※下記からの続きです。
第1回:武田俊(KAI-YOUディレクター/1986年生まれ)1/4
第1回:武田俊(KAI-YOUディレクター/1986年生まれ)2/4
第1回:武田俊(KAI-YOUディレクター/1986年生まれ)3/4
1980年代後半以降に生まれた〈ゆとり世代〉周辺の若手編集者にインタビューしていく「これからの編集者」スピンオフ企画。
第1回目は、ポータルメディア「KAI-YOU.net」などを手がける、今最も“POP”なメディアプロダクション・KAI-YOU LLC.ディレクターの武田俊さん(1986年生まれ)です。
(▲武田俊さん)
◆ もっと過去を参照しないと、コンテンツはつくれない
――例えば、校正記号や表記統一といった、編集者が用いる実務的な細々としたルールがありますよね。それらは基本的に、先人の経験則に基づいてつくられてきたものと思うんですけど、そういう従来の「編集者ならではの実務/技術/ルール」に当たるものについては、武田さんはどう考えていますか。
武田:そういった実務的な部分の知識体系に関しては、当然知っていた方がいいと思いますね。自分と近い世代だけで仕事をしていてはいけないと思いますし、それこそもっと“レジェンド”みたいな方たちと直接仕事ができるように、どんなジャンルの仕事であってもある程度の共通言語を持っていた方が良いです。経験則に基づいてつくられてきた知識や技術というのは、世代に関係なく持っておかなきゃダメだと思う。それを持っていれば、領域が本来違う相手の言っていることでもつかみとれる可能性が高まるから。その意味では、何かを仕掛けようと思っている人は、自分にとってアウェイな場所にもっと出る必要があるとも思っています。
過去を参照して新しい未来を想像するのがナンセンスだと言ったのは、あくまでテクノロジーに関しての話であって、コンテンツやプロジェクトやメディアをつくる時には、過去を参照することで得られる学びやメソッドがたくさんある。いろんな道を遡りながら今の人間を見て、目利きとしていかに物事を見せるか、というのは編集者として大事なことだと思います。
――「いかに物事を見せるか」というのは、座標軸のどの辺りに配置するのがいいのかな?という部分を考えるようなイメージでもあると思うんですけど、その座標軸に当たるものがやっぱり過去によって規定されているのかなと思います。
武田:そうですね。例えば19世紀初頭は、今よりも学問間の「横」の連携があったらしいんですね。「動物学」や「植物学」といった区切りがあまりなくて、「博物学」で全部を一括りにできるというような。もちろん情報量や専門性が今より比べ物にならないくらい低かったので、細分化する必要がなかったためですが、すごくおもしろい状況だなと思います。
その後、近代化が進むごとに学問のジャンルが細分化されていき、「横」の連携は少なくなっていく。でもその反面、高度な専門性が高まっていった。特化した知識体系の中身というは、学問的な評価は高くてエッジな価値を持っていても、高いリテラシーが要求されるので、どうしても理解しづらいものになってしまう。
けれど、それでも大づかみな魅力はわかるはず。だから知識のコアな部分を中心にして、その魅力を「編集」によってわかりやすく整え、それを本来ならその魅力に気づかないだろう遠くの人へ向かって投げるのが僕らの役割だと思っています。だって遠くの人に届けることができれば、その間にいる人にもおもしろさが伝わるはずですよね。そういった考え方は、KAI-YOU.netでも意識しています。
◆自分自身がコンテンツになるということ
――『NEWSポストセブン』の中川淳一郎さんが、このサイトのインタビューで「これからの編集者はある程度ピンで立っていて、自著が出せて、編集者っていう立場で好き放題できる人」――いわゆる山田五郎さん的な存在感の人を編集者は今また目指すべきだ、とおっしゃっていました。私も、今後そういう方が増えていくのかなと思っているんですが……。
武田:それは僕も分かります。「ピンで立つ」というのはたぶん、フリーランスだろうが社員だろうが、個人名のもとに活動する、っていうことですよね。今は個人がメディアとして発言したりふるまえるような情報空間なので、シンプルな物書きとしてではなく、本以外のものを含めた様々なプロジェクトを仕掛ける役割としての編集者のような存在が増えていくと思います。個人名で活躍している「編集者」がいれば、一方では個人名で活動している「クリエイティブディレクター」や「デザイナー」の肩書きを持った人もいる。当然、そういった方々同士の間で仕事が発生する場合もありますし。
――武田さんご自身は、そういう風になりたいと思いますか。裏方的にやっていくというよりは、ピンで立ったり表に出ていく方が合っているという感覚はあるんでしょうか。
