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水野祐+平林健吾 Edit × LAW

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第4回「投稿」

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第4回「投稿」

平林健吾

先日、ポール・マッカートニーのコンサートに行って参りました。ポールが「一緒に歌おうよ!」と言うものですから、うっかり、オブラディ~オブラダ~ラィフゴーズォンブルァア~などと叫んで盛り上がってしまいました。代表、ごめんなさい。

さて、そんなポールのコンサート会場で、私は、多くのお客さんが、熱演しているポールをスマホで撮影しているのを目にしました。さらに翌日、私は、そうやって撮影されたであろうポールの写真がツイッターやフェイスブックにいくつも投稿されているのを見かけました。

分かります。目の前にポール・マッカートニーがいたら、記念に写真を撮っておきたくなりますよね。そして、せっかく撮った写真ですから、みんなにもシェアしたくなりますよね。

でも、そのような行為は、法的に問題ないのでしょうか? ちょっと疑問に思ったので考えてみました。

(疑問その1)
そもそも、コンサート会場での写真撮影は禁止なのでは……?

大丈夫です。今回のコンサートでは、主催者が、スマホなどでの写真撮影を禁止していませんでした*1

(疑問その2)
撮影行為が禁止されていなかったとしても、撮影した写真をSNSに投稿したら、さすがにマズいのでは……?

いえ、おそらく大丈夫です。
たしかに、撮影したポールの写真をSNSに投稿することまで許諾されているのか、はっきりしません(脚注*1告知文参照)。しかし、法的には、そのような許諾がなくても、ポールの写真をSNSに投稿できると考えています。問題になりそうな権利ごとに見てみましょう。

1. 著作権
ポールの写真の著作権は撮影した観客に帰属しますので、この写真の著作権については問題はありません。なお、ポールの背景に、ステージで上映されていた映像など第三者の著作物が映り込んでしまっていても、「付随対象著作物」の利用として許容される(著作権法30条の2)*2と考えます。

2. 実演家の権利
ポール・マッカートニーの演奏や歌唱は「実演」*3なので、実演家の権利*4が及びます。しかし、ポールが熱演している場面をとらえた写真(still)は、これをSNSに投稿しても「実演」を送信可能化(著作権法92条の2)したことにはならず、侵害行為とならないと考えます。

3. 肖像権
人は、みだりに自己の容ぼうを撮影されたり、公表されたりしない人格的利益(肖像権)を有すると考えられており、承諾なく人の容ぼうを撮影すると不法行為となる場合があります*5
もっとも、前述のとおり、今回のコンサートでは、ポールの写真を撮影することは承諾されていました。また、ポールの写真をSNSに投稿して公表する行為も、(i)ポール・マッカートニーは著名なアーティストであってその容ぼうが社会に広く知られていること、(ii)SNSに投稿された容ぼうはコンサートに出演中に撮影されたものであってプライベートな時間・場所で撮影されたものではないこと、(iii)公表の目的もコンサートの様子を伝えることであって特段不当とはいえないことなどからすると、「社会生活上受忍の限度を超える」(脚注*5の判例参照)とはいえず、不法行為とはならないと考えます。

4. パブリシティ権
ポール・マッカートニーのような著名人の容ぼうには、商品の販売等を促進する力(顧客吸引力)があります。そして、容ぼうに顧客吸引力がある人は、この顧客吸引力を排他的に利用する権利(パブリシティ権)を有すると考えられており、無断で容ぼうを使用すると不法行為となる場合があります*6
もっとも、ポールの写真をSNSに投稿する行為は、(i)投稿された写真は無料で閲覧可能であり、写真自体を商品として使用しているわけではないこと、(ii)商品等の宣伝・広告のためにポールの容ぼうが利用されているわけではないことなどからすると、「専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とする」(脚注*6の判例参照)行為とはいえず、不法行為とはならないと考えます。

以上、見てきたとおり、今回のコンサートでは、会場で撮影したポールの写真をSNSに投稿しても大丈夫だと考えています*7

finale - Paul McCartney Japan Tour "Out There"[著者撮影]

finale – Paul McCartney Japan Tour “Out There”[著者撮影]



余談です。今回、「ヘイ・ジュード」や「イエスタデイ」も演ってくれて本当に嬉しかったけれど、個人的に一番よかったのは、「We Can Work It Out」!

