鷹野凌が毎月お届けする、出版業界気になるニュースまとめ。10本のニュースをピックアップし、理由、経緯、感想、ツッコミ、応援などをコメントしています。なお、ピックアップは鷹野の個人的興味関心に基づくため、著しく電子出版関連に偏っています。あらかじめご了承ください。
【2016年1月1日】 年末に、朝日新聞の記事「アマゾンが本の値引き販売 出版界、根強い警戒感」で「参加するのは1社のみ」と名指しされた筑摩書房が、「看過できぬ」と強い抗議をしました。その上で、筑摩書房の山野浩一社長がインタビューに答え、この記事になっているということに留意する必要があるでしょう。山野社長の意見は、再販制度は独占禁止法の例外規定なので、維持するためには時限再販をもっと積極的に行うべきだ、という趣旨なのですが、そもそもなぜ「再販制度を維持すべき」なのかがいまいち見えてきません。
【2016年1月9日】 著作権法第31条(図書館等における複製等)2項に「図書館資料の保存のため必要がある場合」という著作権の制限規定があります。だから、入手困難であることが確認できれば、図書館がデジタル化することに法的な制限はありません。問題は、市販のVHSにはコピーガードがかかっているものがあり、普通にダビングしようとするとノイズがかかってしまうのだとか。そして、専門業者に発注すると、複製の主体が図書館ではなくなってしまうという、ちょっとややこしい問題。
【2016年1月14日】 「Instant Articles」は、Facebookアプリ上に直接記事が配信される仕組み。開始は2月。読売、朝日、毎日、産経、日経の五大紙と、東洋経済が参加予定。ウェブのトラフィックをFacebookに奪われることになるわけで、記事を安く買い叩かれてしまっていると批判されている「Yahoo!ニュース」の二の舞になってしまわないか、心配です。
【2016年1月14日】 「行政機関の地方移転の目玉」とあるので、文部科学省で文化庁の占める割合を調べてみたところ、2014年度の予算は約1032億円(約1.91%)、在職者数245人(約10.9%)。うーん、小さい。目玉というか「目眩まし」のような気がします。
【2016年1月14日】 「ニコニコチャンネル」は、動画、生放送、記事コンテンツを配信できるプラットフォーム。私はこれも「新しい出版のかたち」だと思うのですが、出版統計にこういった数字は含まれるのでしょうか?
【2016年1月18日】 「有害図書を排除する仕組みづくり」とあるのですが、そもそも有害かどうかを誰がどう決めるのかという問題。菅義偉官房長官が「政府で決めると表現の自由などの問題がある。有害図書は自主規制してもらい、議員立法で決めることが必要だ」などと言っていたのですが、野党議員の質問によって、それは憲法87条の「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする(租税法律主義)」に反することが明らかに。青少年保護育成条例の「ゾーニング」とは、まったく次元の異なる問題ですね。軽減税率欲しさに政府へ尻尾を振るのは、自らの首を締める行為だと思うのですが。
【2016年1月20日】 昨年9月に、村上春樹さんのエッセー『職業としての小説家』を紀伊國屋書店が9割買い取った件が「Amazonなどのネット通販に対抗」などと報じられました。ところがあれは、中小出版社が「配本手数料」などの名目で取次に支払う「歩戻し」の見直し交渉がうまくいかず、資金繰りにも困ってたところを紀伊國屋書店が助けた、というのが真相だったようです。出版社・取次・書店の関係が変わりつつあるということなのでしょう。
【2016年1月20日】 2013年に日本へ上陸した「ハフィントン・ポスト」に対しては「失敗する」という言説が多く見られたのですが、今回の「Buzzfeed Japan」に対しては好意的な意見が多いところが不思議。いまのところ私の観測範囲では、拡散している様子があまり見られません。記事にバナー広告がないのは、ユニークです。
【2016年1月21日】 プロによる書評のアーカイブ。大手の新聞社・出版社・取次が名を連ねていて、なぜ新潮社が運営なのか? と話題になっていました。素早いインタビュー。いまのところ収益事業として位置づけられておらず、運営のリソースは一部「デイリー新潮」と共用しているそうです。うまくいくといいですね。
【2016年1月25日】 タイトルに「紙の」と書いてあるところに留意。今回、出版科学研究所が初めて電子出版の市場規模を出しており、こちらは1502億円(前年比31.3%増なのでプラス358億円)なのです。紙の出版市場1兆5220億円に比べ約9%とまだ小さい市場ですが、決して無視できない存在になってきているのは確かです。
紙雑誌は7801億円で、前年比8.4%減なのでマイナス719億円。ここには、雑誌扱いコミックス(単行本)の数字が混ざっていることに留意する必要があります。取り扱い点数では書籍扱いコミックスの3倍くらいです。ただ、コミックスはここ数年堅調(2200億円前後)なので、大きく落ち込んでいるのは月刊誌や週刊誌であろうと推測します。
紙書籍は7419億円で、前年比1.7%減なのでマイナス125億円。電子出版のうち電子雑誌が占める割合は1割くらいなので、恐らく紙書籍の減少分は電子書籍が補ってプラスに転じているものと思われます。こういった数字を見るとき、出版社の売上利益は紙と電子の両方なのに対し、取次・書店は紙しか扱っていないという立場の違いを念頭に置く必要があるでしょう。
1月もいろいろ興味深い動きがありました。さて2月はどんなことが起こるでしょうか。
ではまた来月(=゚ω゚)ノ
[今月の出版業界気になるニュースまとめ:2016年1月 了]
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