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水野祐+平林健吾 Edit × LAW

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第10回「炎上」

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第10回「炎上」

平林健吾
 
 
夏の終わりに、また一つ利用規約が炎上しておりました。
 
■「テレ朝投稿サイト「みんながカメラマン」規約、批判受け改訂へ」
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1408/12/news137.html
 
「みんながカメラマン」は、事件・事故・災害現場の様子やハプニングなどの画像や動画を一般の人に投稿してもらい、テレビ朝日が報道に利用するという投稿サイトですが、このサイトの規約が、無償でコンテンツの提供を求めておきながら問題発生時の責任を投稿者だけに負わせていると批判を受け、規約の改定を余儀なくされたというのが今回の事案です。
 
日頃からウェブサービスの規約を作る機会が多いものですから、どのように改訂してくるか注目していたところ、先日、改定された規約が公開されました。そこで、今回は、批判の的となっていた(i)投稿コンテンツの利用に関する規定(ii)投稿コンテンツが第三者の権利を侵害した場合の責任に関する規定について、新旧の条項を見比べながら考えたことをまとめてみます *1
ところで、規約も契約の一種ですが、特定の当事者間で条件交渉が行われ全当事者が合意したところで締結される相対の契約と異なり、規約は、サービスの提供者が一方的に条件を決定し、不特定多数のサービス利用者との間で画一的な条件で契約関係が成立するところが特徴的です。
 
 
(i)投稿コンテンツの利用に関する規定について *2
投稿コンテンツの利用に関する規定は、旧規約では第4項と第5項にありました。以下のような内容です。

    (旧規約)
    4. テレビ朝日は投稿データを、地域・期間・回数・利用目的・利用方法(放送、モバイルを含むインターネット配信、出版、ビデオグラム化、その他現存し、または将来開発されるあらゆる媒体による利用)・利用態様を問わず、自由に利用し、またテレビ朝日が指定する第三者に利用させることができるものとします。当該利用にかかる対価は無償とします。
     
    5. テレビ朝日(テレビ朝日指定の第三者を含みます)は、前項記載の利用のために、投稿データを自由に編集・改変することができるものとします。投稿者はいかなる場合も、投稿者の有する著作者人格権を行使しません

これに対し、新規約は、投稿コンテンツの利用に関する規定を第4項にまとめています。以下のような内容です。

    (新規約)
    4. 投稿データの著作権は撮影者に帰属しますが、テレビ朝日グループ及びANN系列各局は、投稿データを期間、地域、回数、利用方法(放送およびインターネットを含みます)の制限なく利用すること、および利用にあたり内容の真実性を損なわない範囲で投稿データの編集・加工等を行うことを許諾して頂いたものとします。なお利用についての対価は無償とさせて頂きますのでご了承ください。

新旧いずれも、投稿コンテンツの著作権は投稿者に留保しつつ、「無償で投稿コンテンツを利用できる権利(利用許諾)」を取得している点で共通しています *3
ただし、投稿コンテンツの翻案/改変について、旧規約では「投稿データを自由に編集・改変することができる」と無制限に行えるかのような記載になっていましたが、新規約では「真実性を損なわない範囲で」との限定が付きました。また、利用許諾を受ける主体/再許諾できる範囲について、旧規約では「テレビ朝日が指定する第三者」への再許諾を可能とする記載がありましたが、新規約では利用許諾を受ける主体が「テレビ朝日グループ及びANN系列各局」に限定されています。さらに、旧規約で定められていた著作者人格権の不行使が新規約ではなくなっているのは、法的観点からは大きな差異です。
なお、新規約が「投稿データの著作権は撮影者に帰属します」と明示しているのは、利用許諾を求める規定にすぎないのに、投稿者から投稿コンテンツの権利を奪う規定と誤解されるのを防ぐための表現上の工夫です。旧規約の「将来開発されるあらゆる媒体による利用」という表現 *4 も「利用方法(……)の制限なく」という新規約の表現でおおむねカバーできるので削除されています。
 