[Edit × LAW:第4回 了]


*1│スマホなどでの写真撮影を禁止していませんでした
http://outthere-japantour.com/news/1998 
「2013.11.18 月曜日【公演中の写真撮影に関しまして】携帯電話、ipadなどのタブレット型メディアプレーヤー以外での写真撮影は禁止させて頂きます。いずれもフラッシュのご使用、動画の撮影は禁止させて頂きます。(以下略)」

*2│付随対象著作物
写真の撮影等の方法によって著作物を創作する際に、撮影の対象とする事物から分離することが困難であるため付随して対象となる著作物(付随対象著作物)は、当該創作に伴って複製・翻案されても侵害行為とならず、また、複製・翻案された付随対象著作物は、創作された写真等の著作物の利用に伴って利用されても侵害行為とならない。

*3│「実演」
著作物を、演劇的に演じ、舞い、演奏し、歌い、口演し、朗詠し、又はその他の方法により演ずること(これらに類する行為で、著作物を演じないが芸能的な性質を有するものを含む。)をいう(著作権法2条1項3号)。

*4│実演家の権利
録音権・録画権(著作権法91条)、放送権・有線放送権(著作権法92条)、送信可能化権(著作権法92条の2)など。

*5│承諾なく人の容ぼうを撮影すると不法行為となる場合
「人は、みだりに自己の容ぼう等を撮影されないということについて法律上保護されるべき人格的利益を有する(最高裁昭和40年(あ)第1187号同44年12月24日大法廷判決・刑集23巻12号1625頁参照)。もっとも、人の容ぼう等の撮影が正当な取材行為等として許されるべき場合もあるのであって、ある者の容ぼう等をその承諾なく撮影することが不法行為法上違法となるかどうかは、被撮影者の社会的地位、撮影された被撮影者の活動内容、撮影の場所、撮影の目的、撮影の態様、撮影の必要性等を総合考慮して、被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべきである。」(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319120750524272.pdf

*6│無断で容ぼうを使用すると不法行為となる場合
「肖像等は、商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合があり、このような顧客吸引力を排他的に利用する権利(以下「パブリシティ権」という。)は、肖像等それ自体の商業的価値に基づくものであるから、上記の人格権に由来する権利の一内容を構成するものということができる。他方、肖像等に顧客吸引力を有する者は、社会の耳目を集めるなどして、その肖像等を時事報道、論説、創作物等に使用されることもあるのであって、その使用を正当な表現行為等として受忍すべき場合もあるというべきである。そうすると、肖像等を無断で使用する行為は、①肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し、②商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し、③肖像等を商品等の広告として使用するなど、専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に、パブリシティ権を侵害するものとして、不法行為法上違法となると解するのが相当である。」(最高裁判所平成24年2月2日判決 http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120202111145.pdf

*7│投稿しても大丈夫 
今回の検討は、会場での写真撮影が(部分的に)許可されていたという事実を前提としています。主催者や施設管理者によって写真撮影が全面的に禁止されている場合も多く、そのようなコンサートでこっそり撮影した写真については、今回の議論が当てはまらない場合もあるのでご注意ください。


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PROFILEプロフィール (50音順)

水野祐+平林健吾

水野 祐(みずの・たすく) │ 弁護士。シティライツ法律事務所代表。武蔵野美術大学非常勤講師(知的財産法)。Arts and Law代表理事。Creative Commons Japan理事。Fab Commons(FabLab Japan)などにも所属。音楽、映像、出版、デザイン、IT、建築不動産などの分野の法務に従事しつつ、カルチャーの新しいプラットフォームを模索する活動をしている。共著に『クリエイターのための渡世術』(ワークスコーポレーション)、共同翻訳・執筆を担当した『オープンデザイン―参加と共創から生まれる「つくりかたの未来」』(オライリー・ジャパン)などがある。 [Twitter]@taaaaaaaaaask 平林 健吾(ひらばやし・けんご) │ 弁護士。シティライツ法律事務所。Arts and Law。企業内弁護士としてネット企業に勤務しながら、起業家やスタートアップ、クリエーターに対する法的支援を行っている。近著:『インターネット新時代の法律実務Q&A』(編著・日本加除出版、2013年10月)。