6.9mm、重量579g。ワコム製ペン搭載 – PC Watch ※2015年10月13日

(2)電子図書館サービスは離陸した?

 学術系出版社コンテンツの電子化が進むことにより、まず大学図書館に電子書籍貸出サービスが普及するが、公共図書館向けはまだまだ、という予測をしていました。振り返ってみると、何をもって「離陸」とするのか? が自分でもはっきりしておらず、良くない予測でした。反省。

 ただ、まだ「なぜ普及しないのか?」という記事の方が話題になる状況下では、まだ「離陸」したとは言えないように思います。なお、『電子図書館・電子書籍貸出サービス調査報告2015』(ポット出版)のアンケートによると、公共図書館向け「電子書籍サービス」を実施しているのは54館(2014年は38館)という状況です。

 ▶電子図書館:広がるか…24時間貸し出し、自動で「返却」 – 毎日新聞 ※2015年2月23日(12月24日現在、公開終了済)
 ▶「電子図書館」進まぬ普及 – 読売新聞 ※2015年5月7日(12月24日現在、公開終了済)

 私は、コンテンツの量がまだ圧倒的に不足していることが、普及への阻害要因だと考えています。出版社側は学術系を優先しているけど、図書館利用者のニーズはベストセラーではないか、とはいえ導入図書館数が少なすぎるから儲からないし、などなど、導入期にありがちなジレンマも噴出しています。「ニーズを作るために電子化する」という考え方でチャレンジして欲しいものです。

 ▶書店、出版社が図書館向け電子書籍貸出サービスへ望むこと – INTERNET Watch ※2015年7月8日
 ▶図書館向け「電子書籍」がなかなか増えない理由 – INTERNET Watch ※2015年11月17日

 関連ニュースで触れておかねばならないのは、楽天のOverDrive買収です。OverDriveの電子図書館は全世界で3万4000館、英語圏では90%以上の図書館に導入されている「ナンバーワン」のサービス。業界関係者には、楽天がKoboを買収した時以上の衝撃をもって受け止められていたように思います。なお、国内では既に、茨城県龍ケ崎市立中央図書館や茨城県潮来市立図書館などへ本格導入が始まっています。

 ▶楽天、米OverDriveの買収発表――電子図書館事業にも参入 – ITmedia eBook USER ※2015年3月19日
 ▶OverDriveが図書館に提案する、電子図書館成功への5つのポイント -INTERNET Watch ※2015年11月13日

(3)リアル書店やコンビニで電子書籍が入手可能な仕組みは普及した?

 2014年に文教堂「空飛ぶ本棚」、三省堂「デジプラス」、TSUTAYA「Airbook」など、書店で紙の雑誌を買うと電子版が無料で「貰える」サービスが次々登場したので、2015年はこういったO2O(Offline to Online または Online to Offline)事業がもっと拡大していくだろう、という予測です。

 2015年は、講談社が自ら「codigi」を始めたり、「空飛ぶ本棚」がコンビニ(ファミリーマート、サンクス、ローソン、サークルK、ポプラなど)でも実施されるなど、広がりつつあるのは間違いないようです。TSUTAYA「Airbook」は公表された利用率が意外と低く少し心配だったのですが、売上を増やす要因になるという認識は得られたようで、対象店舗や対象誌は拡大しています。また、大日本印刷系の「honto」と丸善・ジュンク堂・文教堂の一部で、紙の本を買うと電子版は半額で買える「読割50」もスタートしています。

 ▶講談社、紙の雑誌購入で電子版を提供する「codigi」まずは女性誌から – ITmedia eBook USER ※2015年1月23日
 ▶文教堂の「空飛ぶ本棚」、240点超に拡大 – 新文化 ※2015年3月10日
 ▶TSUTAYAで紙の本を買うと電子版も手に入る「AirBook」、その利用率などが明らかに – ITmedia eBook USER ※2015年2月20日
 ▶TSUTAYAで紙の本を買うと電子版がタダで付いてくる「Airbook」、対象誌が110誌173タイトルに拡大 – INTERNET Watch ※2015年7月17日
 ▶紙の本を購入→将来、同じ本の電子書籍を購入するとき50%オフ、丸善などで「読割50」スタート – INTERNET Watch ※2015年4月15日

