INTERVIEW

Creative Maisonトークシリーズ

Creative Maisonトークシリーズ
大月壮×谷口マサト×武田俊「シェアされる! ハンドメイドなエモいコンテンツの料理法」3/10:トラの代わりに起用したのは、大阪のオバチャン。

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 SNSなどで「シェアされる」ことを見据えたコンテンツが数えきれないほど生み出されては、あっという間に過去へと押し流されていくことが日常風景になって久しい現在のインターネット。その一方で、バイラルメディアなどによるコンテンツの盗用問題に注目が集まったり、「シェアされる」ことを巡るさまざまな功罪が浮き彫りになった年が2014年だったように思います。
 全世界で265万回以上再生(2015年1月現在)されている「アホな走り集」や上坂すみれ「パララックス・ビュー」MVなど、一度見たら忘れられない奇天烈かつテクニカルな作品を多く手掛ける映像クリエイターの大月壮さんと、インターネット黎明期から数々のバズを生み出し、現在ではlivedoorニュースを中心に「大阪の虎ガラのオバチャンと227分デートしてみた!」などの異様な引力をもったタイアップコンテンツを数多く展開する谷口マサトさん。この二人のコンテンツ職人をゲストに、メディアプロデューサー/編集者/文筆家の武田俊さんが日頃の問題意識とともに切り込んでいきます。
 これから先の、広告とメディアとコンテンツ、そしてユーザー、その幸福な関係とは?

※本記事は、2014年11月1日にla keyakiで行われた計8コマの連続トークショー「Creative Maison」中の「シェアされる! ハンドメイドなエモいコンテンツの料理法」のレポートです。
※「Creative Maison」開催の経緯については、企画を担当された河尻亨一さんによる序文をご参照ください。

【以下からの続きです】
1/10:いかに人々にシェアさせるか?
2/10:自分本位かもしれなくても“過剰”を貫く。

強引な紐付けを笑いに
――「大阪の虎ガラのオバチャンと227分デートしてみた!」

武田:谷口さんの事例の方も見てみたいんですけども……この記事(「大阪の虎ガラのオバチャンと227分デートしてみた!」)は見たことがある人すごく多い気がしますが、どれくらいいらっしゃいます?

「大阪の虎ガラのオバチャンと227分デートしてみた!」(livedoorニュース、2013年5月公開/スクリーンショット)

大阪の虎ガラのオバチャンと227分デートしてみた!」(livedoorニュース、2013年5月公開/スクリーンショット)

(会場:多くの人から手が挙げる)

武田:わああ、さすが。

谷口:ありがとうございます。

武田:これはどういう経緯で作った記事だったんですか?

谷口:ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』という映画のプロモーションですね。少年とトラが漂流したっていう話なんですけど、このブルーレイ&DVDのPRをしてくれって言われまして。映画のストーリーのように、トラと行動を共にするのがどれぐらい怖いかを疑似体験してみようということで、大阪の街中をデートしてみたんですね。最初、(ロケ地として)動物園を打診したんですけど、トラを使ったロケは危険だって言われて、より危険性の少ない大阪のオバチャンを(笑)。
 これはビッグマンっていう大阪人定番の待ち合い場所ですね。

「大阪の虎ガラのオバチャンと227分デートしてみた!」より(スクリーンショット)

「大阪の虎ガラのオバチャンと227分デートしてみた!」より(スクリーンショット)

武田:この液晶に映っているトラの写真ははめたんですか?

谷口:そうです。すべて映画のシーンを踏まえてます。例えば森で撮る場合は、トラの体毛自体がもともと保護色なので、オバチャンが森の背景に溶け込むっていう……。

大月:それめちゃくちゃ面白いなぁ。

武田:オバチャンは現地調達だったんですよね?

谷口:そうです。いかに安くやるかっていうのを追求してるので、東京からは私一人で行って……このロケ、実際にかかったのは14万円だったんですよ。オバチャンや、オバチャンと一緒に歩くこの少年役やカメラマンも現地調達です。今はもう閉店しちゃったんですけど、大阪にハデな服の専門店があって、「こういう幻想的なシーンも映画にありますよ」っていう紹介も入れたりしながら、毎回、強引に作品と紐付けて……。終盤ではオバチャンがなぜトラ柄を着るようになったのかというストーリーを語り出すんですが、そこではオトンが死んだり、いろいろな過去がどんどん明らかになっていく。映画の中でもトラと少年が心を許し合っていくので、それになぞらえて。

(会場:笑い)

谷口:で、最後には若い頃の写真を残して、オバチャンはまた森に消えていく。

大月:この若い頃の写真は嘘ですよね?(笑)

「大阪の虎ガラのオバチャンと227分デートしてみた!」より(スクリーンショット)

「大阪の虎ガラのオバチャンと227分デートしてみた!」より(スクリーンショット)

谷口:嘘です。

大月:何度か目が往復しましたもんね、「なる? こういう風に」って(笑)。

谷口:この記事についたコメントで、「ホクロの位置が違うからニセモノだ!」っていう声があったので、すぐにホクロの位置をフォトショップで変えて(笑)。わからないでしょ?