無償で投稿コンテンツを利用する場合、利用許諾の範囲は、あまり欲を出さずに、実際に利用を見込んでいる範囲に限定するのがよさそうです。また、著作者人格権に関しては、サービス提供に必要な範囲の改変を了承してもらう文言(同一性保持権に対応)*5 や著者名表示が省略される場合があることを了承してもらう文言(氏名表示権に対応)*6 を入れることで、著作者人格権の不行使を正面から規定せずに済ませる工夫も必要と感じています。
 
 
(ii) 投稿コンテンツが第三者の権利を侵害した場合の責任について
投稿コンテンツが第三者の権利を侵害した場合の責任に関する規定は、旧規約では第7項にありました。以下のような内容です。

    (旧規約)
    7. テレビ朝日は、投稿データの利用に関して投稿者に何らかの損害が生じた場合でも、一切の責任を負いません。また投稿者は、投稿データの利用に関して第三者からテレビ朝日に何らかの異議・請求等があった場合、テレビ朝日からの要求に従い、投稿者の責任と費用において解決します。また、投稿データの利用が第三者の権利を侵害したとして、テレビ朝日が損害を被った場合は、これを賠償します

これに対し、新規約では、テレビ朝日と投稿者の責任分担に関する明確な規定がなくなり、投稿者の責任に関する注意書きだけが第2項の最後におかれています。

    (新規約)
    2.次のいずれかに該当し、またはその恐れのある投稿はお断りします。
    (ア)第三者がインターネット上にアップロードした映像や映画・テレビ番組等の映像の投稿をはじめとする、第三者の著作権、肖像権、知的財産権、プライバシー等の権利を侵害する投稿
    (イ)虚偽の情報を含む投稿
    (ウ)第三者を誹謗中傷する投稿
    (エ)コンピューターウィルス、そのほか本サイトに有害な影響を与える投稿
    (オ)本規約または法律・法令等に違反する投稿
    これらの投稿をした場合、法的責任が発生することがありますのでご注意下さい。

掲示板やブログ、画像・動画の投稿サイトといった典型的なユーザー投稿型ウェブサービスであれば、投稿コンテンツに関する責任はユーザーが負うという規定は一般的です。サービス提供者としてはユーザーに表現の場を提供しているだけであって、ユーザーが行なった違法行為の責任までは負えないし、そのようなユーザーの行為によってサービス提供者が損害を被ったらユーザーに賠償を求めるというのも、ある程度納得できるはなしです。
しかし、「みんながカメラマン」の投稿コンテンツは、テレビ朝日側が取捨選択したうえで自らの報道に利用する目的で投稿者から収集されています。そこで、そのような利用の結果生じた責任をすべて投稿者に帰するような規定にしてしまうと、ニュースソースに無責任な報道機関と捉えられて批判されてもやむを得ないように感じました 。法的観点からも、典型的なユーザー投稿型ウェブサービスの場合、投稿コンテンツに違法性があっても、サービス提供者側が権利侵害の被害者に対して責任を負う場面はプロバイダ責任制限法によって限定されるのに対し、「みんながカメラマン」の場合、テレビ朝日側が投稿コンテンツの違法性を看過して報道に利用すればテレビ朝日側に不法行為が成立しそうです。このとき、テレビ朝日側が投稿者に求償しても、消費者契約法により旧規約第7条は規定どおりの効力が認められない可能性が高いでしょう *7 。さらに、「みんながカメラマン」では投稿者の身元確認は行なっていないようですが *8 、そうであればいくら規約で投稿者の責任を規定しても、実際に責任を追求するのは困難です。
以上のことからすると、投稿コンテンツが第三者の権利を侵害した場合の責任については、新規約のようにあえて踏み込まずに済ますのが「みんながカメラマン」の場合は得策であるように思います。
 
