INTERVIEW

これからの編集者

第7回:中川淳一郎(ネット編集者)1/5|インタビュー連載「これからの編集者」

「これからの編集者」をテーマに、さまざまな人にインタビューしていくシリーズ。第7回は、「NEWSポストセブン」など数々のネットニュースの編集を手がける編集者、中川淳一郎さんです。

未経験から飛び込みで編集者に

――まず中川さんが編集者として手がけられてきたお仕事のお話から伺いたいと思います。

中川:あ、そうですか。そうしたら、ちょっとですね、むかしの紙のやつがあるんですよ。

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――これは『TV Bros.』ですね。

中川:これはオレが初めてつくった特集なんですよ。「動物キャラでしあわせに」どうやって儲けるか、動物キャラで、実は億万長者になれるんじゃないかっていう。これが人生初の特集です。これがむちゃくちゃ金かかったんですよ。100万以上かかってる。

――え、なんでですか?

中川:6ページ使って、実際にぬいぐるみで動物キャラつくって、人気投票やったんですよ。専門家に診断してもらって。1位になったものをテレビブロス公式キャラということにして、某玩具メーカーのキャラと販売対決するっていう。このぬいぐるみをつくるのに、200体で100万かかっちゃった。

――なるほど、これに100万かけるというのが、当時は編集部的にOKだったんですか。

中川:いや、某おもちゃメーカーが全部だしてくれたんですよ。その会社がとあるキャラを売りたいっていう意向があって。オレ、3万くらいあれば100個ぐらいできると思っていたんですが、結果100万かかることがわかって。このメーカーの人に「ぬいぐるみを作りたい」という構想を話したら「カネかかりますよ……」と言われ、「ウチが売り出したいこのキャラを出してくれて、ブロスの公式キャラと対決させるんだったら、ぬいぐるみの制作費全部受けもちます」って言ってくれたんですよ。それでタダでできたって話です。

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中川淳一郎さん

――人生初の特集から、すごい手をつかっていますね。

中川:そうですね。でも思いつきで。この「動物キャラ」っていうキーワードを、編集長が気に入ったみたいなんですよ。それで、とにかくやりたいって言ってくれて。オレもずっと動物キャラは儲かるって8月から言い続けてて、それで12月にできたんですね。4ヶ月後にやっと完成。

――なるほど。Cakesの連載「赤坂のカエル」で読ませてもらったのですが、『TV Bros.』には初めて電話で営業をしたんでしたよね?「SMAP解散シミュレーション」のお話も大変面白かったですが、それはこれよりも前ですか。

中川:そうです。唯一営業しました。それはこの「動物キャラ」よりもずっと前の話です。世に出たのは、これが初めて。

――これ以降、編集者という肩書が加わるわけですね。

中川:そうです。これをやるまでは、全部ライターだったんで。

――『TV Bros.』の人が、いきなり中川さんに編集を任せたのはどうしてだったんでしょうか。読ませていただいた感じだと、結構簡単にポンっと決まったようですが。

中川:向こうが、できるだろうって思ってくれたんですよ。売り込んだからにはできるだろう、という勝手な思い込みで編集長が仕事をくれたのです。

――いまでもそういうことってあるんですかね。売り込みで飛び込んで、なれるものでしょうか。

中川:なれると思いますけどね。いま、ちょうど売り込みが来ていて、TBSの番組のADをしていた制作会社の人なのですが、その人がライターになりたいって言ってきていて、とりあえず制作会社のときのバカ話とかを書いてもらえばいいですよ、っていう話をしています。そこでよかったら、またライターとしての仕事をお願いすると思います。言葉は悪いですけど、「この人は使い勝手がいいな」と思ったら、そこから編集者に格上げするかもしれないですね。

いま一緒に仕事をしている宇佐見くんっていうのがいるのですが、こいつがなかなか、いいのですよ。元々無職、フリーターだったのですが、もうこんな生活やだって言って、ライターにならせてくれって来たのです。いま、オレが小学館に行かなくちゃいけない水曜日と金曜日は、「瞬刊!リサーチNEWS」(現在は更新終了)っていうサイトの編集を彼にやってもらっています。彼はもう編集者ですよね。

 