 ただ、リアル書店で電子書籍が「買える」サービスは、まだまだ課題が多いようです。JPO実証事業としての「BooCa」は終了し、楽天の運営で事業化へ向けて動き出したはずなのですが、その後新しい情報がなく、参加書店も増えた形跡が見られないのは気になるところ。また、三省堂&BookLive!の「ヨミCam」は、気づいたら姿を消していました。なんてこったい。

 ▶実書店での電子書籍販売、実証事業を踏まえ事業化へ – ITmedia eBook USER ※2015年2月27日

(4)ソーシャルDRMで直接配信する出版社は増えた?

 2014年には「エルパカBOOKS」「地球書店」「ヤマダイーブック」「TSUTAYA.com eBOOKs」など、いくつもの電子書店が姿を消していきました。そのたびに「電子書籍って実態はレンタルだから」「電子書籍って所有できないんだよね」などといった意見が飛び交っていました。

 しかし正確には「電子書籍は所有できない」のではなく、会員をDRMでプラットフォームに縛り付けていることによって起こる問題なのです。それゆえ今後はそういったユーザーの不安感を払拭するため、音楽配信サービスと同じように、DRMフリーあるいはソーシャルDRMで配信する出版社が増えるのではないか、という予測をしていました。2014年には、明治図書出版やJTBパブリッシングなどの事例がありましたが、残念ながら2015年には目立った動きがありませんでした。

 そして2015年も、「廣済堂BookGate」「富士通BooksV」「とらのあなダウンロードストア」「LISMO Book Store」など、電子書店の閉鎖に伴う「消える電子書籍」問題は相次いで発生しました。ただ一方で、「BookLive! for Toshiba」が「BookLive!」に統合されコンテンツやポイントはそのまま引き継がれたり、同じく東芝の「BookPlace」がU-NEXTへ継承されたりと、ユーザーに極力迷惑をかけない幕引きが工夫され始めた1年でもあったように思います。

 ▶廣済堂の電子書店アプリ「BookGate」シリーズ、8月末日でサービス終了 – ITmedia eBook USER ※2015年5月25日
 ▶富士通の電子書店「BooksV」9月末でサービスを終了 – ITmedia eBook USER ※2015年7月1日
 ▶BookLive! for Toshiba、BookLive!に統合 コンテンツ・ポイントは引き継ぎ – ITmedia eBook USER ※2015年7月24日
 ▶東芝 電子書店「BookPlace」をU-NEXTへ継承 – ITmedia eBook USER ※2015年8月28日
 ▶(ネット点描)電子書籍サービスの撤退 読めなくなる問題、対策は – 朝日新聞デジタル ※2015年11月3日
 ▶KDDIの電子書籍ストア「LISMO Book Store」、来年4月末でサービス終了 – INTERNET Watch ※2015年11月6日

 なお、ドイツでは大手出版社が続々とDRMフリーあるいはソーシャルDRM化に踏み切っており、「DRMフリー元年」とでも呼ぶべき状況になっていたようです。DRMが海賊版対策にはあまり効力を発揮せず、むしろ利用者の購入意欲を削ぐものであるという認識が一般化しているとか。日本もこうなる日が来るでしょうか?

 ▶ドイツの大規模な出版グループ、Verlagsgruppe von Holtzbrinckが電子書籍をDRMフリーに – カレントアウェアネス・ポータル ※2015年7月30日
 ▶ドイツ、2014年の出版社による電子書籍DRM利用率は44%、今年はさらに減少する見込み – hon.jp ※2015年7月30日
 ▶Random Houseドイツ法人も10月から電子書籍をDRMフリーに – hon.jp ※2015年8月19日

(5)出版社直営の作品投稿サイトは盛り上がった?

