INTERVIEW

これからの編集者

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第8回:西田善太(ブルータス編集長)3/5|インタビュー連載「これからの編集者」(ブルータス編集長)

「これからの編集者」をテーマに、さまざまな人にインタビューしていくシリーズ。第8回は『ブルータス』編集長、西田善太さんです。

※下記からの続きです。
第8回:西田善太(ブルータス編集長) 1/5
第8回:西田善太(ブルータス編集長) 2/5

面白いものを作る力は本質的に変わらない

――業界では「雑誌が売れない」と言われて久しいですが、そんな中『ブルータス』という雑誌は、ずっと売れている雑誌です。雑誌を買う人がそもそも少なくなっている中で、『ブルータス』の作り方において意識されていることはありますか。

西田:『ブルータス』自体は、ここ何年も売れ行きが変わっていないんですよね。かなりたくさん売れる号もあれば、特定の人にだけ響く号もある。ここは天邪鬼なんですが「当たった特集を繰り返しません」と発言しています。業務系の会議だと常に過去の数字も引き合いに出されますから、確実な売れ線を狙え! というのは当然ですけれど、同じ企画を短期間に繰り返すと、読者は厳しいからすぐ飽きるし、なにより疲弊するのは作り手のほうなんです。繰り返しは編集部をダメにする。だから、前の号と違う切り口を見つけられるまでじっと我慢。たとえば「『ブルータス』はコーヒー特集をよくやっている」と言う人がいるけどそれは大間違いで、コーヒーの特集をやるのに5年も待ちましたからね。12年の10月に出した「おいしいコーヒーの進化論」は、僕が編集長になってから初めてのコーヒー特集です。あらためて企画するに値するテーマになるまで、そのぐらい待つんですよ。…と言いつつ、特集の枠組み、整理の新しい手法が生まれたら他の企画にそれを当てはめてみたりもするし、5月1日発売の居住空間学は1年に1回の恒例です。「ラーメン、そば、うどん」特集は半年で続編出したりしてるし(笑)。それは「麺は今年限り」と決めて進めたからなんだけど。

雑誌全体の未来に関しては、自分の力は及ばないので、あまり考えないというか、考えてもしょうがないと思っています。編集部の皆と言っているのは、紙の雑誌が続けられるうちは、1冊でも多く紙で世に出そうね、ということ。紙じゃないとだめだとは思っていない。いつでもデジタルに移行できるように、準備は整えておくけれど、純粋に編集に没頭するには雑誌という形が今のところふさわしい。この場所で、企画や編集の能力を誰にも追いつけないところまで伸ばしていこうと。メディアが変わっても、面白いものを作る力は本質的に変わらないだろうということです。

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西田善太さん

WEB上に特集の続編をつくる

――数年前に西田さんにお会いしたときに、『ブルータス』がデジタルでやるとしたら、そのまま電子雑誌として既存のプラットフォームに載せる以外のやり方として、紙の『ブルータス』として作った特集の続編を、WEBコンテンツとして一社提供で続けるというモデルを考えている、というお話を伺いました。そしてこの9月にはいよいよ、1月に出た特集「カラダにいいこと。」の続編が、デサントの一社提供でWEBコンテンツとしてリリースされる予定です。僕も微力ながら今まさにお手伝いをさせていただいていますが、『ブルータス』のような雑誌のマネタイズの仕方としてはあらためて、数年前に考えられたものとは思えない、可能性のあるモデルだと感じています。

西田: 僕は90年代に『ブルータス』でコンピューターの特集を3冊作ったくらい、WEBは本当に大好きです。だから、自分の大好きな雑誌、出版という文化と、自分の大好きなコンピューターカルチャーがぶつかっている現状は、非常に歯がゆく感じます。自分の中で同じように好きなものだから。

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WEBの世界にはあらゆるコンテンツがあるわけです。そこに紙のためにつくったものをそのまま持ち込んでも、フィールドが違いすぎて埋もれてしまう。始まりがあって、終わりがあって、ストーリーがあって、触感があって…、紙質の違いがあったり、写真の大きさの違いがあったり、書体も僕らがコントロールする、という世界は、紙で残しておかないと。本としての形で出版できる限り、世に出していこうというのはそういう部分です。一方のWEBは色んな物を、好きなところだけ読むとか、時系列で組み合わせて読んでみるとか、断片的に楽しむことを前提につくられるもの。だからコラムマガジンはWEBでやりやすいし、新聞もデジタルコンテンツにやりやすい。けれど流れがある、雑誌らしい作りに特化している『ブルータス』は、そのままではWEBに向いていない。

