INTERVIEW

〈ゆとり世代〉の編集者

〈ゆとり世代〉の編集者
第1回:武田俊 1/4(KAI-YOUディレクター/1986年生まれ)

ゆとりバナー21980年代後半以降に生まれた〈ゆとり世代〉周辺の若手編集者にインタビューしていく「これからの編集者」スピンオフ企画。
第1回目は、ポータルメディア「KAI-YOU.net」などを手がける、今最も“POP”なメディアプロダクション・KAI-YOU LLC.ディレクターの武田俊さん(1986年生まれ)です。

※「これからの編集者」のバックナンバーはこちら

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(▲武田俊さん)

◆特定のクラスタの中だけで消費されるようなものは意味がない

――まず最初にざっくりとお聞きしますが、「KAI-YOU」ってどのようにして始まった会社なんですか。

武田:経緯的なところも踏まえてお話しすると……僕が大学の4年次を休学していた頃に、インディーズマガジンの波の高まりがあったんですね。一方その頃、インディペンデントムービーがすごくアツくて、僕も個人的に映画を撮ったりしていたんですけど、その中で友人が周辺の監督たちへの取材とかをしながら自分で本をつくろうとしていて、僕もちょっとだけそこに携わっていたんです。でも、やっぱり個人的には文芸をベースにしたものをやりたいな、という気持ちがずっとあって、それで仲間たちを集めたのが2008年の5月でした。今のKAI-YOUの母体でもある文芸誌『界遊』の創刊号が出たのがその年の10月です。

takeda_kaiyou001(▲2008年に発行された世界と遊ぶ文芸誌『界遊』創刊号)

「同人誌をつくりたい」とは最初からあまり思っていませんでした。同人誌は同人誌であって別にいいと思うんですけど、特定のクラスタの中だけで消費するようなものや、それを前提にするようなものを自分たちがつくる意味は、まったくないなと思っていたので……とは言っても、だからこそ『界遊』が早く同人誌ではなく、一般書として流通できるようにならないか、と当時は考えていました。

――『界遊』の創刊号は文フリ(文学フリマ)で売っていたんですか。

武田:そうですね。でも書店にも直販でどんどん持って行きました。最初は、中野ブロードウェイにあるタコシェさんとか、その辺りのいわゆるミニコミ系を取り扱っているところに置いてもらって。その後も、号を重ねていくごとに取り扱い店舗を増やしていったんですが、ジュンク堂さんやブックファーストさんといったような大きいところも実はかなり好意的で、どんどん置いてくださっていました。本当に本が好きだったり、売り場を変えたいと思っている書店員さんたちが、単純に『界遊』を面白がってくれていて、それはすごく嬉しかったです。こちらから提案して、独自のテーマをもったフェアなどもやらせて頂いていました。

――いろいろな人の目に触れる、という状態をかなり意図的につくっていたんですね。

武田:はい。もう2年ぐらい前になりますが、最後に紙で出した『界遊005』の時は、合計100弱の店舗さんには置いてもらっていたと思います。

――最初は紙ベースで始められていたのが、現在はWebのポータルメディア「KAI-YOU.net」などを展開されていますが、もともとWebに展開するという構想はあったんですか。そして最初に紙メディアを選んだのには何か理由があったんですか。

武田:いや、最初は正直、むしろ「Webじゃなくしよう」と思っていたんですよ。書籍っていうメディアって、中の人が直接(読者に)擬似的に話しかけているような、ある種の“誤解”ができるメディアじゃないですか。著者がそのまま向こう側にいる、というような。それをまずちゃんと取り戻したいな、というのが自分の中でテーマとして大きかったので、最初は紙で出すことにしました。
ただ、最初からイベントの企画も並行してずっとやっていたので、別に紙で完結させる必要性はまったくなかった。創刊号の巻頭には仲俣暁生さんと田中和生さんの対談が載っているんですが、これ、実は先に創刊イベントをやっているんです。本がまだできていないのに(笑)。

takeda_talk(▲『界遊001』巻頭、仲俣暁生さんと田中和生さんの対談ページ)

――それは新しいですね。

武田:なぜかというと、創刊号のメインコンテンツをつくりたかったんです。ゲストに対して「同人誌だからノーギャラで」と言ってお願いするのも、先ほどもお話したように同人誌“じゃなく”したかったから嫌で。それでもお金はないので、どうしようかなと思っていたら、「イベントをやって入場料を全部ギャラに回せばいいんだ」って思い付いて。

――イベントは、初期から1つの大きな軸だったんですね。

武田:そうですね。節目節目ではずっとやってきました。イベントも1つの大きな「編集」が発生する対象です。本だけで完結するんじゃなくって、イベントもやって、Webもうまく使って、っていう連環は、もともと学生の頃から学内でもいろいろなイベントを企画していたというのもあって、自分たちにとってはすごく自然なことでした。

 

◆読者層を新たに“つくる”