武田:もともと僕は人見知りで、最初はオモテにたって、話をしたりするのは正直嫌だったんです。でも、人前で喋ったりイベントやシンポジウムの司会をしたりする中で、自分の考え方やおもしろいと思っていることをベースに、そこにいる人たちを繋ぎ合わせられている、と思える瞬間がいくつかあった。それと同じような感覚で、著者としても「何か書いて」と言われたらすごく嬉しいですね。
自分自身がコンテンツになって発生する文脈みたいなものを、繋ぎ合わせられればいいなと思いますし、繋ぎ合わせる事自体がコンテンツになったらそれはそれでおもしろい。つまるところ、KAI-YOUという会社で、先程もお話したような〈文脈を越えて世界を楽しめる人をつくる〉というコンセプトで活動ができればなんでもいいです。
――KAI-YOUのイベントは今後も企画されているんですか。
武田:具体的にはまだ決まっていないんですけど、「天狗 A NIGHT!!(※2012年5月に渋谷WOMBで行われたオールナイトイベント。株式会社TENGAが協賛)」のVol.2はやろうと考えています。Vol.1が、個人的にとってもよかったんです。企画意図として「ネットレーベルのおもしろさとクラブシーンのおもしろさを、同じ会場で合体させたい」っていうのがあって、だけど二項対立させてぶつけてしまうとクラスタは混ざり合わない。だったら普遍的なものでパッケージしようと考えた時に「エロ」というのが出てきたんですよね。そこでTENGAさんに協賛として入っていただき、「来場者には、男女問わず全員にTENGA EGGを配る」という施策が行えました。あえてマジメに言いますが、普遍的なものを入り口で共有させられたからこそ、ネットカルチャー文脈の人も、クラブカルチャー文脈の人も同じ音で楽しく踊ってもらえたんだと思います。
――そういうのが実現できるのは、リアル空間でのイベントだからという部分が大きいですよね。
武田:そうですね。しかも音楽だと、ビートがあればみんなノレるので、それまで聴いたことのなかったアーティストの曲でも楽しめる。僕は明け方のメインフロアで、クラバーもオタクもまぜまぜの中、「ミクーっ! 天狗ーっ!」って外国のお客さんがシャウトしていた瞬間に、泣きそうになりました(笑)。
――最後に、自分とは異なる世代に対してのメッセージなどはありますか。
武田:僕の周りには、紙媒体の編集者として仕事をされている、尊敬している先輩がたくさんいるんですが、そういう方々が「この店はいいぞ」と言ってお酒の飲み方を教えてくれるといったような、昭和っぽい先輩-後輩のコミュニケーションが僕はけっこう好きなんです。そういう場で、業界や年齢を問わず多くの方たちが、先輩として様々な事を教えてくれた。それこそ請求書の書き方から、お酒の飲み方、人付き合いについてまで、たくさんです。
就職の経験がない僕にとって、直接の師匠や先輩、上司がいないのは変えようがない事実で、そんな時にクラウドのようにいろいろな方たちが親身になって教えてくださったのが、今になって活きていると思います。
あと3〜4年もしたら、今度は自分がそういう立ち位置に社会的になっていくと思うので、その時に何をおもしろいものとして下の世代に伝えられるのか、というのは考えます。その時何を選んで、どんな編集を通して彼らに情報を届けられるのかなと。
――それは仕事以外の事にもあてはまる事ですよね。
武田:そうですね。そういった人との関わり全体が、仕事のパフォーマンスにもストレートに表れてくる。どんなものでも仕事につなげられるのが自分たちの強さだと思っているので、今、直接仕事で携わっていないものについても知りたいし、普段読まない本を読みたいし、展示やイベントなどにももっと行きたいなと思います。それをできるだけ、これまで好きだったものの外側から見つけたい。現時点での自分の興味関心の枠組みでは、まだ世界と遊ぶには遠い感じがします。もっと自分を拡張できれば、もっといろいろな人と会えるし、もっといろいろな人に届くコンテンツをつくる“秘密の技術”とは言えないまでも、“勘所”みたいなものは、押さえられるかなと思う。だからもっと、自分の頭と体を遠くへ飛ばしていきたい。そう思っています。
[第1回:武田俊(KAI-YOUディレクター/1986年生まれ) 了]
2013年10月3日 KAI-YOUオフィス(池袋)にて
聞き手・構成:後藤知佳(numabooks)
1987年生まれ。ゆとり第一世代。東京都出身。
出版社勤務などを経て、現在「DOTPLACE」編集者。
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