INTERVIEW

セルフパブリッシングで注目の、あの作家に聞く

セルフパブリッシングで注目の、あの作家に聞く
『440Hz』澤俊之さん

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セルフパブリッシングの現在に迫るべく、Amazon Kindle ダイレクト・パブリッシングなどで注目の作家にメールインタビューしていくシリーズ。更新再開後の第3回目は『440Hz』を出版されたセルフパブリッシング作家、澤 俊之(さわ・としゆき)さんです。

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作品紹介

for_kindle_440hz『440Hz』シリーズは、Amazon Kindleで立ち読みできます。

「440Hz」――すべての事柄はギターに帰着する物語
これはエピソードの内の一つ

主人公は40代後半のサラリーマン。
高校時代に出会ったギターを捨てて、どれくらいの年月が過ぎただろうか。
ある事故を機にギターを思うように弾けなくなってしまった。
そして、同時に人生も思うように描けなくなっていた。
……主人公は、ギターに出会った頃を思い出し、舞台は1979年へ。
進学校に入りながらも、無為な日々を過ごす高校生の主人公。
学校をサボり、港近くの海洋大学で昼食を摂っている時に、ある青年に出会う。妙な屁理屈で丸めこまれ、ギターを仕込まれる事に。
しかし、主人公はギターの修練によって、物事の判断基準を習得していき、無為な日々を輝かしいものに変えていく――

2012年末 『440Hz』
2013年2月『440Hz:B-side Track01』をダイレクト文藝マガジンに寄稿
2013年3月『440Hz:B-side Track01 Director’s Cut』(加筆・再編集版)
2013年4月『440Hz:B-side Track02』
2013年5月『Five Months in KDP』
2013年8月『440Hz -1978-』

現在は本作を起点とした作品を執筆中

著者プロフィール

20131012東京都在住。好きなアーティストはリッチー・コッツェン。小説としての処女作はギター小説『440Hz』。愛用ギターはアイバニーズのJ-Custom。愛犬はミニチュア・シュナウザー。

メールインタビュー

Q01・性別やご年齢、お住まいの場所、ご所属やご職業とそこで何をされているかなど、お話いただける範囲で構いませんので、澤 俊之さんについてお教えください。

うお座のA型で男性です。東京都に在住しています。職業はWeb関係です。昔は音楽制作などもしておりました。
10代の頃からギターを嗜んでおり、上京後に何度かプロになる機会があったのですが、想像以上にコマ扱いだったので、インディーズで活動していました。ハード・ロックを基調とした音楽性でしたが、最後の方ではスラッシュ・メタルからボサ・ノヴァまで幅広い要素を取り入れていました。好きな事が出来て満足しましたし、何でも自分で考えて行動することを学べました。今でも時々ギターを弾いています。

Q02・そんな澤 俊之さんが、なぜ『440Hz』を執筆されるに至ったのか、その動機をお教えください。

想いとして“ギターの素晴らしさを伝えたい”というものがずっとありました。直接ギターを弾いて伝えればいいのですが、場所や時を選びます。本としてなら、いつでもどこでも見ることができるので、これは大いにアリだと思いました。
原型となるものに着手していた頃、Webディレクターとして従事していました。モバイル向けギター音楽サイトの担当をしていましたが、著作権絡みの下払が多く、収益構造があまり良くなかったので、回収を考慮すると有償プロモーションをすることが困難でした。そこでSEO対策および、コンテンツの一環として、隔週でサイトに短編小説を連載することになったのがきっかけです。その時には連載途中で担当を離れることになって完成には至りませんでした。
それから3年経った2012年に、iPhone向けのブック・アプリなどが流行ったのもあって、ネタのひとつとして掘り出してみました。読み返してみると、時系列もトーンもバラバラ、ストーリーの矛盾や誤字も散見されました。ですので、一から書き直すつもりで編集を行い、形となりました。えらい苦労しましたね。しかし、内容に絶対の自信があったのも事実です。だからこそ仕上げることが出来たと思います。その後いろいろあってiPhoneブック・アプリではなくKDPにての出版となりました。
値付けについても色々考えました。“299円”は強気価格の部類らしいですが、ニッチにおいては価格を相対的に見ても意味が薄いと考えます。欲しいものなら、それなりの値段でも躊躇せずに買いますが、欲しくないものならば、99円でも買いません。無料でも怪しいでしょう。
自著に関して、むやみに読者を広げるつもりはありません。
“届くべき人に届けばいい”というのは、同時に“届くべきでない人に届かないようにする”という事です。説明文や無料サンプルをご覧頂いて、その上で299円の価格がハードルに感じるのならば、ご購入をお薦めできません。これらの詳細は『Five Months in KDP』で言及しております。

