COLUMN

鷹野凌 今月の出版業界気になるニュースまとめ

鷹野凌 今月の出版業界気になるニュースまとめ
第2回:2015年1月「今年も電子マンガが元気! だけど、マンガ以外もいろいろ」

takano
 フリーライターの鷹野凌です。ブログ「見て歩く者」で、毎週月曜日に「出版業界関連の気になるニュースまとめ」を配信しています。DOTPLACEの連載は毎月10本の気になるニュースをピックアップし、気になる理由、これまでの経緯、感想、ツッコミ、応援などのコメントを付けていきます。なお、私個人の興味に依るピックアップなので、著しく電子出版関連に偏っていることを予めお断りしておきます。

◇ ◇ ◇

2015年1月4日 年末に「謎のティザーサイト」がオープンしていた時点でバレバレでしたが、ついに全コミック誌の電子版が紙と同時に配信です。「待ってました!」と喜ぶべきなのでしょうけど、既定路線なのであまり驚きはありません。ただ、講談社の担当者が「ライバルは他の出版社だけでなく、動画やゲーム」とコメントしているのは、状況を正しく把握されているのだなと安心しました。

講談社による特設ページより(スクリーンショット)

講談社による特設ページより(スクリーンショット)

 ところが、「週刊少年マガジン」電子版には、森川ジョージ氏『はじめの一歩』が掲載されないことが判明します。「Dモーニング」に井上雄彦氏『バガボンド』と浦沢直樹氏『BILLY BAT』が載っていないのと同様……と言いたいところですが、森川ジョージ氏の場合は単行本の電子版は普通に配信されており、「週刊」に載せない理由は不明です。

2015年1月7日 「マンガボックス」「comico」といった無料マンガアプリの隆盛に、ついにAmazonが対抗。基本的に「Kindle連載」と同じ仕組みで自動配信され、古い号は上書きされるようです。興味深いのは「Kindle無料マンガ雑誌」のページの見せ方。無料配信マンガ誌より、有料販売の「Kindle版コミックをチェック」の方が圧倒的に面積が広くて目立つ状態になっています。あくまで無料配信は作品の認知向上が目的であり、単行本販売という成果に繋げるためのステップ、ということなのでしょう。

Amazon「Kindle無料マンガ雑誌」のページより(スクリーンショット)

Amazon「Kindle無料マンガ雑誌」のページより(スクリーンショット)

2015年1月7日 非常にショッキングなニュース。サルマン・ラシュディの小説『悪魔の詩』にまつわる事件(日本では訳者が殺され、容疑者不明のまま時効になっている)を思い出します。私は、どれほど酷い表現であっても、それに対し暴力(物理)に訴える行為というのは、絶対に認めてはならないことだと考えています。

2015年1月13日 年末に700万ダウンロードを突破したばかりなのに、1カ月足らずで800万ダウンロードです。素直に凄いと思います。年末年始のTV CM効果でしょうか。「まんたんウェブ」に、comico事業部マネージャー春木博史氏のインタビューが載っていましたので、合わせて紹介。

comico「アプリ版comico 800万ダウンロード突破のお知らせ」より(スクリーンショット)

comico「アプリ版comico 800万ダウンロード突破のお知らせ」より(スクリーンショット)

2015年1月23日  牛丼、ではなく、紅ショウガ丼の話。ではなく、コミック市場の話。「むしろ電子書籍の伸長に引っ張られて、紙の本も売り上げを伸ばしている形跡がある(特に2012年以降)」というのが最大のポイントでしょう。つまり、これまでよく語られてきた「電子が伸びると紙が食われる」というカニバリズム論は、いまのところ杞憂であったということ。この記事を書かれた林智彦さんによる「売り上げも書店数も減少続く 「出版不況」の現状は?」も合わせてご紹介。出版統計には限界があり、それだけで市場全体を判断するのは難しいという話です。

2015年1月18日 マンガ以外の話題もピックアップ。「別冊文芸春秋」「文芸カドカワ」「ミステリマガジン」「SFマガジン」電子版について。「新人作家に掲載の機会を与え、育成してきた文芸誌の役割」が、ウェブの世界にどれだけ順応できるかがポイントになるでしょう。「小説家になろう」のようにウェブから生まれた「場」が既に担っている部分もありますが、ジャンルによってはまだ担えていない部分もあり。

別冊文藝春秋電子増刊「つんどく!」のページより(スクリーンショット)

別冊文藝春秋電子増刊「つんどく!」のページより(スクリーンショット)

2015年1月28日 上記の日経新聞記事で、「ミステリマガジン」「SFマガジン」がウェブ版の発行を検討とありましたが、独自にサイトを立ち上げるのではなく、ピースオブケイクの「cakes」との提携という形になりました。日本電子出版協会(JEPA)のセミナーでも触れられていましたが、「cakes」は売上の60%をPVに応じてクリエイターやコンテンツホルダーに配分するコンテンツ配信プラットフォーム。うまい提携だな、と思いました。

「SFマガジンcakes版」を配信開始したコンテンツ配信プラットフォーム「cakes」(スクリーンショット)

「SFマガジンcakes版」を配信開始したコンテンツ配信プラットフォーム「cakes」(スクリーンショット)

2015年1月19日
 2014年予測の「タブレットの大型化と高解像度化」が外れた原因である、大型iPadの噂。精度の高い予測で知られている方だそうで、今年こそ出るのは間違いない、かな? 12.2インチという噂もありますが、どっちになるでしょうね?

2015年1月21日  「Kindle for PC」がようやく日本語対応です。これも2014年に出ると予測していたのですが、ちょっとだけ外しました。ただし、英語版はMacに対応しているのに、日本語版はWindowsのみ。コレクションにも非対応。恐らくこれからアップデートしていくとは思いますが、楽天Koboのデスクトップ版(こちらはMacも同時に対応している)からちょうど1年遅れであることや、Kinoppy、eBookJapan、BOOK☆WALKERなどはずっと前からデスクトップ版を出していたことは指摘しておくべきでしょう。使いやすさの面では、国内勢も負けていないどころか、勝る部分もあるのです。

Amazon「Kindle for PC」のページより(スクリーンショット)

Amazon「Kindle for PC」のページより(スクリーンショット)

◇ ◇ ◇

 1月もいろいろ興味深い動きがありました。さて2月はどんなことが起こるでしょうか。

 
 ではまた来月(=゚ω゚)ノ

[今月の出版業界気になるニュースまとめ:第2回 了]


PROFILEプロフィール (50音順)

鷹野凌(たかの・りょう)

フリーライター。NPO法人日本独立作家同盟理事長。『月刊群雛』『群雛ポータル』編集長。ブログ『見て歩く者』で電子出版、ソーシャルメディア、著作権などの分野について執筆中。ITmedia eBook USER、ダ・ヴィンチニュース、INTERNET Watch、マガジン航などに寄稿。アイコンは(C)樫津りんご。近著は『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(インプレス)。


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フォーマット: Kindle版
ファイルサイズ: 3472 KB
紙の本の長さ: 137 ページ
同時に利用できる端末数: 無制限
出版社: 日本独立作家同盟