「これからの編集者」をテーマに、さまざまな人にインタビューしていくシリーズ。第1回は、講談社から独立して、エージェント会社「コルク」を設立した佐渡島庸平さんです。
※下記からの続きです。
第1回:佐渡島庸平(株式会社コルク 代表取締役社長) 1/5
コルクの心意気
——「東洋経済ONLINE」のインタビューで、「自らがプロデュースする作家は、生涯で多くても6人ぐらい」「安野さんと小山さんと三田さんを担当しているので、空いている席はあと3つ」「あと40年働けるとして、10年かけて1人ずつ新人を見つけ、その新人が誰にもマネできないものを創れるよう10年かけて鍛える」と仰っていますが、単純に質問です。なぜそんなに少ないのですか?
佐渡島:僕が作家を好きでも、相手も僕を好きでなければ、エージェントは務まりません。お互いの相性も必要で、そうなると、簡単には見つからないと思います。世の中で結婚したいと思う女性に6人もなかなか出会えないでしょう(笑)。
佐渡島庸平さん
エージェントは、作家に対して背負っている責任がすごく大きいです。出版社の編集者はいまの目の前の作品への責任を背負いますが、一生のことは考えません。僕らは作家が、一生、楽しく作家業をやれる方法を考えています。そこまでのロング・スパンで付き合おうと思うと、あまりたくさんの担当をするのは、無理ですよね。
——一緒にコルクを立ち上げられたパートナーの三枝亮介さんが、文芸のご担当ですね。エージェントとしてかかる労力は一緒ではないかと思うのですが、現状、漫画と文芸では、ビジネスとして考えたときの規模が大きく異なるのではないかと感じます。たとえば評論家の山城むつみさんの作品が100万部売れることは、さすがにないのではないかと思ってしまうのですが、そのあたりはどのようにお考えですか?
佐渡島:山城むつみさんと仕事をするのは、僕らの会社の理念とすごく合っています。良い作品が育つためには、良い批評も必要です。山城むつみさんは素晴らしい批評家です。確かに“億”を稼ぐのは無理であったとしても、作家の山城むつみさんが、批評に集中できる環境を作り出したいと思っています。
阿部和重さん、山崎ナオコーラさんも、一流のクリエーターの才能に見合った収入を生み出したいと思っています。いま売れているところにビジネスチャンスがあるんじゃなくて、僕らが価値があると思う才能がしっかりと評価される仕組みに変えたいと思って起業したんです。
本質的に良い物を探す
——三枝さんは「Cakes」のインタビューで「だからこその海外だ」と、海外展開をすることによってマネタイズすることの可能性を示唆されています。小説についてはまだイメージできるのですが、批評もそうでしょうか。
佐渡島:作品を買う時に、中身を詳しく知らなくても買う場合がありますよね。マイケル・サンデルの「これからの『正義』の話をしよう 」は、あそこまで売れると普通なら思わない。でも、ここには、自分が知っておいた方が良い何かが、日常では手に入れられない知が、あると世間に思わせることができて、爆発的に売れた。山城むつみさんの作品は、本質的なことを捉えています。実力のある作品には、キャチーさがなかったとしても、同じようなプロモーションのチャンスが巡って来る可能性があります。本質的な作品は、電子書籍となり、いつでも購入できる体制があれば、常に急に売れるチャンスがあります。
山城むつみさんの批評は、本質的なので常にチャンスがある。みんながある瞬間にドストエフスキーに非常に興味を持って、世の中が山城むつみを読まずにドストエフスキーを語るのは恥ずかしいという雰囲気になれば、電子書籍で1〜2万部は売れるはず。山城さんを売るチャンスを探して、世の中を見ていれば、そんな流れを作る可能性が十分にある。僕らはそういう仕掛け方をしていきたいと思っています。
——例えば、「カラマーゾフの兄弟」の映画化を企画してそれを仕込むとか?
佐渡島:例えば、そういうことです。もしも、有名な映画監督が「山城むつみの批評が『カラマーゾフの兄弟』を読み直すきっかけでした。もう一度、原作を読んだ時にこれまでと違うイメージが浮かんできた。これは映像にした方が伝わると思った」と言えば、読んでみたくなりますよね? 本質的に良い作品は、そういった可能性を常にはらんでいるのです。
——いまのお話を伺って、出版は、広告の置かれている現状に近いのではないかと思いました。Cakesのインタビューで佐渡島さんは、出版社の本業は文字通り「出版」業で、これまではその「無料オプションとして」編集者がついてきていた、とおっしゃっています。広告代理店も、メディアの枠を売る文字通り「代理」業がメインで、それにクリエイティブ部門がくっついてきていた。そのモデルから脱却しようとして、優秀なクリエイターが独立して、クリエイティブ・エージェンシー的な会社が増えてきたという印象です。そうした会社の、TVCMとか新聞広告といった枠にとらわれず、売るためにあらゆる手段を考えるというやり方は、佐渡島さんの考えられているエージェントと近いのではないでしょうか。
佐渡島:確かに似ていると思います。クリエイティブなものにお金が払われる習慣を生み出そうという志は、一緒だと思います。広告系の人たちは、僕らより資金が潤沢でうらやましいですが(笑)
コルクのポリシー
——資金が潤沢ではないとおっしゃいますが(笑)、けれど創業したばかりの会社で、10人ものスタッフを雇っていらっしゃるのは、凄いことではないでしょうか。
佐渡島:それはまず、ここで働きたいと思ってくれる人間がいることが大きいです。すごく感謝しています。深く作品に関れることは、すごく面白いことで、それを期待して求人をしていないのに、どんどん人が来てくれて、本当に助けてもらってます。
「宇宙兄弟」の売上にも、大きく助けられています。はじめは、ゆっくりと会社を育ていくつもりでした。でも、いま流れが来てると感じたので、増員して流れを確固たる物にすることを選びました。そういう選択を可能にしてくれた宇宙兄弟には、感謝してもしきれません。
——なるほど。しかし10人のスタッフの方々も、最初は佐渡島さんと一緒に作家さんところに行ったりしても、その後は自分で担当の作家をもつようになるわけじゃないですか。それについては、どういう流れがありますか?すでにそれなりに名前のある作家さんにお声かけしていくとか、「コルク新人賞」などで新人の発掘をやっていくとか、あるいはネット上でまだ見ぬ才能をネットサーフィンして探していくとか?
★この続きは、DOTPLACEの書籍レーベル「DOTPLACE LABEL」から発売された
『コルクを抜く』からお読み頂けます。
「第1回:佐渡島庸平(株式会社コルク 代表取締役社長) 3/5」 に続く(2013/05/31公開)
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インタビュアー: 内沼晋太郎
1980年生。一橋大学商学部商学科卒。numabooks代表。ブック・コーディネイター、クリエイティブ・ディレクター。読書用品ブランド「BIBLIOPHILIC」プロデューサー。2012年、下北沢に本屋「B&B」を、博報堂ケトルと協業で開業。
編集構成: 清水勝(VOYAGER)
編集協力: 宮本夏実
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