「これからの編集者」をテーマに、さまざまな人にインタビューしていくシリーズ。第4回は、メディアアーティストであると同時に、『パターン、Wiki、XP』(技術評論社)などの著書をもつ集合知の研究者で、「ニコニコ学会β」実行委員長でもある、江渡浩一郎さんです。
※下記からの続きです。
第4回:江渡浩一郎(ニコニコ学会β実行委員長) 1/5
第4回:江渡浩一郎(ニコニコ学会β実行委員長) 2/5
第4回:江渡浩一郎(ニコニコ学会β実行委員長) 3/5
第4回:江渡浩一郎(ニコニコ学会β実行委員長) 4/5
“これからの編集者”に求められるもの
――これまでの編集者の仕事は、たとえば雑誌で言えば、世の中から新しいものを見つけ出して、時代の雰囲気を掴まえてそれに対して良し悪しを判断して、企画にして、じゃあこれは誰にお願いしようということも決めて、後は文章がちゃんと面白いか見て、デザインも誰かに頼んだものがきっちり形になっているかを確認して、その全体のスケジュールを管理していく、という仕事だったりすると思います。ところが、業界の環境が変わってきたことや、メディアが多様化してきたことによって、これからの編集者の人の仕事はどんどん広がっている。そもそもあるコンテンツを、どのようなメディアで、どういった戦略で出して、どうやってマネタイズするのかといったことも考えなければならない。そんな中、結構インターネットに任せられる部分があるのではないかとも思っています。先ほどの校閲もそうですし、スケジュール管理も道具が楽になっていますし、これから「編集」という仕事が、どうなっていくと江渡さんはお考えになりますか?
江渡:実はそういったシステムを作りたいと真剣に考えていたことがあります。編集という役割を現代に蘇らせるためにはどのようなシステムがあればいいのかと。「まとめサイト」というものが最近爆発的に流行っていますが、私が考えていたものは多少違う点はあるのですがそれに近いです。ですので、「Togetter」も「NAVERまとめ」も、基本的にはとてもいいなと思っています。
江渡浩一郎さん
その時の発想を簡単に述べると、Twitter上で議論みたいなことをしているのを「素材」として考えればいいんじゃないか、という風に思っていました。その素材を提供する人と、それを元にしてストーリーや記事を作る人が別にいて、その両者がコラボレーションすることで一つのコンテンツをつくるという時代がくるのではないかと。最近キュレーターの時代といわれていますが、今まさしくそういう時代になっていますよね。
――その時に考えられていたものと、今の「Togetter」や「NAVERまとめ」と違っているのは、どういう部分ですか?
江渡:もう少しプロのノウハウを活かせるようにしたいと思っていました。たとえば、校正や校閲の役割は、今の「Togetter」や「NAVERまとめ」にはありませんよね。元ツイートや元記事を単に引用してくることはできるけど、校閲して間違いを直した上で引用する機能はないので、そういったものがあるといいだろうと思っていました。
実現しなかったのは、単純に研究予算を獲得できなかったからですね(笑)。自分1人でコツコツ作るということは今の状況ではできないので、いまのところ実現できていません。もちろん、研究上の優先順位もありますが。
――なるほど、ではここで言えば誰かが立ち上げてくれるかもしれませんね(笑)。現在、雑誌が減ったりしている中で、かつての編集者のポジションは減っているけれども、情報そのものは溢れていて、人が求めているものも細分化している、という状況の中で、編集的な役割をしている人は増えているし、もっと増えていった方が面白いと思っているんです。どうしたら増えるか、ということに対して何かお考えはありますか?
江渡:単純に言えば、編集者は着々と増えていると思うんですよ。だって「NAVERまとめ」をまとめているのは編集者ですよね。なぜか「キュレーター」と呼ばれていますけど、本当はあれは編集者と呼ぶべきですよね。その中で、なぜ特に「NAVERまとめ」が使われるようになっているかというのは、そこでちゃんとお金を回す仕組みを作ったからですよね。システムも良くできていると思います。
もっと増やす方法として考えていたのは、「著作権処理をもっと容易にする」ということです。「NAVERまとめ」などに校閲が機能として追加されない理由は、著作権の問題があるからですよね。もともと著作権には「引用」という規定があるので、他のサイトの情報を取ってきてまとめても「引用の範囲内だ」と言うことができます。またツイッターであればAPI経由で取得した情報を再利用することは問題なくできます。しかし、元ツイートを書き換えた上で再利用することは著作権上の問題がありますので、できません。でも、著作者本人の了承を得ればいいのです。本人に「このように書き換えていいですか?」と聞いて「いいよ」と言われればOKなわけです。普通に考えると、メールやDMなどで連絡を取ってOKもらえばいいのですが、面倒ですよね。それをシステム的に権利処理する仕組みがあれば、その敷居がぐっと下がって、編集されたコンテンツを提供することが容易になります。それがあればかなり変わるのではないかと思います。
――確かに、それは素晴らしいアイデアですね。ネット上で何かを書いたことに対しての著作権処理を簡単にするようなサービスや仕組みがあったら、飛躍的にコンテンツが面白くなりそうです。これを書いたら誰かが作るかもしれないですが……。
江渡:我ながらいいこと考えたなと思っていたのですが、残念ながらそれと研究予算がとれるかどうかはまったく別なんですね(笑)。
“これからの編集者”を目指す人へのメッセージ
――最後に、これからコンテンツを編集することを仕事にしたいと思っている若い人達に対して、何かアドバイスやメッセージはありますか?
江渡:私自身は編集者ではないのでアドバイスするのは難しいのですが、1つには作家を目指してみたことがある方がいいなと思います。はじめから編集者を目指すというのは、実は私にはよくわからないんですね。作家を目指していたけど、自分の限界を感じたから編集者になりました、というケースであれば理解できますし、私はその方がいいと思います。作家の気持ちを理解しているから、いろいろとスムーズになるのではないかと思います。
私はアーティストとしても活動していますので、アートの世界だとキュレーションということになりますが、作家として活動したことがない人がキュレーターをしている場合と、作家としてやろうとしていた、あるいは現時点で作家もしているけれどキュレーターもしているという場合だと、後者の方が圧倒的にやりやすいですね。
――どうもありがとうございました。
(了)
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インタビュアー: 内沼晋太郎
1980年生。一橋大学商学部商学科卒。numabooks代表。ブック・コーディネイター、クリエイティブ・ディレクター。読書用品ブランド「BIBLIOPHILIC」プロデューサー。2012年、下北沢に本屋「B&B」を、博報堂ケトルと協業で開業。
編集構成: 内沼晋太郎
編集協力: 隅田由貴子
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