「これからの編集者」をテーマに、さまざまな人にインタビューしていくシリーズ。第1回は、講談社から独立して、エージェント会社「コルク」を設立した佐渡島庸平さんです。
“ゼロイチ”が生まれる瞬間
——気持ちが良い場所に会社を構えましたね。原宿にしたのは元々のお考えですか?
佐渡島:もともとクリエイター系のベンチャーが自然に集まれれば良いなと思っていました。六本木にIT企業が集まっているように、渋谷周辺でタクシーのワンメーター圏内に集まるような感じかな。僕の感覚では、六本木、青山、新宿、秋葉原、池袋は違う。でも、渋谷・原宿はしっくりくる。海外の人に事務所の住所を尋ねられても、渋谷、原宿と言えば分かってもらえることも利点です。
佐渡島庸平さん
出版社をやめて作家やフリーの編集者になると、お金を払うのはやはり出版社です。固定のサラリーが、実績給になるだけですよね。そうではない初めての流れを作ったのは、株式会社ピースオブケイクの代表取締役CEO加藤貞顕さんだと思うんですよ。出版系のスタートアップを作る流れですね。
編集者の仕事は、価値を見つけることです。とにかく“ゼロイチ”の生まれる瞬間を見つけるのが重要です。編集者は“ゼロ”の段階で、これには価値がある、これは100までいける、と発見して、それを世間に広める役目だと思っています。“ゼロ”から、しっかり才能ある人を見つけ、作家が“ゼロイチ”で作った物を、編集者は“100″にまで売上を伸ばすのが仕事だと思っています。
僕は加藤貞顕さんがやった出版業界からしっかりとしたスタートアップをつくるという“ゼロイチ”の行為に価値を見いだし、評価したいと思ったんです。加藤さんに敬意を表したかったし、僕自身も加藤さんに影響を受けている。それで、加藤さんが選んだ渋谷を中心に僕も会社を構えようと思いました。
すべてできる人、見えている人が、これからの編集者
——その加藤さんが立ち上げられた「Cakes」の、古賀史建さんによるインタビューで、「佐渡島さん、編集者を辞めちゃうんですか?」という質問に対して、「これまで以上に編集者であることを追い求めていきたいし、そのためにも自分にとって編集者という仕事がどんな仕事なのか、再定義するべきだ」と発言されていますね。
佐渡島:いままでエージェントを名乗ってた人は、出版社と作家をつなぐことを仕事の中心にしていました。けれども、出版がどんどん小さくなるビジネス環境の中で、作家が最大の効果を生み出せるように、出版社以外と作家の仲介をする会社が必要だと考えています。今後、作家の才能を活かすたくさんの場所が電子書籍以外にもいろいろとネットに出てくる。その時に、作家とたくさんの場所をつなぐ仲介人が必要です。スタートアップで、その挑戦をする人間は僕が初めてです。
いろいろな場所につなぐ時には、作品への深い理解がないと、何とつなげばよいか分からなくなる。例えば、「ドラゴン桜」をパチンコにつなぎたい。理由は、パチンコの大当たりで東大合格! って登場人物に言われたらハンパない気持ち良さですよね(笑)。でも「宇宙兄弟」は、子供の夢やイメージを大切にしていくべきだからパチンコと相性が良くない。パチンコ化したいのではなく、パチンコに合っている作品を、企画として売り込んでいきたい。そういう細かい営業は、今までされてきませんでした。
また、こちらから営業するスタイルなら、僕は先に作家と話し合っているので、相手がその気なら「よし進めましょう。次のミーティングいつですか?」と進められる。でも、作家を直に知らないライツの担当者だと、営業中に相手の社長が出てきて「よし、やりましょう!」と盛り上がったとしても、「作家の確認とりますのでちょっと待ってください。確認できるのは原稿のキリがいいタイミングなので、1ヶ月後になります」と進まなくなりがち。作家に近いエージェントが営業することで、実現度が大きく変わると僕は予想しています。
誰がライツの窓口をするかということは、小さい違いなんですが、大きな結果の差を産むと思います。
映画の場合は、映画のプロデューサーがトップにいて、その下に宣伝などがいて、誰が決定するかがはっきりしています。出版社の場合は、編集者、ライツ、販売部の立場が横並びで相談ばかりで時間がかかってしまうし、決断できない仕組みです。
マスコミに就職する人は、みんな現場にあこがれている。出版社なら、編集者。テレビ局ならプロデューサー、ディレクター。誰も、組織がどうあると、会社にとっていいか、とかを考えたがらない。組織を変える、出版社の仕組みを変える、その仕事をする人物が出版社にはいない。僕は、講談社時代に提言はしましたが、実現のために汗水たらすのは自分の仕事でないと感じました。