さて、そろそろまとめに入りますが、相対の契約交渉であれば、当事者双方が自分の要求を主張し合う中で落とし所を見つけていくことができます。しかし、規約は、カウンターパートがいる契約交渉と違って、フィードバックがない中でユーザーの反応を想像しながら作成しなければなりません。そこで、自己の利益を追求する余り一方的で強欲な規定になっていないか、また、想定外の読まれ方を許す表現になっていることを見落としていないか、読み手であるユーザーの立場にたって想像力をはたらかせ、慎重に文言を吟味することが、規約の炎上を防ぐためには必要です。
 
[Edit×LAW:第10回 了]
 
 

*1│新旧の条項
改定された規約(新規約)と炎上した規約(旧規約)の全文は、以下で見ることができます。
■2014年8月27日付「投稿に関する規約」(新規約)
http://news.tv-asahi.co.jp/info/
■2014年7月22日付「投稿に関する規約」(旧規約)
http://megalodon.jp/2014-0812-0951-54/news.tv-asahi.co.jp/info/
 
*2│投稿コンテンツの利用に関する規定
ユーザー投稿型のウェブサービスの規約が、投稿コンテンツの権利帰属や利用許諾の範囲をめぐって炎上する事例は、これまで何度も発生しています。2001年のジオシティーズ、2004年のgooブログ、2005年の2ちゃんねる、2008年のmixi、近いところでは今年5月のUTme!、海外でも2012年のインスタグラムなど。
 
*3│著作権と利用許諾
以前は、無償で投稿コンテンツの著作権を譲渡するよう要求する規約もかなり存在したのですが、たいていユーザーから強く批判されるので、近時はほとんど見かけなくなりました。
 
*4│将来開発されるあらゆる媒体による利用
カセットテープからCDへ、VHSからDVD・BDへといった媒体の進化に対応するため、相対の契約書では同様の文言をよく見かけます。
 
*5│改変を了承してもらう文言
「やむを得ないと認められる改変」(著作権法20条2項4号)として許容される場合もありそうです。許容された事案として、たとえば「スウィートホーム事件(東京地裁平成7年7月31日判決 ・東京高裁平成10年7月13日判決)があります。
 
*6│著者名表示が省略される場合があることを了承してもらう文言
「利益を害するおそれがない」(著作権法19条3項)として省略できる場合もあるかもしれませんが、この要件を満たす場合といのはやや限定的であるように感じています。省略が認められなかった事例として、たとえば「月刊誌ブランカ事件」(東京地裁平成5年1月25日判決)。
 
*7│法的な有効性に疑問のある規定
ユーザーに対する警告やCS対応時の便宜のために、法的な有効性に疑問のある規定をあえて入れることもありますが、本件でその必要があったのかは疑問です。
 
*8│投稿者の身元確認
もしかしたら、報道に利用する前に個別に投稿者に連絡して身元確認をしており、身元確認できなかった投稿コンテンツは利用しないという運用なのかもしれませんが。

 
 
クリエイティブ・コモンズ・ライセンスEdit × LAW⑩「炎上」 by 平林健吾、Kengo Hirabayashi is licensed under a Creative Commons 表示 2.1 日本 License.


PROFILEプロフィール (50音順)

水野祐+平林健吾

水野 祐(みずの・たすく) │ 弁護士。シティライツ法律事務所代表。武蔵野美術大学非常勤講師(知的財産法)。Arts and Law代表理事。Creative Commons Japan理事。Fab Commons(FabLab Japan)などにも所属。音楽、映像、出版、デザイン、IT、建築不動産などの分野の法務に従事しつつ、カルチャーの新しいプラットフォームを模索する活動をしている。共著に『クリエイターのための渡世術』(ワークスコーポレーション)、共同翻訳・執筆を担当した『オープンデザイン―参加と共創から生まれる「つくりかたの未来」』(オライリー・ジャパン)などがある。 [Twitter]@taaaaaaaaaask 平林 健吾(ひらばやし・けんご) │ 弁護士。シティライツ法律事務所。Arts and Law。企業内弁護士としてネット企業に勤務しながら、起業家やスタートアップ、クリエーターに対する法的支援を行っている。近著:『インターネット新時代の法律実務Q&A』(編著・日本加除出版、2013年10月)。