――どういった事がきっかけで組織を会社化しよう、という話になったんですか。

武田:はっきりと思い出せないんですけど、最近僕と社長を交代した米村(※現KAI-YOU代表・米村智水さん)は最初からずっとそう言っていました。「仕事にできないんだったら、やる必要ないよ」と。じゃあ、どういう風にできるかな、と在学中からいつも話していて。僕なりに「会社にするならビジネスにしないと意味がない」と思っていて。「こうあるべき」っていう読者層をつくるっていうのが、ビジネスとしては僕は正しいなと思っていて。
〈文脈を横断できて、世界と遊べる――ジャンルを横断しながらおもしろいものを見つけることのできる人たちをつくる〉っていうのをコンセプトに掲げていたので、「想定読者層」っていうものは、設けていなかったんですよね。
もう、個人が多様化しまくっちゃってる今の状況で、クラスタ別マーケティングとか全然意味ないと思うんですよね。「F1層」だけでも、どんだけ多様なんだよ、って。でもいまだにその形骸化したモデルでギョーカイの仕事が回っていたりする事に、全然意味がないな、と思っていた。〈想定読者層をつくる〉というコンセプトだったので、それこそ、本来だったら僕らが直接届けられないところに何かを届けたい時に、やっぱりビジネスとして展開できないとまったくそれ無理だよね、ということを、始めてすぐに気付かされました。所詮学生みたいなものが、なけなしのバイト代集めて出してる程度では、コンテンツ面でも流通面でも部数でも、「外側」に届けることは困難だとひしひし感じていたんです。そんな状況が不甲斐なく、「じゃあ3年以内に会社にできなかったら解散しよう」と2008年に決めて、実際ちょうど3年目の2011年に会社になったという感じです。

――思ったより早かったり、あるいは遅かったり、という体感はありましたか。

武田:あっという間でしたね。僕はまわりより1年遅れて卒業しましたけど、みんな大学を卒業してしまって、『界遊』の活動も結局仕事をしながらだから、大学にいた時のようなペースでは全然できなくて。それでも毎週集まって、朝から晩まで会議をして、戦略練って……みたいなことは続けていました。

 

◆KAI-YOU=ハイパーメディアプロダクション

――現状のKAI-YOUって、ざっくり言うとどんな会社ですか。従来通りの枠組みだったら、例えば「編集プロダクション」とか「Web制作会社」とか、そういう風に呼べていたと思うんですけど……。

武田:「編プロ」とは絶対に言われなくないなって思ってました。もちろん尊敬する先輩方もたくさんいますが、僕らはこの時代に「編プロ」をつくろうなんて全く思っていません。だから、どうしたらいいのかなと悩んでて。「ハイパー」とか「スーパー」とかの語感がいいんじゃない?という話になり、今はオフィシャルのプロフィールにも「ハイパーメディアプロダクション」と記載されていると思います。

――(笑)。「もう、名乗ってしまえ」みたいなテンションだったんですか?

武田:そうですね。実際に仕事で携わったり、制作しているのも正しく「ハイパーメディア」と呼ばれる媒体なので、高城剛さん的な意味でも正しいんですよね(笑)。何より、POPかなあって思います。でも、例えばすごく目上の人に「これどういう意味なの」って訊かれたら「メディアプロダクション」と答えます。メディアの種別問わず、企画を立てて、デザインワークも練って、上流から川下まで全部やりますよ、みたいな説明をすると思います。
僕も含めた今のKAI-YOUの役員3名は最初からずっといたメンバーで、その3人が、Webも含めた編集者的なポジション――クリエイティブのディレクションをしています。
会社化してから、ずーっと「つまんねーなあ」と思っていたのは、自分たちのメディアを持っていなかったということで……。「それじゃあ何のために会社にしたんだ、ヤバいよ」と思ってつくった「KAI-YOU.net」に今は一番力を入れて、これをどうマネタイズしていくかというのが課題です。

――Webだけじゃなく、紙媒体でのデザインや編集業務は今も並行してやられているんですか。

武田:そうですね。でも、紙の仕事だけ会社を回していこうと思うと、なかなか厳しいところがあります。例えば広告がバキバキ入っているようなものをつくらないとダメだったりするんですが、でもそれっておもしろいと思えないので……企画がすごくおもしろくて、ピンポイントでKAI-YOUに依頼されているものしかお引き受けできないというか、していません。逆に、「KAI-YOUさんで、ぜひこの特集をやりたい」と言っておもしろいお話を持って来て頂けた時はすごく嬉しいです。

――それが例えば雑誌『SWITCH』の「ソーシャルカルチャーネ申1oo」の特集のシリーズだったりしますよね。

武田:そうですね。あとは博報堂さんの『広告』の特集とかをやらせて頂いてます。

 

