「これからの編集者」をテーマに、さまざまな人にインタビューしていくシリーズ。第7回は、「NEWSポストセブン」など数々のネットニュースの編集を手がける編集者、中川淳一郎さんです。
※下記からの続きです。
第7回:中川淳一郎(ネット編集者) 1/5
第7回:中川淳一郎(ネット編集者) 2/5
第7回:中川淳一郎(ネット編集者) 3/5
第7回:中川淳一郎(ネット編集者) 4/5
ネットでウケるものは不変
――中川さん自身もネタを探すし、ライターの人からもたくさんネタが来るわけじゃないですか。ライターの中にも、面白いネタを見つけることが出来る人と出来ない人がきっといると思うんですけれども、その差は何なんですかね。ネタを見つける力は、磨けるものですか。それとも、そういう人たちは元々おもしろいだけなんですかね。
中川:どちらかというと、後者じゃないかな。あとはこちらの要求するものをちゃんと出してくれるかどうかなんですよ。単純におもしろいものをネットで見つけるには、見続けるしかない。あとはこのサイトにはいいネタが集積しているっていうサイトを、ひたすらブックマークしておくこと。これですよ。
中川淳一郎さん
――そういうのは中川さんがライタ―さんに教えたりするんですか。このサイト見とけよみたいな。
中川:いや、こっちが教えちゃったらね、同じもの見るから。彼らが独自に選んだものを、こっちが知るほうがいいじゃないですか。
――ネットで面白がられるものというのは、この先も全然変わらないんですかね。
中川:変わらないでしょ。一緒です。人間が何に興味持つかってまったく一緒です。雑誌だと、それは人々の思考のうちの、ひとつの側面なんですね。株やってる人は日経新聞読むとか、ゴルフ好きな人はゴルフ雑誌読むとか、そういう一部だけなんだけど、インターネットっていうのはもうちょっと人間の根源的な欲望に近いんです。エロとか、儲かりたいとか、そういう話なんですよ。
――『ウェブで儲ける人と損する人の法則』の中に、「ネット文脈に必要なウケる要素」11カ条がありましたよね。(1)話題にしたい部分があるもの、突っ込みどころがあるもの (2)身近であるもの、B級感があるもの (3)非常に意見が鋭いもの (4)テレビで紹介されているもの、テレビで人気があるもの、ヤフートピックスが選ぶもの (5)モラルを問うもの (6)芸能人関係のもの (7)エロ (8)美人 (9)時事性があるもの (10)他人の不幸 (11)自分の人生と関係した政策・法改正など。まさにこれのことかと思うのですが、この11か条はその後、増えたりはしていないんですか。
中川: 2個増えました。まずは (12)韓国が関わっているもの。世論に嫌韓感情が高まったのが大きいです。もう一つは(13)ジャズ喫茶理論が適用されるもの。これはLINE株式会社執行役員の田端信太郎さんが提唱された理論なんですが、ジャズ喫茶では当時「自分が本当に聞きたい曲」ではなくて、周囲の目を意識して『こいつ通だな』と思わせる、小難しいマイナーな曲を頼むような競争があった。それまでは基本的に下世話なコンテンツしか伸びなかったので自分が本当に好きな記事だけを読んだり、RTしていたわけですね。ただ、Facebookの普及で実名でコミュニケーションするようになって、そういう「自分はわかってますよ」と知らしめたくなるような賢いコンテンツも伸びるようになった。下世話な記事は匿名性の高いTwitterのほうがシェアされて、賢い記事は実名制の高いFacebookのほうがシェアされるという、逆転現象が起きているんです。
――なるほど。確かにこのdotPlaceというサイトも、アクセス的にはTwitter経由が一番多いのですが、表面上のシェアの数は圧倒的にFacebookのほうが多くなります。
中川:でしょ? 賢いコンテンツはそうなるんですよ。
編集の仕事は増えている
――当時ネットニュース編集者というと中川さん以外に表に出る人がいなかったというお話がありましたが、その後、増えてきているのでしょうか。
中川:「ハフィントン・ポスト」の松浦茂樹さんとかはそうですよね。ただ、依然として、どこかに所属している社員の人が多いからね。フリーがいないから。googleで「ネットニュース編集者」って検索するとわかるんですけど、出てくるのオレばっかなんですよ。職種としては明確にあるんですけど、それを名乗る人があんまりいないんでしょうね。
――名乗っていなくても、人口として、やっている人は増えている。
中川:うん、だってニュースサイトってたぶん1000個とかあるわけじゃないですか。
――そんなにあるんですか。それって、これからも増えると思いますか。
中川:いや、もうPVが横ばいだから難しいですよ。ページビューが伸びないという理由で閉鎖になるサイトもたくさんあります。先ほども申し上げましたが、ネットユーザーの数がもう限界のところまで来ちゃった。クリック数は有限、っていう当たり前の論理で、もはやいまから新しいメディアをつくっても、PVを取るのは簡単ではないですね。
――そんな中で、いま若い人で編集者になりたい人に、何か伝えたいことはありますか。
中川:ネットをちゃんと見とけ、ってことですかね。紙の編集はさらに厳しいと思うので、ネットの編集をどう考えるかですね。あとはきちんと企業の仕事を取れるような、マーケティングとか商品に関する知識を得たほうがいいと思います。実はインターネットがあるおかげで、編集者の仕事は増えてるわけですよ。それは各社がウェブサイトを持ったり、ソーシャルメディアを運営したりしているから。そこに編集能力って必要なんですよね。本当の意味で編集者として、「あいつはイケてる」って評判を得られれば、仕事はどんどん取れるわけです。