WEBコンテンツの特徴は流動性、メンテナンス性ですよね。つまり日々変わっていかないといけない。日々何かが新しくなっている、更新されていくことが大事。でも自分たちの編集のサイクルの中で、自分たちのWEBをつくって毎日メンテナンスしていくのは、今のところあり得ない。じゃあどうするかっていうと、「続編は作らないけど、WEBの中でならやれるよ」って言い出したんです。年に23冊出ている紙の特集は、たとえば「猫である。」「カラダにいいこと。」「美しい言葉」…と、いわば切り口として、コンテンツの種を世の中に出しているようなもの。その続編ならWEBとして、WEBらしく作れる。特集の切り口に賛同するスポンサーから、表4の広告を買うようにお金を出してもらって、企業のWEBにいわば寄生するような形で、その予算でWEB上に続編を作っていく。そうすれば、たくさんの人が仕事できるようになるから。それが数年前に考えたことです。

もし、紙と同じパッケージで『ブルータス』を、いわゆる電子書籍的に売るならば、発売時は半額の300円でいい、でもバックナンバーは値段は倍の1200円にしてほしい、って思っています。なぜなら、僕らにはその特集を出す時期や、前後のつながりに必ず意味が持たせているからです。『ブルータス』は年間の番組なんです。3年前にやった特集が最新号と並列に、同じように選ばれる状況に置かれたら、送り手の「今」読んでほしいという気持ちが汲み取られなくなる。でも、「今」出て、「今」面白いと思う人がどれだけいるのかで勝負しないと、雑誌はダメになっていきます。そういう思いが強いので、バックナンバーは倍にしてくれってよく言うんです。これは実際にそうしてくれというよりは、あくまでメタファーね、考え方。

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2週間で消えていく面白さ

――あくまでメタファーとおっしゃいますが、僕は「バックナンバーは値段を倍の1200円」も、ありかもしれないなと思います。少し似ているなと思ったのは、例えばアニメのDVDです。アニメの制作をしている人たちも「今」出す意味があると思って放送していると思うのですが、あとからDVDがでますよね。その時リアルタイムでも見ているのだけど、これは名作だから買っておきたい、という人が買う。もちろん、先に放送があって後にパッケージになるというところは逆ですし、どのくらい売れるかはわかりませんが、考え方としてはあり得るなというか。一定期間が経つと、紙の在庫は出版社からなくなってしまいますしね。

西田:確かにね。でも一方で、昔、縁日で色付きのひよこが売られていたのを知ってます?お祭りで、ピンクや青のひよこがいて、育てていくと毛が生え変わって、塗られているだけだってのに気づくんですが(笑)。「雑誌を選ぶのは、縁日でひよこの色を選ぶようなものだ」と、どこかで読んで、本当にそうだよなって思ったんです。一号一号大事に作っているという思いと同時に、吹けば飛ぶようなものでありたいというよう軽さも、自分の中に両方あるんです。「2週間で消えていく面白さ」をやっているっていうことが、自分らを支えているというか。後々に何年か前の特集の話をされても「覚えてないよ」っていうのも、かっこいいかなっていう。「すごく面白いだろ」っていう思いと「大した仕事じゃない」っていう思いとが同居しているわけです。全部が全部、思った通りの本にはならない。でも2週間我慢すれば、次の号ができる。WEBとは違う意味は、『ブルータス』というブランドの2週間毎の更新を繰り返しているんです。

――でも前の号は、本屋という店頭からは消えていきますからね。

西田:そうですね。売れる号もあれば、そうでもないときもある、その繰り返し。それを支えているのは時間軸。2週間に1回、次の号がでる。変わらないのは『ブルータス』というロゴだけ。当たるとでかいし、当たらなくても面白く作れる。そういうのを繰り返しているのがいいんだな、というのが作り手のリズム、体感として大事だと僕らは思っています。

「西田善太(ブルータス編集長) 4/5」 に続く(2013/07/25公開)

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編集構成: 内沼晋太郎
編集協力: 名久井梨香


PROFILEプロフィール (50音順)

西田善太

1963年生まれ。博報堂のコピーライター職を経て1991年マガジンハウス入社。『ギンザ』編集部、『カーサブルータス』副編集長を経て、2007年12月より『ブルータス』編集長。