いきなりお金のことを言わないこと

――無職だった人がいきなり。中川さんが「こいつはいける」と判断するポイントは何ですか。

中川:いきなりお金のことを言わないことですね。理由はですね、いろんな仕事があるからです。この仕事は、毎回ライターが満足できる金額入るかわからない。こちらが困っているときに「あ、これはあいつに頼もう」と思ってお願いして、「僕はページ3万円以下の仕事は受けません」って言われると、はっきり言って頼りにならないのです。最初から金にうるさくない人を雇っておけば、どんな仕事でも頼める。そういう判断です。

――なるほど。ただ一般的にモノの値段というのは、基本的な大前提としては、いいものは高くて、悪いものは安いということがあると思うのですが、そういう人でも、かならずしもクオリティが低いということはないのでしょうか。

中川:ないですね。それを言ったら、オレはまさにその典型なんですよ。モノによってはタダでもやるし、一番安い原稿料だと4000円ぐらいなんですね。でも高いのになると、『新潮45』とかに書くと十数万とかになったりするわけじゃないですか。編集者とかライターだけは、お金だけを基準に仕事をしてはいけないと思っています。そういう仕事じゃないので。稼ぎたいのであれば株でもやれ、って話です。金のことばかり言う人は向いていない。

 

――一方、中川さんご自身は、かなり稼いでいるというお話もなさるわけじゃないですか。稼げるのは、お金のことをうるさく言わない結果だということなのでしょうか。

中川:そうです。結果的に、しみじみと感じていますね。ずっと、相手の言い値でやってきたんですが、たぶん、発注主の中で「中川さんは金にうるさくない」という評価が出て、そのことがよかったのだと思います。

某社でやっているとある仕事が、月額37万8000円なのですが、先日、同じ会社の別の部署が「中川さんはAの仕事をやってるって聞いたんですけど」と言って、似たようなBの仕事をお願いしたいって言ってきたんです。それで打ち合わせをしたときに、Aのギャラはいくらかと聞かれたので、37万8000円だって正直に言ったら、わかりました、上司と相談します、ということになった。そして後日「まだサービスが始まったばかりで、会員も少ないので、20万円でいいですか?」と言ってきたんです。半分でしょ?それでもオレ「いいですよ」って言うわけですよ。そこで「ちょっと、37万8000円を20万円っておかしくないですか?せめて33万円くらいでしょ」みたいな無駄な交渉もしないんです。結局、その仕事は最初の3ヶ月の下地をつくる仕事だということで、もう終わってしまうのですが、「またこのサービス拡大の折には、ぜひお願いします」という口約束もらえたわけですよ。たぶん、それでいいんです。

――そこで、Bを20万円でやってしまうことによって、37万円でやっているAの部署から、こちらももっと安くしてくれ、みたいになったりする可能性はないのですか。

中川:Aはもう5年間ずっと、37万円でやっていて、それだけ払う余力がある黒字のサービスなんですよ。担当者からすると、自分の財布が傷んでいるわけではないじゃないですか。会社ってそういうものなのですよ。予算があって、その中でなんとかやりくりしなきゃいけないって話なので、それをわざわざ言ってきたりはしません。ただ、もしいまAの人が20万円に下げてくれって言ってきたとしても、たぶんオレは拒否すると思うのですよ。なぜかというと、下にライターが2人いるからです。そいつらのギャラも下げなきゃいけないでしょ? それはあまりやりたくないですよね。

「第7回:中川淳一郎(ネット編集者) 2/5」 に続く(2013/07/09公開)

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インタビュアー: 内沼晋太郎
1980年生。一橋大学商学部商学科卒。numabooks代表。ブック・コーディネイター、クリエイティブ・ディレクター。読書用品ブランド「BIBLIOPHILIC」プロデューサー。2012年、下北沢に本屋「B&B」を、博報堂ケトルと協業で開業。

編集構成: 内沼晋太郎
編集協力: 片山菜緒子


PROFILEプロフィール (50音順)

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)

1997年 博報堂入社。コーポレートコミュニケーション局に配属。2001年に退社後『TV Bros.』編集者を経て、2006年からネットニュース編集者。インターネット論も行う。著書は「ウェブはバカと暇人のもの」(光文社新書)。