大月:細かいですね、やっぱり(笑)。

人々の脳内地図を動画化
――「バカ日本地図」と「バカ世界地図」

武田:こちらの動画(「【バカ日本地図】~全国のバカが考えた脳内列島MAP~」)は谷口さんが個人で作られたものですか?


動画「【バカ日本地図】~全国のバカが考えた脳内列島MAP~」(2008年)

谷口:そうですね。私は滋賀出身なんですけど、必ず「岐阜出身ですよね?」って聞かれることに心底腹が立ってきて(笑)。「バカが頭の中に描く日本地図ってどういうものだろう?」と思って10年ほど前(2003年)に作ったのが「バカ日本地図」です。都道府県に対するいろんな人の勘違いを地図にしていったもの。

動画「【バカ日本地図】~全国のバカが考えた脳内列島MAP~」より(スクリーンショット)

動画「【バカ日本地図】~全国のバカが考えた脳内列島MAP~」より(スクリーンショット)

 それを動画にしてくれた人がいてニコニコ動画でもウケて、調子に乗って「世界版」も作ったんです。世界版は怖かったんですよね、途中でイラクとか消しちゃうんですけど、殺されるんじゃないかと思ったんです(笑)。でも全然そんなことなくて、みんなこれがユーモアだとわかってくれた。1回オーストラリアを形の似ている四国にしておいて、オーストラリア人がいつ気づくかっていうのをみんなで待ったんですよ。そうしたら、オーストラリア人が「なんかおかしい」って言いだして。「おれらの国はカンガルーの形をしていたはずだ」とか言ってボケてくれて(笑)。

4/10:違和感を作っておかないと、見てもらえない。 へ続きます]

構成:後藤知佳(numabooks)/ 編集協力:細貝太伊朗 / 写真:古川章
企画協力:10 over 9 reading club
(2014年11月1日、la keyakiにて)


PROFILEプロフィール (50音順)

大月壮(おおつき・そう)

1977年神奈川県生まれ。独創的でぶっ飛んだ作風からマジメなクライアントワークまで柔軟にこなす映像クリエイター、ディレクター。近年はWEBやテクノロジーを独自の価値観で映像に取り入れたディレクションを多く行い、2013年にはkinect等を用いた世界に類を見ないMC BATTLEイベントをANSWR、2.5Dと共に開発、主催。オリジナル作ではニコニコ動画から始まり文化庁メディア芸術祭入選まではたした「アホな走り集」が有名。

武田俊

元KAI-YOU, LLC代表/メディアプロデューサー/編集者/文筆家

1986年、名古屋市生まれ。法政大学文学部日本文学科在籍中に、世界と遊ぶ文芸誌『界遊』を創刊。編集者・ライターとして活動を始める。2011年、メディアプロダクション・KAI-YOU,LLC.を設立。「すべてのメディアをコミュニケーション+コンテンツの場に編集・構築する」をモット-に、カルチャーや広告の領域を中心に、文芸、Web、メディア、映画、アニメ、アイドル、テクノロジーなどジャンルを横断したプロジェクトを手がける。2014年12月より『TOmagazine』編集部に所属。NHK「ニッポンのジレンマ」に出演ほか、講演、イベント出演も多数。右投右打。

谷口マサト(たにぐち・まさと)

1972年滋賀生まれ。横浜国立大学の建築学科を卒業後、空手修行のため渡米、主にヌンチャクを学ぶ。空手のテキサス州大会と柔術の大会で優勝した後、帰国するもヌンチャクでは食えず、96年にいち早くネット業界に入る。制作会社を経て外資系のIT系コンサル会社へ。当時日本で数少ないIA(情報設計)の専門家として、大手コマースサイトのリニューアルを多数担当後、ライブドアへ。現在はLINEにて、企業とのタイアップ広告企画を担当する。一方で、運営する個人サイト「chakuwiki/借力」は累計4億2千万PVでベストブログ・オブ・イヤー賞(エンタメ部門)など受賞多数。サイトから発展した『バカ日本地図』『広告なのにシェアされるコンテンツマーケティング入門』などの書籍を宝島社などから7冊出版している。