「これからの編集者」のスピンオフ企画として始まった、1980年代後半以降に生まれた〈ゆとり世代〉の若手編集者へのインタビューシリーズ。
第3回目のゲストは小田 明志(おだ・あかし)さん。17歳のときに「ストリート・キッズのための教科書」として雑誌『LIKTEN(リキテン)』を創刊し、2009年から2011年にかけて3号までを発行。
現在は大学に通うかたわら、広告代理店にも籍を置くようになった小田さんの最近についてや、「編集」に留まらず世間と向き合う際のスタンス、そして準備中の『LIKTEN』最新号などについてじっくり伺ってきました。
全然調子に乗ってなかったし、むしろ冷めていた
――今日は、小田さんが学業のかたわら在籍されているWieden+Kennedy Tokyoのオフィスにお邪魔しているわけですが、小田さんはそこでは具体的にどういった立場で仕事に関わっているんですか。
小田:籍がある、という程度で、社員ではないんです。ECD(エグゼクティブクリエイティブディレクター)のアシスタントとしていろんなプロジェクトに入っていって、その時々で必要なことをする感じですね。
主には、広告の中で起用できそうな若くて才能のあるクリエイターやパフォーマーを探して連れて来るというのが僕の役目です。知り合いにもそういう人が多いし、もともと好きでそういう場所に行っているから、自分が役に立っている感じです。
――Wieden+Kennedy Tokyoに籍を置くようになったのは最近のことなんですか。
小田:いや、正式に名刺を作ってもらったのは2~3ヶ月前なんですけど、以前からプロジェクト単位で関わってます。ECDの長谷川踏太さんと『LIKTEN』の2号を作ったくらいに知り合って。当時彼はまだロンドンを拠点にしていたんですけど、そのあと、東京に来てWieden+Kennedy Tokyoに入ったくらいの時期から付き合いが始まりました。
――高校生の頃から雑誌を作られていて、周りの大人からも「大学に行く必要なんてない」とか言われることもあったと伺っているんですが、今は慶応義塾大学の湘南藤沢キャンパス(SFC)にいらっしゃるわけですよね。そこに進もうと決めた理由は何だったんですか?
小田:単純に、もっと近道をしたかったんですよね。自分の興味のあることが学校で教えてくれるテーマだったりしたので。組織に属しながら、自分の好きなこともできるんだったら、時間の許す限りはそういう組織に属した方が得なんじゃないかと思って、大学に入ったんです。
――過去の『LIKTEN』を振り返ったときに、「今だったら違うやり方をしていたな」とか、思ったりしますか?
小田:それはもう、全部違いますね。雑誌は出していたと思いますけどね。
でも今になって振り返ってみると、これを高校生のときに出したのはわりとすごかったんだと思いますね。
高校生のときに出したので、チヤホヤされるのはわかってたんですよ。チヤホヤされて「調子に乗るな」と言われたときもあったんですけど、自分では全然調子に乗ってはいなかったし、むしろ冷めていて。高校生の頃は「なんでこんなに叩かれなきゃいけないんだ」っていう感情が強かったんですが、今になってやっと自分の若かったときの価値っていうのを冷静に判断できるようになりました。そこに戻りたいとは思わないですけど。
――『LIKTEN』3号が出てからだいたい2年が経ちましたが、次の号は準備されているんですか?
小田:もうすぐ出ます。実はもうほとんどできてます。
この2年間、作ろうとは思っていたんですが、なかなか思い通りにならないことが多かった。もしかしたらスランプみたいなものだったのかも……。だけどその間が空白だったという気はしていなくて、いい経験にはなった。この2年でWieden+Kennedy Tokyoと付き合いができたりしたので、それは良かったと思います。
――この2年の間に、環境や周りの人の変化がかなりあったんじゃないでしょうか。
小田:それは全然変わらないですね。周りの人は変わりますけど、自分の立ち位置は変わることがあまりないかな。
大学に入ると、こういうこと(雑誌を作ったり)をやっている人たちがたくさんいると思っていて。だけど実際、「やってるっぽい」人たちはたくさんいるんだけど、「やってるっぽいだけ」の人が多いかな。だけど最近だと、学生よりもプロフェッショナルとして活躍している人たちと遊ぶことが多くなってきました。ミュージシャンの友達とか。
――それは同年代というよりは、少し上の世代ですか?
小田:いや、同年代です。OKAMOTO’Sのレイジくんとか。彼らは若いバンドとして注目されている面もあるけれど、カルチャーに深い理解があるという別の一面があって、自分たちで新しいものを作っていこうと考えてる。彼らはもう学生じゃないし、音楽で食っているし、すごく刺激を受けましたね。自分たちのやりたいこととか、カルチャーとかが生活に直接結びついている人たちに刺激を受けます。
あんまり若手とかゆとり世代とかは意識したことがないですね。おじさんでも(内面が)若い人はいるし。たとえば長谷川踏太さんとか、同世代の友達より若いんじゃないかって思うときがありますよ。ここでの僕の肩書きは彼のアシスタントということになってるんですが、好きな人の近くにいられるのは楽しいですね。
「クリエイティブ」には興味がない
――今小田さんは大学3年生ですよね。大学を卒業された後もWieden+Kennedy Tokyoに残るんですか。
小田:いや、わからないです。
――いわゆる「就活」みたいなことをする可能性もあったりするんですか?
