「これからの編集者」をテーマに、さまざまな人にインタビューしていくシリーズ。第1回は、講談社から独立して、エージェント会社「コルク」を設立した佐渡島庸平さんです。
※下記からの続きです。
第1回:佐渡島庸平(株式会社コルク 代表取締役社長) 1/5
第1回:佐渡島庸平(株式会社コルク 代表取締役社長) 2/5
第1回:佐渡島庸平(株式会社コルク 代表取締役社長) 3/5
創業者の熱量
——エージェント業に加え社長業をやりながら、講演やコンサルティングで会社を回すお金を稼いできて、かつ教育にも時間と労力をかける。佐渡島さん、やることが多くて大変ですね。
佐渡島:そうですね。でも、僕はそれが大変だとはあまり思ってないんですよ。講談社の時は、仕事が増える度に、なんで僕がこれをやるの? と思う仕事が多かった。それだったら、僕は遊びたいなと思ってましたね。いまは、これは僕がやる、これも僕がやる、それも僕がやるという感じです(笑)。どうやったら、日々もっと効率良くできるかを考えています。以前は、仕事が増えると後ろ向きな気分が生まれたのが、いまは体力的には大変なんですが気持ちは萎えたりしませんね。他の会社でも、創業者はみんな同じだと思うんですよ。自分がすべてをやらないと動き出さない。誰よりも熱量を持って動くから、みんなが付いてくる。熱量がなかったら世の中は変わらない。上手くいっている企業は、すべて創業者の熱量が強いところです。
——その熱量を維持するために、気をつけていることとかはありますか?
佐渡島:好きな仕事以外は受けないことですね。楽しいことだけをやっていると成功する。断るのは勇気がいることですが、楽しさを徹底するのは、とても重要なことだと思っています。
佐渡島庸平さん
第一回コルク新人賞
——コルク新人賞の応募は、たくさん来ていますか?
佐渡島:おかげさまでコルク新人賞は、約600通くらいの応募があり、読むのがすごい大変です。基本的に、僕は漫画をすべて読む。小説は皆が良いと言った作品だけを読んでいます。三枝は小説をすべて読む。だから、第一回コルク新人賞の審査に2ヶ月以上かかっています。まだ最終的な審査が終わっていない状況です(2013年5月29日現在 6月中旬に結果を発表予定)。
編集者になりたい人たちに勧めること
——これから編集者になりたい人たちに勧めたいことはありますか?
佐渡島:本読んだ時に「もしも偶然に作家と会ったらどんな感想を伝えよう」か、常に考えておいたらいいと思います。僕は、中学生時代に南アフリカ共和国に住んでいました。本が好きで、本を読むことしかすることがないから、本ばかり読んでいた。本を読みながら作家と会ったらこんな感想を言おうってことをずっと考えていた。それがそのまま仕事になっている感じですね。本読んでも、映画見ても、僕ならまず作者にどこが良いのかを言う。そして、僕ならどう直したいのかを言う。
ブログやAmazonのレビューに作品の感想を書くこと人もいるかと思います。編集者になりたいなら、作家がこの感想を書いた人に会いたい、そう思わせる感想を書こうとしてみることを勧めますね。
この間B&Bの「東京編集キュレーターズ」に出させてもらったとき、いい喩えができたと思っていて。「編集者って本当に必要なの?」という問いに、「どんな美女でも何か変なことがあるといけないから、出かける前に一回は鏡を見る。才能ある作家も世に出す前に一回は、誰かに見てもらう方が良い」と答えました。そのような、鏡となる仕事や、才能は必要なんです。
僕らはただ感想を言えばいいだけはありません。作家のモチベーションをあげれるように、伝えることが大切です。
だからこれから編集者になろうという人は、つまらなかった本の感想は書かなくていいと思うんです。ネットでは、作品を悪くいう感想を見かけますが、編集者には必要ありません。編集者は、悪いところを見つける仕事じゃなくて、いいところを伸ばす仕事なんですよ。採点してるんじゃないんだから、細かいことは校了直前に伝えて直してもらえばいい。面白かった本だけ、その面白さがどこにあるのかを書く。
例えば、編集が本の帯に採用したくなる感想や、他人がその作家の才能に惚れ込むような感想を書く。その作家が気づいていない良さを、こんなに見つけてくれるなんてうれしい、と作家に感じさせる感想を書けたら勝ちです。もしも、作家のためを思って「この作家の才能がこうで、ここが素晴らしくて、私が担当してどう伸ばす」のかをコルクの面接で書いてきたら、僕はすぐに通します。他人のためを思って生活する癖があれば、どんな会社にだって入れると思いますよ。
自分が分かっていないことを分かっていない
——佐渡島さんは、それを南アフリカ共和国の遮断された状態でやっていたわけですよね。一方、いまは情報が溢れていて、目移りしてしまう時代です。敢えて情報を遮断するようなことをしたほうがいいのでしょうか。
佐渡島:自分を知るために、一切テレビを見なくしたら、自分でどのくらい情報から遅れるかとか、いろいろ試した方が良い。それは遮断した方が良いということではなく、いろいろと挑戦する方が良いということ。実際に情報をたくさん浴びていてもきちんと理解できていないことが多い。みんな、先に自分の考えがあって、それに沿った情報を選ぶから、間違ったことを書いてしまう。他人の考えをできるだけ客観的に理解するには、いったん自分の考えを消す練習をする必要があります。
★この続きは、DOTPLACEの書籍レーベル「DOTPLACE LABEL」から発売された
『コルクを抜く』からお読み頂けます。
「第1回:佐渡島庸平(株式会社コルク 代表取締役社長) 5/5」 に続く(2013/06/02公開)
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インタビュアー: 内沼晋太郎
1980年生。一橋大学商学部商学科卒。numabooks代表。ブック・コーディネイター、クリエイティブ・ディレクター。読書用品ブランド「BIBLIOPHILIC」プロデューサー。2012年、下北沢に本屋「B&B」を、博報堂ケトルと協業で開業。
編集構成: 清水勝(VOYAGER)
編集協力: 宮本夏実
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