「これからの編集者」をテーマに、さまざまな人にインタビューしていくシリーズ。第1回は、講談社から独立して、エージェント会社「コルク」を設立した佐渡島庸平さんです。
※下記からの続きです。
第1回:佐渡島庸平(株式会社コルク 代表取締役社長) 1/5
第1回:佐渡島庸平(株式会社コルク 代表取締役社長) 2/5
第1回:佐渡島庸平(株式会社コルク 代表取締役社長) 3/5
第1回:佐渡島庸平(株式会社コルク 代表取締役社長) 4/5
作家も編集者を選ぶ
——Cakesのインタビューで、佐渡島さんは「作家にも編集者を選ぶ権利が与えられるべき」と言われています。けれど手がけた作品だけを見ていても、それがどこまで編集者の力によるものなのか、見抜くのは難しいですよね。編集者の側は、どうやって作家や世間に対して、自分の能力を知らせれば良いのでしょう?
佐渡島:編集者を見抜くのも作家の才能です。良い作家は、良い編集者を見つけるのが早いですね。僕は、編集者がTwitterとかFacebookをやったほうがいいと思っています。作家は自分をさらけだしているので、編集者もさらけだして作家にみてもらったほうがいいと思うのです。その編集者が、日常について何を書くかでも才能は分かる。他人と会話する時に自分にしか分からないようにしゃべるとか、反対に他人に分かるようにしゃべれるとか。作家は編集者を選びたくても、直接知っている人の情報しかない状態ですから、選びようがないですよね。
佐渡島庸平さん
——この職業をしていた人は編集者に向いている、というような職業はありますか?
佐渡島:サービス業だと思います。飲食業は向いていそうですね。食事中のお客さんの水がない時にすぐ注げるか。水をほかの物に入れ替えれば、これまでの話と通じますよね。作家が資料がない時に、資料がなくなる前に気づいて出せるかとか。気がつく力は一緒です。もちろん、知識があるに超したことはないが、やる気のある人間ならいくらでも後から追いつける。むしろ気にすべきはハートの部分ですね。
——なるほど。だとすると、編集者になるために敢えてカフェでバイトをする、というのもありですね。
佐渡島:そこで人間観察できるなら、何一つダメな経験はないです。ダラッと暮らしたり、経験しないことが一番良くない。引きこもる経験だって良い。引きこもるのは、心の中に葛藤があるからで、出て行きたくても出て行けないのは良い。むしろ、心の中に葛藤がない人間や、なんとなく生きてる人間は、編集者には向いていないと思います。
ネット時代に編集者は増えるのか?
——これからの時代、広義の編集者の仕事は、むしろ増えるだろうと僕は考えています。佐渡島さんはどう思いますか?
佐渡島:増えると思いますよ。ただ、意外と簡単になれるものではないとも思いますね。僕はもっと勝手に増えていくと思っていた。ネットの世界で需要があるから、ネット企業の中から編集者が勝手に育ち、その人が教えて、終いには出版社の編集者の出る幕がなくなると……。でも、ネット企業から編集者は出てこないので、いまだ出版社の編集機能は健在だと思っています。仕事の必要条件が測りにくく、その判断も難しいので、なかなか増えないのでしょうね。編集者は、人間力やコミュニケーション能力が必要で、数値化やテストしにくい。
——かといって、編集者認定試験を作れという話でもないですよね。それでも増えていくと考えるのは?
佐渡島:必要とされている限り、自然と増えていくと思います。実は、編集者のような仕事をしているが、自分が編集者をしていることに気づいていないこともありますね。例えば、企業の宣伝部とかで活躍している人は、編集者に必要な才能を持っていると思います。例えば、エステーの宣伝部の方のツイッターでのの発言や著作を読ませていただくと、編集者と同じ感覚で仕事をされているな、と感じますね。
マネタイズする力を持つ
——そうやって見つけてきた素晴らしいコンテンツを、マネタイズする力というのも、これからの編集者の仕事だと思います。この力も、やはり他人のことを考える力があれば身につくのでしょうか?
