004「クレイグ・モド『ぼくらの時代の本』発売によせて」
『ぼくらの時代の本』は、とっくに出ている。本日発売というのは半分は本当で、半分は嘘だということを、ぼくもクレイグも知っている。だってクレイグのサイトでも、このDOTPLACEでも、ほとんどすべてが読めるのだから。ただ、本日めでたく、美しく編集された紙と電子の本になったというだけだ。
ぼくがここで、長々と中身について解説する必要もない。まだ読んでいない人は、今すぐウェブ上で、どこからでも読むことができる。検索すれば、読んだ人のいろんな評判や感想が出てくる。いいなと思ったら、少しのお金を持っている人はそれを買う。お金のない人は買わないでも読める部分を読む。それだけだ。それが、ぼくらの時代の本というものだ。
だからここでは、このたびの紙の美しいエディションについて少しだけ紹介する。青い紙に、控えめな黒猫が見上げる本棚に、並ぶ端末の画面が白で箔押しされて光って見える、そのページをめくると、謎めいた挿絵がぼくらの時代へと、濃い青色で印刷された本文エッセイへと誘っていく。イメージを膨らませる図版が随所に挟み込まれ、ページをめくるたびに既に読んでいるはずのぼくにも、新しい発見がある。「内装――それは本のいちばんおいしい部分だ。表紙とは違い、内装を誇るということは少ない。だけどそんな誰も意識していない部分に楽しみは広がっている。内装で読者と心理戦を行うのだ。トーンを変える。意味を揺さぶる。テキストに命と形式を与える」(「表紙をハックせよ」)とクレイグ自身が言うように、再編集されたテキストは、まるで極上のプレゼンテーションを聞いているかのようだ。
けれど一方で、電子本もとても機能的にデザインされている。端末が用意する範囲で、自分のお気に入りのフォントの、読みやすい大きさの文字で読むことができる。最初の謎めいた挿絵ももちろんすべて入っている。膨大な注釈はすべて、クリックすればスムーズに開く。慣れ親しんだ端末があって、もう紙よりも電子で買うことのほうが多いというような人は、リーズナブルな電子版を買うのがいい。
だが少しいやらしい話をすれば、たぶんこの本の初版にはいずれ、古本でプレミアがつく。なぜならクレイグはこの本を「伝統的な美学」に基づいてつくっているからだ。美しい装丁で、控えめな流通に、限られた部数が乗る。ある一定数の人々に著者が記憶され、一定の評価を得つづける限り(そしてそのことはたぶん多くの読者よりクレイグをよく知るぼくは確信している)、そういう本の初版は高値になるというのが神保町の(そしてたぶんAmazonマーケットプレイスの)伝統的な美学である。ぼくとしては、定価で買える今のうちに買っておくことをおすすめする(とはいえ、ぼくはボールペンで線を引きながらこの本を読んだ。ぼくを含む一部の人間にとってそれもまた、紙の本を味わい尽くすための伝統的な美学だから。売るために買っているわけではないしね)。
「どうか、ぼくらの時代の本について、一緒に考えてみてください」(「まえがき」)。発売日の今夜、代官山蔦屋書店で出版記念のパーティが催される。ぼくとクレイグはそこで30分だけ、この本をツールに話をする。そう、この本は、ぼくらの時代の本について、みんなで考えるためのツールなのだ。今夜来れる人も来れない人も(昨日打ち合わせをしたときクレイグは「パーティの場で話すのが一番おもしろいよね。参加者全員の手元に現物があるわけだから」とは言っていた)、一緒に考える仲間になってもらえたら、ぼくもクレイグもうれしい。
著者 クレイグ・モド
訳者 樋口武志/大原ケイ
価格 印刷本:2,000円+税(四六判240頁・縦書、電子本データつき)/電子本:900円+税
版元 ボイジャー
発売日 2014年12月15日(月)
印刷版 取り扱い書店 BinB store/Amazon/代官山 蔦屋書店/B&B/
丸善 丸の内本店/ジュンク堂書店 池袋本店/紀伊國屋書店 新宿本店/ほか全国の主要書店
電子版 取り扱い書店 BinB store/Kindleストア/iBookstore/
達人出版会/honto/紀伊國屋書店BookWeb
●本日オープンの『ぼくらの時代の本』特設サイトはこちら。
●本日12月15日(月)20時〜、代官山蔦屋内Anjinにて『ぼくらの時代の本』出版記念イベント開催。トークの模様は後日DOTPLACEにてレポートを掲載予定です。お楽しみに!
※「内沼晋太郎の本屋雑録」は、DOTPLACE編集長・内沼晋太郎による不定期コラムです。
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