いままで出版社で編集者をしてきた人は、雑誌のページの入稿&校了の作業ができる人です。出版社が編集者に求める定義が“作業”なので人事異動ができます。でも僕は、編集者がライツ、マーケティング、海外のことも理解していなければいけない、と考えている。だから僕は、自分の会社で新しい仕組み作りを実現したいんです。
——佐渡島さんが考えられている「これからの編集者」は、すべてできる人、見えている人、のことですよね。
佐渡島:作家が作品の内容のすべてを把握するなら、エージェントはそれ以外のすべてを把握する立場です。これからは作家とエージェントの二人三脚で動くべきだと思っています。エージェントは、「この人物がいなくなったら、この作品とプロモーションはすべて変わってしまうよね」っていう、取り替え不可能な職業にしたい。作家はこれまでも、実力で勝負してきました。エージェントも同じ立場で勝負したいと思っています。
——先に挙げたインタビューでも「編集者も才能業だ」とおっしゃっていましたね。そのように、これから編集者が入れ替え不可能な存在になっていくとき、その編集者としての才能とは何で、若い人はそれをどのように伸ばしていったらよいのでしょうか。
編集者になる前に知っておいて欲しいこと
佐渡島:まず「他人のために働く人間かどうか」は重要なポイントです。作家は自分のために生きている人間です。作品によって、他人を幸せにしますが、基本的には、自分のために作品を書いていると僕は思います。エージェントは他人のために生きる人間のことです。面接して1週間も一緒に働けば、この人は自分が注目されてないと頑張れないなとか、この人は他人を喜ばせた時に最も嬉しくなるなどが、すぐに見えてくる。
コルクは、転職希望者に「インターンに来ても仕事を振りません。コルクの中で仕事を見つけられて、その見つけ出し方が良ければ社員にします」と伝えます。だから、面接は入社面接でなくインターン面接です。頼まれたことをやるのは、簡単ですが、自分で他人のためになる仕事を見つけるのって結構、難しいんです。僕らは常に作家のためになることを見つけて、それを作家に提供しないといけない。インターン期間中に、コルクで仕事を見つけられない人が、作家相手に急に見つけられるなんてことは起きない。インターンに仕事を用意しないことで、インターンが、エージェント向きかどうかがわかります。
僕が必要だと思って見極めようとしているのは二つです。一つ目は「他人のために働くことが喜びになる人間か」。二つ目は「作家・作品によって救われたことがある人間かどうか」なんです。本には実用的な本と、人の心を動かす本の二種類があります。実用的な本が好きな人間と、人の心を動かす本が好きな人間ではタイプが違う。僕は作家を相手に仕事するので、人の一生を左右する本を作りたい。その人が、これによって人生を揺さぶられてしまった、この本がなかったらいまの自分はいない、という一冊を持っているか。
作家は、自分が本に救ってもらったと思っているから、自分もそんな本を作りたいと思って、作家になる。僕らにとっても、自分にとって本は自分の命よりも大切で、この本がなければ自分の命がなかったかもしれない、という共有できる経験があることがすごく重要なんですね。いまコルクに面接に来る人は、マスコミで話題のコルクと僕への興味で来るのがほとんどで、作品への興味をあまり感じない。そうすると、僕は作家に対峙させられないから一緒に仕事できないと考えてしまう。
——佐渡島さんが見込みがあると判断した新人は、当然最初はエージェント経験はないと思います。その後、どのように教育していくのですか?
★この続きは、DOTPLACEの書籍レーベル「DOTPLACE LABEL」から発売された
『コルクを抜く』からお読み頂けます。
「第1回:佐渡島庸平(株式会社コルク 代表取締役社長) 2/5」に続く(2013/05/30公開)
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インタビュアー: 内沼晋太郎
1980年生。一橋大学商学部商学科卒。numabooks代表。ブック・コーディネイター、クリエイティブ・ディレクター。読書用品ブランド「BIBLIOPHILIC」プロデューサー。2012年、下北沢に本屋「B&B」を、博報堂ケトルと協業で開業。
編集構成: 清水勝(VOYAGER)
編集協力: 宮本夏実
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