SNSなどで「シェアされる」ことを見据えたコンテンツが数えきれないほど生み出されては、あっという間に過去へと押し流されていくことが日常風景になって久しい現在のインターネット。その一方で、バイラルメディアなどによるコンテンツの盗用問題に注目が集まったり、「シェアされる」ことを巡るさまざまな功罪が浮き彫りになった年が2014年だったように思います。
全世界で265万回以上再生(2015年1月現在)されている「アホな走り集」や上坂すみれ「パララックス・ビュー」MVなど、一度見たら忘れられない奇天烈かつテクニカルな作品を多く手掛ける映像クリエイターの大月壮さんと、インターネット黎明期から数々のバズを生み出し、現在ではlivedoorニュースを中心に「大阪の虎ガラのオバチャンと227分デートしてみた!」などの異様な引力をもったタイアップコンテンツを数多く展開する谷口マサトさん。この二人のコンテンツ職人をゲストに、メディアプロデューサー/編集者/文筆家の武田俊さんが日頃の問題意識とともに切り込んでいきます。
これから先の、広告とメディアとコンテンツ、そしてユーザー、その幸福な関係とは?
※本記事は、2014年11月1日にla keyakiで行われた計8コマの連続トークショー「Creative Maison」中の「シェアされる! ハンドメイドなエモいコンテンツの料理法」のレポートです。
※「Creative Maison」開催の経緯については、企画を担当された河尻亨一さんによる序文をご参照ください。
【以下からの続きです】
1/10:いかに人々にシェアさせるか?
2/10:自分本位かもしれなくても“過剰”を貫く。
3/10:トラの代わりに起用したのは、大阪のオバチャン。
4/10:違和感を作っておかないと、見てもらえない。
5/10:“ボケっぱなし”が好まれる時代。
最大のバズを生もうと思ったら9.11を起こせばいい?
武田:僕がメディアに関わる人間として一つ問題意識を感じているのは、最近よく話題になってますけど、バイラルメディアが著作権を無視してコンテンツを盗用して、そっちの方がもとのコンテンツより広まってしまうということがあります。また、そのバズがクリエイターに還元されていない問題や、これは古くからありますけど、「炎上させてアクセスを稼ぐ」っていう手法についても根深いものがありますよね。
僕は青臭いユートピア思想を抱いていて、つまりクリエイターの作るコンテンツの精度が高ければ、メディアとユーザーの両方の質を向上させられると信じきっているんですけど、現状ではクリエイターの作品が正しく届けられていなくて、機能不全を起こしてしまっている部分がある。
大月さんはウェブ上で作品を発表するときや、依頼を受けて作品を作るようなときに大事にしているポイントってありますか?
大月:さっきの上坂すみれのMVの話にも被るけど、やっぱりユーザーに対してエンタメを提供する部分と、あとはユーザーとかは抜きにして、自分本位な面があったとしても作品として個性的であることですね。そこの両立。あとは“強さ”。最終的に作品が発する強さは欲しいんですよね。強い作品を作りたいなっていつも思ってる。
武田:今はただ「バズらせる」という目的が先行しちゃって、その手法にモラルがないものも多いですよね。それこそ、大月さんがさっきトークの前にお話ししてた「最大のバズを生もうと思ったら9.11を起こせばいい」という話にもつながるんですけど。
(会場:笑い)
大月:単純に「ショッキングなニュース=バズ」なのかなと思うんです。平穏でフラットな日常に突然事件が起きてザワザワする感じというか。9.11もそうだし、イスラム国なんかは昨日600人ぐらい虐殺をしてニュースになってました。言い方は悪いですがそれも情報としてはある種の“強さ”だし、炎上マーケティングだって“強さ”だとは思う。ただ、ポジティブかネガティブかの違いはあってそこが重要。9.11もイスラム国も、ネガティブですよね。でも確かに強いものは強いから、そこを強さとしては認めて、じゃあネガティブをどうポジティブにするの?っていうチェンジの仕方がクリエイティブなのかなと思う。これはよく僕が例えて言っていることなんですけど、「そんなにバズらせたかったら、渋谷駅爆破させたらいいじゃん」って(笑)。そしたらこの間、渋谷駅にシロクマを連れてきた人がいてバズってて。
谷口:あぁ。
大月:「爆破」を「シロクマを連れてくる」って置き換えると、また違う見え方になる。
谷口:そういうことを言いたいんですね。爆破したいわけじゃないんですね(笑)。