小田:僕は9月に大学に入ったので、就活が始まるまでまだ時間があるのですが、その時が来たらしてみたいとは思います。単純にやったことがないから。でも嫌になったらすぐやめようと思ってる(笑)。健康に悪いことはあまりしたくない。
――「ここなら入ってもいい」みたいな会社は、思いついたりします?
小田:全然考えてないです。
変に早いうちからこういうことをやって、いわゆるカテゴライズされた人たちが多くいる場所に行くのって、そこがなんだか“村”っぽくて。「これをやるならこの人」みたいなのが完全に決まっちゃっている感じというか。外様から見ていて、「東京カルチャー」みたいなものをちょっと窮屈に感じてて、そこから抜け出したいなとは思いますね。「クリエイティブ」といわれるような分野にはあんまり興味がないですね。できるだけスポーツとか、そういう分野に行きたい。
――それは、スポーツメーカーに入ったり、ということですか?
小田:そういうのは関係なくて、スポーツの世界に入りたいんです。
――チームのマネージャーとか?
小田:そう。
――なぜスポーツなんですか?
小田:「クリエイティブ」とは言わないじゃないですか。いわゆる文化的な人たちがそこにはいない。
――以前受けられていた「NexT」でのインタビューでは、サッカーのたとえを非常にうまく使って話されてましたね。
小田:そうですね。サッカーに例えると全部うまくいくんです、好きすぎて。
素材を自分で集めて、素材の単体以上のもの、単純な足し算以上のものになるっていうことに興味があるんですよ。
たとえば、雑誌が3号続くことで、1+1+1が4ぐらいになってる。そういうことに興味があるんです。
DJでいえば、曲単体でも価値があるんだけど、この曲とこの曲が並ぶとまた違う意味を帯びてくるとか。サッカーもフィールドの中に11人と11人がいて。組み合わせには無限のパターンがあるわけですよ。22人でランダムに生成される世界というのが、自分にとってはアートなんですよね。
異分子でいること
――なぜ広告だとそれができないと思ったんですか?
小田:できないとは思ってないです。ただ、異分子でいることが好きなんです。
いま大学でスポーツビジネスのゼミに入っているんですが、そこは体育会系の人たちしかいないんです。体育会系の人たちしかいないところに僕がいると、すごくおもしろがられるんですね。その前は広告とかに興味がある人たちばかりのゼミにいたんですけど、そっちにいるより気づきが多い。単純に自分の世界と全く被ってないので、だからこそ被る余地がある部分がどんどん見えてくる。伸びしろが多いんです。
サッカーで例えるなら、向こうに人がめちゃくちゃ集まってるけど、こっちには全然人がいない状態。でもボールがくればそれは大チャンスじゃないですか。
人が密集している中で戦いながら生き抜くスキルを磨くというより、それを見ながらも違うスキルを磨いて、来るべきチャンスに備える、みたいな。そういうのが好きなんです。
――ここ(Wieden+Kennedy Tokyo)でも外様ポジションですか?
小田:外様ですよ。でも重要なのは、「まったく知らない世界じゃない」ってことですよね。“ごちゃごちゃ”(の様子)を窺えなきゃだめなんです。「窺いながらも、そこに行かない」っていうことが重要。まったく理解できない業界ではなくて、ある程度理解できる業界でのチャンスを窺いつつ、違う分野にいるっていうのが、一番好きかな。
サッカーをやっていたときと全く思考が変わっていなくて。自分はすごいテクニックがあるわけでも足が速いわけでもない。ちょっと体力があるくらいの選手が、どうやったらサヴァイブできるかっていうと、人と同じ思考で動いてちゃダメで。うまいサッカー選手と下手なサッカー選手がどこで分かれるかというと、テクニックのある人とない人、じゃないんですよ。単純に、選択肢を素早く判断できる人。パス、シュート、キープっていう3つの選択肢しかない人のほうが、さらに“抜く”とか“フェイントしてシュート”っていう選択肢がある人よりも、選択のスピードが早まったりする。僕は選択肢が少ないので、少ないなりの戦い方をしなければいけない。
――『LIKTEN』を見る限りでは、小田さんは文章も書いているし、イラストも描いているし、選択肢が少ないようには思えないですけど……そもそも少ないんでしたっけ?
小田:単純に1人だから、戦力として低いんです。デザインとかも一通りはできるんですけど、スピードも遅いし、デザイナーよりうまいとはいえない。
ストロングポイントが特にないんですよ。たとえばWieden+Kennedy Tokyoと僕がいて、1つでもWieden+Kennedy Tokyoより優れているところがあれば、そこで勝負すればいいけど、今のところはそうじゃない。いかにしてお宝をゲットするかを考えると、今は集団に飛び込んでいくよりも外様で見ていた方がいいし、将来的にもその方がいいような気はしてます。
[2/5に続きます](2013/11/19公開)
聞き手:後藤知佳、内沼晋太郎(numabooks)
編集協力:松井祐輔
[2013年11月08日 Wieden+Kennedy Tokyo(中目黒)にて]
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