Q03・『440Hz』の執筆には、どのくらいの期間と時間がかかっていますか。

隔週連載で、一話あたり2時間と決めて執筆しておりました。全八十話なので、執筆は160時間。小説にまとめるにあたって、編集などを入れると200時間は超えていました。
その後の『B-side』シリーズは執筆に7時間、推敲に2時間、表紙制作その他で3時間くらい。合計12時間です。最初からボリュームを1万文字と決めて書きました。これ自体を販売するのではなく、無料配布することで、本編を売ることが目的でした。
99円に値段設定して1,000部売っても35,000円。無料配布して、299円の本編を1,000部買って頂ければ209,000円の収益です。
世界観を共有した内容である点が、本編を購入して頂くきっかけになったと思います。フリーミアムの概念を取り入れたのですが、無料配布数と本編販売数がほぼ同数になるという恐るべき結果になりました。『1978』は、すべて含めて120時間くらいです。10万文字強。だいぶこなれました。

Q04・『440Hz』の執筆は、一日のうちのどのような時間に、どのような環境で行われましたか。

就業時間外の夜中に書いていました。ギターを膝に置いて執筆、という感じです。環境という言葉が制作ツールという意味合いであれば、Wordとメモ帳で執筆しています。連載当時はタグで挟みながらCMSに直接書き込んでいました。『B-side』や『1978』については移動中にスマホで執筆する事が多かったです。

Q05・『440Hz』をセルフパブリッシングするにあたって、参考にされた本やサイトなどがありましたらお教えください。

参考にした、というよりも、Kindleで出すきっかけとなったのは藤井太洋さんの『Gene Mapper』です。深津さんのブログで見かけて拝読しました。私にとっては神に等しい存在です。この機会が無ければ、『440Hz』はいまだに形になっていないかもしれません。犬子さんがインタビューで触れていましたが、私もdoncha.netさんには大変お世話になっております。

Q06・澤 俊之さんが作家として、影響を受けていると感じる作家や作品がありましたら、お教えください。

小説という意味合いでは山本周五郎に一番影響を受けています。向日性の強調は、直接的ではありますが、その分心に届きやすいと思います。また、その時期に活躍していた他の作家と比較するとリーダビリティが高く、“読みやすさ”の重要性も気にかけるようになりました。
表現行為に“必然性”があることを学んだのは音楽、特にギター・プレイからです。“なぜ”そこに“それ”があるのかを教えてくれたのは音楽です。すべての事象に筋道があることをギターを通じて学びました。良いギター・プレイは緩急や起承転結に秀でています。ちなみに、ギターを弾くきっかけになったのはメガデスかハロウィンだったと記憶しております。

Q07・澤 俊之さんが、最近注目されているものやことをお教えください。

キッスとジョンスコの来日です。先般コッツェンの来日が久々に実現しましたが、ワイナリー・ドッグスではなく、ソロかマザーヘッズ名義で来て欲しいところです。

Q08・当サイトでは「これからの編集者」という連載を通じて、セルフパブリッシング時代の編集者の役割についても考えています。もし、作家としての澤俊之さんのことを新たにサポートしたいという編集者が現れたとしたら、その人に期待したい役割は何ですか。

ギターが弾ける、もしくは興味がある、ということを期待します。音楽性の不一致は解散のきっかけとなるので、その辺りもマッチすると嬉しいです。

Q09・『440Hz』が、今後、紙の本として書店に並ぶとして、この本の隣に並べて欲しいというような本を、3冊挙げてください。

『孤独のグルメ』、『ROCKOMANGA!』、『ジジメタル・ジャケット』。全部漫画ですが、これらを読んでいないのは人生の大損失です。『440Hz』がコミカライズされたら是非とも隣に並ばせて頂きたいですね。

 

Q10・次の作品の構想がありましたら、お話いただける範囲でお教えください。

本編に登場した主人公の師であるキサラギ青年の物語を書いています。SF編、スパイ編などの構想もありますが、なぜかすべて『440Hz』シリーズに属します。本編において「伏線が回収されていない」と、ご意見を頂くことがあるのですが、続編での回収を想定しての事です。引っ張りまくりますが、ご容赦くださいませ。

Q11・澤 俊之さんが注目していて、このコーナーで取り上げてほしい、ほかのセルフパブリッシングをされている作者がいらっしゃいましたら、教えてください。

じぇんじぇん氏。既に作風は確立しています。自分の感性にぴったりです。KDPにおいてはセルフですが、漫画連載などお持ちのプロです。
アクション・シーンの表現が秀逸です。映画好きなんだろうな、と強く感じます。

Q12・最後に、このインタビューの読者の方に、メッセージをお願い致します。

もう少し砕けた感じで面白いこと言おうと思いましたが、予想以上に熱が入り、マジメな内容になってしまったようです。すみません。
さて。ギターを弾いている、かつてギターを弾いていた、ギターに興味がある。そんな方には是非自著を読んで頂きたいと思います。ギターは最高です。1曲弾きこなせるだけでも、生き方を学べます。そして、出来ることならば、更にそこからギターの素晴らしさを広めてもらえると非常に嬉しいです。下手くそでもなんでもいいと思います。やる事が大事。

(了)

 

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