大月:確かに僕は地雷も爆破させてますからね(笑)。爆破したいわけじゃなくて、強さの作り方を、爆弾を落とすことに例えてて。でもそれはNGだから、じゃあ何を爆弾にするの?っていう話です。
コンテンツは広告のための客引きにしかなっていない
谷口:ちょっと話がズレますけど、なんでそういうバズるコンテンツが求められるのか?っていうところにそもそも原因があって……私はネットメディアに長年関わってきましたが、広告とコンテンツって基本的に分離しているんですよね。コンテンツを集めてきて、その周りのバナーなんかの広告で稼ごうとすると、コンテンツは(制作費が)安ければ安いほど、そしてバズればバズるほど良い。関係ないんですよ、広告と。
武田:横に置かれた広告の価格が上がるような、読まれるコンテンツであればいい、と。
谷口:そうです。コンテンツは客引きにしかなっていないので、究極的には自前で作らない方がいいっていう話になってくるんですよね。当然、それは分離しているから。今私は、それをいかに掛け合わせるかっていうことをやっていて。つまりそんなにコンテンツがバズらなくても価値が伝わったり、世界観が広告と一緒だったらスポンサーとしてもそれでいいだろうと思うんです。そういう風に結び付けないと、いくらでもこういう問題って起こってくるんですよね。
武田:いわゆるネイティブアド[★]みたいなものが注目されているのも、そういう背景があるからなんでしょうか?
★:広告コンテンツをメディアの記事と同様のデザインやスペースに掲載したもの。SNSのタイムラインなどでも近年頻繁に見られるようになった
谷口:そうですね。あれも分離している状態を組み合わせていこうっていう動きなんだと思います。今はまだ黎明期なので問題も起こってますけど、基本的には正しい方向に向かっているとは思っていまして。ここ3年くらいでおそらくもっと良いケースが出てくると思います。
最大瞬間風速が過ぎ去った後のコンテンツの価値
武田:僕は編集者というポジションでもあるので、クリエイターの方たちとお仕事をするときにいろいろお話を伺うんですけど、危機感を持っている方が結構いらっしゃるんです。今、ウェブ上でバズったり拡散されるようなコンテンツを作る必要はあるんだけれども、その最大瞬間風速が過ぎ去っちゃった後に、自分の作品って一体何の価値を持つのか?とか、作品が長年残って自分の知らない人にも届いていくことって昔みたいにありえるのかな?っていう危機感を持っている若手の映像クリエイターやイラストレーターがちょいちょいいる。大月さんは自分の作品をどう残していくかを考える機会はありますか?
大月:僕はそんなに強く作品を残したいとは思っていないタイプではあるんですけど……でも、“強さ”にこだわっているということは“残る”ということですし、もちろん本音で言えば、残ってほしいですよね。そのクリエイターたちの気持ちもすごくわかる。今のコンテンツの量とスピードの中でも手間暇かけて作ってるわけだからね、「大阪のオバチャンにあったホクロがない」って言われたらすぐに描き足すとか。それでもどんどん消費されていく。そこに関しては谷口さんはどういうスタンスですか?
谷口:さっきの「自分本位な部分をいかに守るか」っていう話でもあると思うんですけど、“分離”している状態だとコンテンツを守れない。その構造を変えていくしかないんです。
昔テレビの黎明期に放映されていた「ムーミン」のアニメは、カルピスが1社提供だったんですよ。番組が始まる前は内容にも2案あって、バズる系のアニメーションの案と、ムーミンっていう当時にしたらよくわからないアニメーションの案。刺激的な、バズる系のアニメーションの案を採用しようという話もあったんですけど、「いや、ムーミンの方が価値があるからやりましょう」という選択をしたことで、それが結果的にヒットにつながったみたいなんです。ムーミンって今でも広く見られてるじゃないですか。もしもう一つの刺激的な案を選んでいたら、それは今もう残っていなかったかもしれませんよね。つまり、そんなにバズらなくてもいい案を選んだ方が長く残ることもある。自分がそれをできているかっていったら、まだ難しいですけど。
[7/10:絵巻をやるなら、スマホですよね? へ続きます](2014年1月13日更新)
構成:後藤知佳(numabooks)/ 編集協力:細貝太伊朗 / 写真:古川章
企画協力:10 over 9 reading club
(2014年11月1日、la keyakiにて)
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