佐渡島:僕は、編集者の教育については、それなりに話すことができますが、社員のマネタイズの能力を上げる方法は、まだ考えがまとまりません。社員には、いつも、お金のことも意識しながら働こう! と言っていますが、人によっては、お金のことばかり気にする小さな人間になる気もしています。マネタイズとは「金銭感覚を持つ」ということなんですね。例えば、みんな100円の物を80円にすることに手間をかけたり、100円の物が無料でもらえると並ぶ。でも、100万円の買い物で5万円を値切らない。金銭感覚とバランスがおかしい。そこをしっかり考える癖をつけると、マネタイズの能力もついてくると思うんです。
——でも使うお金に関してはそれでいいかもしれないですが、お金の生み出し方というのはまた別ですよね。
佐渡島:マネタイズは、引いた目で見れるかどうかがポイントです。俯瞰して全体像が見えていれば、どこでお金が発生するか分かります。物ができて、流通に流れ、最終的にお客さんに届く、そのどこでお金が発生するか理解できる。全体像が見えていれば、ある部分では、お金がかかることも分かる。だから、いまなら、これくらいお金が使えると分かる。物を作るのは常に近視眼的で、マネタイズは俯瞰的な視点です。その俯瞰的な視点をもつ癖がマネタイズには必要ですね。
心地のいい場所を生み出す
——そういう意味では、世の中のあらゆるビジネスの仕組みについて、たくさん知っていた方が良いということでしょうか。
佐渡島:人のお金の使い方と、人がお金を払う理由を知ることは、とても重要です。僕は、ネットがフリーに向かっていくという言説を信じてはいません。人は、何か物を買う時に快感を得ていますよね。例えば、B&Bで本を買って「クッソー、B&Bのヤツめ。俺の財布から金を抜きやがって……」なんて誰も思っていなくて、むしろ本も買えて、楽しい機会も味わて、幸せになっている。お金を楽しみながら使っていますよね。ネットでの購入は、楽しみが伴わないからタダがいいとなっているんだと思います。むしろ、ネットで「お金払ってラッキー、買えてよかった」と思えるような場所を作れば良いだと思います。それが難しくて、みんな苦労しているのだと思いますが、それを作るにはどうすれば良いか、みんなを納得させるためにどこまでやればよいか、という感覚を持つことがマネタイズを知るということだと思います。
——タダで手に入るような気がするのは、やりとりしているのが複製可能なデータだからですかね?
佐渡島:データだからなんですけど、これが作家から直接もらうデータならどうなんでしょう。状況が変わる気がします。作品を読んで感動して、作家のことを応援したい時に、作品にしっかりと対価を支払おうと多くの人が思うのでは? 作者と読者がダイレクトつながることが、変化を生み出すと予想しています。
——サイプレス上野とロベルト吉野というミュージシャンに「YouTube見てます」という曲があります。聴かれるのはうれしいけれど、一円も入ってこないという状況。これを作家としてどう捉えるかという話もありますね。
佐渡島:それはリスナーがミュージシャンの応援方法を知らないからですね。また、ミュージシャンと支える側も、YouTube以外で応援する場所を作ろうとしないからでしょうね。ネットがダメ、YouTubeがダメ、ではなくてミュージシャンにもユーザーにも「心地のいい場所を作ろう」と良いアイディアばかりを出して行く方が良い。起業も似ていて、何かを叩くために起業する人間はいない。いまある物を一切否定しないで、ここにどうやって良い物を増やしていくかを考えて実践することが起業だから。
——みんなで、心地のいい場所を作ろうということですね。
海外の人も売れている物が好きだった
——海外展開のお話を聞かせてください。
佐渡島:講談社にいる時は海外のことを全然知らなかったのですが、自分で行って見て感じることはたくさんありますね。例えば、日本人でも英語の本を1日に1冊ずつ読める能力のある人はそういませんよね。海外も一緒で日本語の本を1日に何冊も読む人はいません。なので、彼らもヒット作や話題作から翻訳しようと素直に考える。だから、海外展開するために大切な1つ目は、まず日本で作品がヒットすることになります。日本の失敗作が、海外で大成功すること簡単には起きない。さらに、海外の人もほかの国での成功が気になる。2つ目は、日本以外の別の国でもヒットすることが必要条件になる。そこで日本で成功させてから、日本の文化を受け入れやすい台湾と韓国に足繁く通って成功させてから、それ以外の国を実績ベースで攻めていく。起業当初は、台湾と韓国の人口が少ないのでさほど重視していなかったんです。でも、みんな売れてる物が好きなんですね。
★この続きは、DOTPLACEの書籍レーベル「DOTPLACE LABEL」から発売された
『コルクを抜く』からお読み頂けます。
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インタビュアー: 内沼晋太郎
1980年生。一橋大学商学部商学科卒。numabooks代表。ブック・コーディネイター、クリエイティブ・ディレクター。読書用品ブランド「BIBLIOPHILIC」プロデューサー。2012年、下北沢に本屋「B&B」を、博報堂ケトルと協業で開業。
編集構成: 清水勝(VOYAGER)
編集協力: 宮本夏実
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