◆「ポップ」の定義

――KAI-YOUさんが、池袋にオフィスを移された時から使われている「POP is Here」というスローガンがとても気になっているんですけど……。

武田:標語にも案がいろいろあったんですよね。社員全員がいるSkypeのチャットに「こんな標語があるといい」みたいな事を思い付いたらみんなで書いていこう、という話をしていて。ある時、「POP is Here」って書き込まれて。「KAI-YOU.net」のリリース(2013年3月)のちょっと前ぐらいの時期だったと思うんですが、「これ、言い続けてたら流行るんじゃない?」って盛り上がって(笑)。池袋の前のオフィスから今の場所に移動した時に、移転祝いのパーティーを行ったんですが、その時にお世話になった皆さんに「POP is Here」ステッカーを配ったら、想像以上にめちゃくちゃ褒めてくださったんです。

――その「ポップ」の定義って、具体的にどういう事ですか。

武田:すごく曖昧で難しいんですけど、僕が言うとしたら、〈文脈依存していないもの〉だと思います。文脈依存度が低くて、クラスタを飛び越えておもしろいと思える要素を持っているものなんですよね。そういうものに出会った時に、例えば普段自分たちが触れないであろうジャンルのコンテンツ――例えば、アートやデザイン系のクラスタの人たちが『まどマギ(『魔法少女まどか☆マギカ』)』を観て心を掴まれる、みたいな事があったじゃないですか。アニメファンの側からするとおもしろくない、っていう感想もあったと思うんですが、でも放送された当時って、そういう1つの「現象」と呼べるようなものがありましたよね。あの時、周りみんなが「まどマギ」を観てた。あれは、文脈依存度が低くて、高いクリエイションのレベルを持っていたから“飛び越える”ことができたからだと思うんですよね。そういうことが「ポップ」なんじゃないかなと思います。そういう時に「アニメなのに、俺、『まどマギ』好きじゃん」っていう驚きをそのクラスタの人たちは持っていたと思うんですね。自分が思っていた文脈を越境して楽しめる。本来興味があるものの方向にしか人間向かないはずなのに、なぜか共振する。コンテンツが持っている「文脈を越える力」と、自分が本来持っていた「文脈を越えて楽しめる力」が共鳴・共振することで、ガッ!と拡大していくと思うんです。
最近のものでいうと、『あまちゃん』がまさにそれで。今って、個人がメディアとして発言できる情報空間なので、「この共振、ヤバい!」と思ったらすぐにそう吐き出すじゃないですか。それが無数に起こっているこの状態は、すごく「ポップ」だしおもしろいと思いますね。

 

◆「ポップ」を語りたいのに、文体がポップじゃない問題

――最初につくられていた紙の雑誌の『界遊』は、「文芸誌」と銘打たれていたと思うんですけど、その時点では今で言うその「ポップ」に当たるような「共振するもの」の概念は意識されていたんですか。

武田:そうですね。おそらくそこだけは変わってなくて。それを「ポップ」とは言えていなかったんですけど。というか、裏テーマとしては「ポップ」ってずっとあって……「ポップ」と「対話」っていうのが裏キーワード。でも誤解を招くなと思って、表立っては言っていなかったんです。
『界遊001』の最初のページにもこう書いてあるんですけど……。

takeda_soukan(▲『界遊001』巻頭「創刊に際して」)

――本当だ。言ってることは一緒ですよね。でも、語る言葉がまだこの頃って、カッチリしてますね。

武田:そうですね。「ポップ」を語りたいのに、全く文体がポップじゃない問題(笑)。批評脳というか。

――確かに、当時の文フリ界隈のゼロアカとかの空気感がまだ残っているというか……。じゃあ、「ポップ」という言葉が見つかったことはすごく大きかったんですね。

武田:その意味では、自分たちのコンセプトにマッチした標語のようなものを、ずっと探していた気がします。それに何年もかかってしまったわけですが、今は社員だけじゃなくまわりの人も半分ネタっぽく「POP is Here」を使ってくれてます(笑)。名は体を表すってことで、「KAI-YOU.net」はこの標語を元に、色々な人が楽しめるよう随時デザインや仕様面などをよい形に変えながら進めていきたいですね。ステッカーも、最初作ったものがなくなっちゃったので、またちゃんと作ってばら撒きまくろうと思ってます。

「武田俊(KAI-YOUディレクター)2/4」に続く(2013/10/16公開)

聞き手・構成:後藤知佳(numabooks)
1987年生まれ。ゆとり第一世代。東京都出身。
出版社勤務などを経て、現在「dotPlace」編集者。


PROFILEプロフィール (50音順)

武田俊

元KAI-YOU, LLC代表/メディアプロデューサー/編集者/文筆家

1986年、名古屋市生まれ。法政大学文学部日本文学科在籍中に、世界と遊ぶ文芸誌『界遊』を創刊。編集者・ライターとして活動を始める。2011年、メディアプロダクション・KAI-YOU,LLC.を設立。「すべてのメディアをコミュニケーション+コンテンツの場に編集・構築する」をモット-に、カルチャーや広告の領域を中心に、文芸、Web、メディア、映画、アニメ、アイドル、テクノロジーなどジャンルを横断したプロジェクトを手がける。2014年12月より『TOmagazine』編集部に所属。NHK「ニッポンのジレンマ」に出演ほか、講演、イベント出演も多数。右投右打。