COLUMN

水野祐+平林健吾 Edit × LAW

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第5回「倒産・事業再編」

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第5回「倒産・事業再編」

水野祐

本連載第3回の「遺言」と題する記事では、人にとって、死後を「編集」し、「デザイン」する思考が重要なのではないかという提案をさせていただいた。しかし、「死後」を編集し、デザインする思考の重要性は、生身の人間だけではなく、法によって人格を与えられた会社などについても、ほぼ同様のことがあてはまるのではないかと考えている。

会社の「死後」、すなわち、会社が倒産や解散する場合、どうしてもいかに会社を安全に殺すのか(クローズさせるか)という視点で物事を考えがちである。倒産の場合で言えば、弁護士は破産申立ての代理人、そして、裁判所から選定される破産管財人(公的な存在として会社が残した財産を債権者に対し平等に分配していく役割を担う)などとして関わることになるが、破産における各種手続のスケジュールに余裕がないことが通常であることや、会社のクローズにまつわるドタバタに巻き込まれ、どうしても近視眼になりがちであることは否めない。そのような案件に手慣れた弁護士であってもそうなのであるから、いわんや突然、勤務先が倒産することを知らされた人をや、である。

しかしながら、いくら事業が立ちいかなくなった場面とはいえ、その会社には動産や不動産、また特許権、著作権、商標権等の知的財産権やノウハウなどの社会にとって有用な有形・無形の財産が残っていることが多い。そして、なによりもその会社で働いている従業員は会社が倒産しても食っていかねばならないし、この人材(財)を次なる道に導くための新しい機会にしなければならない。会社の倒産の場面においても、このように会社に残された(遺された)財産を、関係者のため、そして社会のために、いかに取捨選択し、選択した有形・無形の財産をいかに流動化し、再利用していくかといった、会社の「死後」を編集し、デザインしていく視点が肝要なのではないかと感じるところである。

Crossroads: Bankruptcy or Counseling” / Chris Potter CC BY Some Rights Reserved.

Crossroads: Bankruptcy or Counseling” / Chris Potter CC BY Some Rights Reserved.


そして、この視点は、会社の「死」、すなわち倒産や解散の場面のみならず、傾きかけている会社を立て直す事業再生の場面や、いわゆる「M&A」と呼ばれる積極的な事業再編の場面でも妥当する話である(とタイプしてみて、「再編」という言葉に「編」という文字が入っていることにいま気がついた)。去年から今年にかけて1年ほどお手伝いさせていただいたアパレルブランド、シアタープロダクツと瀧定大阪との間の事業再編でも、会社を編集し、デザインする視点の必要性は強く感じたことである。M&Aと一口に言っても様々なものがあるが、一般的な流れとしては以下のようなものが多い。

 ①買収、引受に関する企業戦略の策定(M&Aを行なう目的の明確化)
 ②買収先、引受先企業の選定(財務内容、株主構成、経営体制などの要素の調査)
 ③買収先、引受先候補企業との交渉
 ④基本合意(ざっくりとしたM&Aに関する条件等のすり合わせ)
 ⑤デューデリジェンス(基本合意の範囲内における詳細な調査)
 ⑥買収先、引受先企業との交渉(デューデリジェンスの結果得られた情報に基づき詳細な条件交渉)
 ⑦株式譲渡契約や株主間契約の締結
 ⑧クロージング(契約に基づく資産引渡しや代金の支払い等)。


この流れ自体のプロジェクト・マネージメント、そして、売却する株式数や売却価格といった直接的な事項だけでなく、ブランドイメージの維持、クオリティの担保、不動産、動産等の有形財産やコンテンツや商標等の知的財産の整理、今後の会社の展開、従業員の雇用条件の維持・改善などなどの様々な要素(素材)を議論し、交渉し、最終的には株式譲渡契約書や株主間契約書といった契約書に落としていく。このように場面において、物事の現況を見据え、未来に想像力を膨らませ、素材を「編集」し、あるべき姿を「デザイン」していくことは、弁護士ならずとも大切な視点であることは間違いない。現に、上述したシアタープロダクツの案件においても、ぼくなんかより、武内昭、金森香、中西妙佳が「編集者」、「デザイナー」として果たした役割のほうがはるかに大きかった(ぼくは彼らが描いたビジョンを契約書等に落としこんでいけばよいだけだった)。ぼくはこの案件において、事業再編の場面においても編集的視点やデザイン・マインドを有した人材のニーズがあること、そして編集やデザインという職能は意外と応用が可能であることを改めて実感した。

ランドスケープ・プロダクツという会社で編集者をやっている岡本仁さんやコルクの佐渡島庸平さんは「これからはどんな会社にも編集者が必要な時代になる」という旨のことをおっしゃっている。各御仁の言葉の真意が同一のものかについては置くとしても、ぼくは上述のような意味で、どんな会社にも「編集」的な視点を持つ人間が必要とされていることに同意する。

ぼくたちは、先人たちにより蓄積されてきた叡智やリソースが、インターネットという技術により、高度にアーカイヴィングされる時代を生きている。そのような時代において、編集者という職能を紙というメディアに閉じ込めておくのは、あまりにもったいない。紙というメディアに縛られていた編集者という職能が解き放たれ、いまよりずっと広い分野において必要とされ、活躍するときが近い将来やってくるだろうとぼくは確信している。

前回(本連載第3回の記事)、そして今回と、人格を擬制された法人も含む「人」の「死後」に関する編集およびデザインの重要性を説明してきた。さらに筆を進めれば、そのような「死後」に関する編集およびデザインの重要性は、物(もの)の「死後」についても妥当するだろうと考えているが、文字数が尽きたのでその話についてはまた次の機会に。

[Edit × LAW:第5回 了]


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Edit × LAW⑤「倒産・事業再編」 by 水野 祐、Tasuku Mizuno is licensed under a Creative Commons 表示 2.1 日本 License.


PROFILEプロフィール (50音順)

水野祐+平林健吾

水野 祐(みずの・たすく) │ 弁護士。シティライツ法律事務所代表。武蔵野美術大学非常勤講師(知的財産法)。Arts and Law代表理事。Creative Commons Japan理事。Fab Commons(FabLab Japan)などにも所属。音楽、映像、出版、デザイン、IT、建築不動産などの分野の法務に従事しつつ、カルチャーの新しいプラットフォームを模索する活動をしている。共著に『クリエイターのための渡世術』(ワークスコーポレーション)、共同翻訳・執筆を担当した『オープンデザイン―参加と共創から生まれる「つくりかたの未来」』(オライリー・ジャパン)などがある。 [Twitter]@taaaaaaaaaask 平林 健吾(ひらばやし・けんご) │ 弁護士。シティライツ法律事務所。Arts and Law。企業内弁護士としてネット企業に勤務しながら、起業家やスタートアップ、クリエーターに対する法的支援を行っている。近著:『インターネット新時代の法律実務Q&A』(編著・日本加除出版、2013年10月)。