 「小説家になろう」「E☆エブリスタ」「comico」「マンガボックス インディーズ」のようにIT企業が投稿プラットフォームを用意して才能を集め出版社へバトンを渡すスタイルが進化して、「少年ジャンプルーキー」「アルファポリス」「マンガごっちゃ」のように出版社自身がプラットフォームになる動きが加速するであろう、という予測です。

 この予測にぴったり合った動きとしては、KADOKAWA×はてなの「カクヨム」が挙げられます。公式で二次創作もOKなプラットフォームを自ら運営というのが新しい。残念ながらオープンは2016年2月29日予定なので、2015年の予測的中とは言い切れませんが。また、「comico」が双葉社と提携して出版事業へ参入するのも、似たような傾向の動きと言えそうです。

 ▶KADOKAWAが二次創作も受け付ける小説投稿サイト、はてなと共同開発、ティザーサイト公開 – INTERNET Watch ※2015年10月7日
 ▶NHNプレイアート、出版事業に参入 双葉社と提携 – 日本経済新聞 電子版 ※2015年8月6日

 また、「LINEマンガ インディーズ」のスタート、「楽天Koboライティングライフ」の正式スタート、BOOK☆WALKER「BWインディーズ」の「著者センター」開設などといった動きも見逃せません。「取次・書店流通だけが出版」ではないのですよね。

 ▶LINEマンガで連載だ! 作品投稿ができる「LINEマンガ インディーズ」がスタート – ITmedia eBook USER ※2015年2月25日
 ▶楽天Koboライティングライフが正式スタート、新たに予約販売機能を追加 – ITmedia eBook USER ※2015年4月30日
 ▶「BWインディーズ」に著者が直接作品を登録・配信できる新サービス – ITmedia eBook USER ※2015年9月9日

その他大きな動き

 その他、2015年の重要なトピックスとして、以下のニュースを挙げておきます。

 ▶電子書籍の次の柱に――大手出版社など16社、「日本オーディオブック協議会」設立 – ITmedia eBook USER ※2015年4月6日
 ▶オーディオブックの定額聴き放題サービス「Audible」が日本上陸 月額1500円 – ITmedia eBook USER ※2015年7月14日
 ▶Amazon、本の買い取り開始 1冊から無料集荷、事前に買い取り価格をWebで確認 – ITmedia ニュース ※2015年6月3日
 ▶「dマガジン」会員数が200万人を突破、サービス開始から1年で – ITmedia eBook USER ※2015年6月15日
 ▶栗田、民事再生手続き申請 – 新文化 ※2015年6月26日
 ▶紀伊国屋書店、村上春樹氏の新刊「買い占め」 – 日本経済新聞 ※2015年8月21日
 ▶関連会社から“疑惑”の選書 武雄市TSUTAYA図書館、委託巡り住民訴訟に発展 〈週刊朝日〉 – dot.ドット 朝日新聞出版 ※2015年9月3日
 ▶TPP協定が大筋合意、著作権侵害の非親告罪化、原著作物の収益性を大きく損なわない場合は適用せず – INTERNET Watch ※2015年10月6日
 ▶海外ネット配信にも消費税課税 アマゾンなど薄れる優位性、販売に影響か – SankeiBiz(サンケイビズ) ※2015年9月29日

 2015月もいろいろ興味深い動きがありました。さて2016年はどんなことが起こるでしょうか。

 ではまた来年(=゚ω゚)ノ

[今月の出版業界気になるニュースまとめ:2015年12月 了]


PROFILEプロフィール (50音順)

鷹野凌(たかの・りょう)

フリーライター。NPO法人日本独立作家同盟理事長。『月刊群雛』『群雛ポータル』編集長。ブログ『見て歩く者』で電子出版、ソーシャルメディア、著作権などの分野について執筆中。ITmedia eBook USER、ダ・ヴィンチニュース、INTERNET Watch、マガジン航などに寄稿。アイコンは(C)樫津りんご。近著は『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(インプレス)。


PRODUCT関連商品

クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本

鷹野 凌 (著), 福井 健策 (監修)
単行本(ソフトカバー): 144ページ
出版社: インプレス
発売日: 2015/4/24