――たとえばいま大学生がそれを目指すとして、どういうところに就職するのがいいんですかね。それともいきなりフリーになるのがいいんでしょうか。
中川:ああ、どこでもいいですよ。とりあえず不動産屋でもなんでも入っちゃって、不動産屋に詳しい編集者とかね。食品に詳しい編集者とか、添加物に詳しい編集者とかなんでもいい。専門性を持っていると、需要がありますから。だからとりあえず入っちゃって。オレはアイスマン福留って人は結構頭賢いなって思ってます。彼は「コンビニアイス評論家」じゃないですか。自分の詳しいところをすごい絞ってるんですよ。たとえば間取り評論家とかいいんじゃないでしょうか。引越しのときに不動産屋のチラシとか渡してその人に相談すると、ここはこのドアが悪いとかね、風水的なことも含めて言える評論家で、編集者・ライターとかだったら、結構仕事あるんじゃないかと思うんですよね。そういうのを見つけろってことですよね。アイスマン福留はその最高の例です。
――たしかに仕事は増えているわけですよね。サイトも多いし、ソーシャルメディアもやらなきゃいけないし。運よく広報担当みたいなところに行ければ、いきなりそれをやるわけですもんね。そのあとフリーになってもいい。
中川:別に営業でもいいんですよ。家電メーカーの営業マンとかだって、別にいきなり編集者になれたりすると思うんですよね。扇風機売ってる人が、扇風機に超強いとかね、節電企画には引っ張りだこですよ! TUBEみたいに夏限定で稼いで、なぜか冬はコタツの評論家になるっていう。そういう風になればいいんですよ。金融に強ければ、いろんな雑誌が定期的に株特集をやるわけですから、そこできちんと仕事を取れる人になれると思うんです。
人に好かれること、野望を持つこと
――最近リニューアルされたメルマガには「人に好かれてお金を稼ぐ」っていう連載がありますよね。「cakes」の連載もそういう終わり方でしたが、やっぱり仕事は、人に好かれることなんですね。
中川:やっぱり仕事って人がくれるものでしょ。人がお金をくれるわけじゃないですか。だとしたら、じゃあもうその人に好いてもらったらまた仕事がもらえる。それが自分の生活の糧になるって話だと思うんですよね。この前、切ったライターがいるんですが、一週間に一回、オレがやっているニュースのライターを担当してもらってたんですね。で、最初は1回休むって言ってきたんです。で、わかった今回はオレが書くかということで、書いたんです。ところが翌週、今度は何も言わずにまた休んだんですよ。それでオレが激怒したんですね。オレは当てにして待っていた。それを編集する1時間で終わるはずの仕事に、自分で4時間かかることになるわけです。お陰でその日の予定が大幅に狂いました。速攻「今週で終わりにします」って本人に冷徹に伝えた。本人は「まさかここまでの大事になるとは……」って言うんですが、そういうもんなんです。結局人間が、感情で「こいつはダメだ」って思ったら、仕事はそれで終わっちゃうんです。ちょっとむかついたぐらいで終わっちゃう。能力云々よりね。彼は能力はあったんだよ。文章はうまかったし、適切な情報を入れていた。でも感情を外した時点で、終わりなんですよ。
――なるほど。人に好かれること以外に、これからの編集者が目指すべきことって何かありますかね。
中川:金持ちですね。編集者には野望を持っていてほしいんですよ。ある程度ピンで立っていて、自著が出せて、編集者っていう立場で好き放題できる人になれってことですね。それって椎名誠が実現したことなんですよ。椎名さんなんて、山登ったり釣りをするだけで仕事になるとかね、自分の好きなことやってなぜかお金がついてくるっていう。それをどうつくるか。あとは山田五郎とか、石川次郎とか。あのへんの人たちが編集者って仕事をしながらコラム活動したりとか、映画撮ったりとか、80年代は自由にできたわけですよ。それをもう1回目指すべきじゃないかと。編集者って普段から情報をいっぱいゲットして、それを世間の人がおもしろいねって思える加工をする仕事じゃないですか。情報が集まる人種なんだから、それをどう発展させるかなんですね。そういう意味でも、メーカーとかのサラリーマンが、特定の分野に関して非常に詳しくなるのはいいんです。いかに上手に加工すれば、さらに仕事が来るか。山田五郎が「アド街ック天国」でずっとコメンテーターをやってるじゃないですか。オレの場合でいうと、今日もこれからNaked Loftでイベントをやったりするわけですよ。
――中川さん自身は、これからやってみたいことってありますか。
中川:だいたいやっちゃったのよ。いまはないので、粛々と編集小作農やって、とりあえず生きていきますよ。いずれは、ゲームやってるだけで仕事になるとかね。そうなっていきたいですね。
(了)
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インタビュアー: 内沼晋太郎
1980年生。一橋大学商学部商学科卒。numabooks代表。ブック・コーディネイター、クリエイティブ・ディレクター。読書用品ブランド「BIBLIOPHILIC」プロデューサー。2012年、下北沢に本屋「B&B」を、博報堂ケトルと協業で開業。
編集構成: 内沼晋太郎
編集協力: 片山菜緒子
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