COLUMN

廣田周作 もしも、あなたの本がソーシャルメディアだったら

廣田周作 もしも、あなたの本がソーシャルメディアだったら
第4回「本とレコメンデーション」(後編)

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第4回「本とレコメンデーション」(後編)
※前編はこちら

一方、今回、もう少し踏み込んで議論してみたいのは、ある本を読むと、「もっと他の作品も読んでみたくなる」という、もう一つの欲望(「縦のレコメンデーション」)についてです。これは、ある本を読んだ時に、その本自体が、他の本を欲望させることを指しています。

例えば、シリーズ物の作品では、続編が気になるということもあるでしょうし、同じ作家の他の作品を読みたくなるということもあります(作家自体のことを知りたいと欲望していくこともあるでしょう)。その作家が影響を受けた作家の本を読んでみたくなることも縦のレコメンデーションだと言えます。例えば、私も、ジョン・アーヴィングの作品を読み、作家について調べていくと、その師匠がカートヴォネガットJr.だと知り、今度は、カートヴォネガットJr.の作品が気になって、読み始めて、すっかりカートヴォネガットJr.のファンになってしまうことがありました。

他にも、例えば、ある時期の大江健三郎の本を読めば、ディケンズを読みたくなりますし、内田樹を読めば、レヴィナスを読みたくなり、村上春樹を読めば、ドストエフスキーやトルストイや、トマスマンを読みたくなるし、東浩紀を読めば、デリダや柄谷行人を読みたくなります(東さんの本の場合は、アニメを見たり、ゲームもしたくなりますがw)。読書をしていると、その本が織りなす世界に、膨大な他の本の記憶の影が投影されてくる訳です。
そもそも、ヨーロッパの哲学や思想や文学は、こうした膨大な「縦のレコメンデーション」で成り立っているところがあります。ギリシャ神話や哲学、キリスト教に関する「教養=知識のデータベース」を前提として、様々なテクストが構成されているため、必然的に、現代に書かれた本を手にとったとしても、古典へとシームレスに接続されていくことになります。こうした本を読み込むには時間もかかって大変ですが、本のリンクを辿って読み進めていくという体験(プロセス)が、読書体験をより深く、楽しく、豊かなものにしていくわけです。最初は、一枚の紙=葉っぱのような存在だったテクストが、読めば読むほど、深く、複雑なリンクが貼られていき、世界が、次第に「木」や「森」のように立ち上がってくる、そんな広がりがあるわけです。

これは、現代のソーシャルメディアが実現している「横のレコメンデーション」によるコミュニケーションとは違って、もともと古くから本が持っているより広義の「ソーシャル性」とでもいうべきものではないかと僕は思っています。

つまり、本(に書かれたテクスト)とは、そもそもが、ネットワーク的に構成されたものであり、あらゆる本は、常に他の本や言葉と接続されている、ということです。すなわち、本こそが、ある意味では、もともとソーシャルメディアであり、本は既に他の本からリンクを貼られたものであるのではないか?と思うのです。

良い本は、きちんと他の本へと欲望を転送していく機能を持っています。クリックこそ出来ませんが、ハイパーリンクのような機能をもともと備え付けているのだと思います。読者は、それらのリンクの間を自由に行き来できるアカウントであり、同時に、リンクを束ねる結節点にもなるわけです。

しかし、最近の本は、出版数こそ増えているものの、こうしたもともと本がもつ「ソーシャル性」を次第に失ってきているようにも思います。なかなか、他の本へと開いていくものが少ない。本と本との間に存在するリンクの数が減ってきているのではないでしょうか?

確かに、何か他の本に書かれた知識を前提とした本は、読者に教養を強いるため、売り上げの点で、敬遠されてしまうのもわかります。もちろん、その本だけで世界が完結して、一冊でも満足出来ることも重要です。インスタントに楽しめるということも大切なのは分かります。ただ、どこかに、わずかでも、他の本へとつながるリンクは残っていた方が、読み手としても、嬉しいものです。

本の売り上げを上げるためにも、その本だけが売れるのではなくて、他の本も同時に手を取ってもらい、「本(テクスト)のネットワーク」全体が盛り上がっていくうな状況を作った方が良いのではないかとも思います。悪しき教養主義になるのは良くないと思うのですが、自然に他の作品も手にとってもらえるような「編集」にしていくことは、本の売り上げにとっても、本というネットワークを豊かに保つ上でも非常に重要なことなんじゃないかと思います。そもそも、今、皆さんがこのブログを読んでいるのも、本好きが高じて、さまざまな「リンク」からここにたどり着いたのだと思いますが、それはソーシャルメディアがそうさせたのではなく、そもそもの本のソーシャル性がここまで皆さんをつれてきたのではないかと思うのです。

新刊の本などPRしようとする時、どうしても「横のレコメンデーション」ばかりに気を取られがちですが、実は、一方で、本がそもそも持っているソーシャル性を意識して、「縦のレコメンデーション」もちゃんと出来るような内容にしていくということも、一見遠回りかもしれませんが、本の売り上げをきちんと上げていく上では非常に重要な手段なのではないかと思います。「縦のレコメンデーション」を持つこと自体が、読者の興味を喚起し、話題を呼び、他の本とのリンクを豊穣にし、さらに他の本が読まれていくきっかけになるのではないかと僕は思っています。それこそが、文化とマーケティングを両立させる、一つの可能性ではないでしょうか。

[もしも、あなたの本がソーシャルメディアだったら:第4回 了]


PROFILEプロフィール (50音順)

廣田周作(ひろた・しゅうさく)

1980年生まれ。2009年電通入社。コミュニケーション・デザイン・センターを経て、12年からプラットフォーム・ビジネス局開発部。ソーシャルリスニングの知見に基づき、企業のソーシャルメディアの戦略的活用コンサルティングから、デジタル領域における戦略策定、キャンペーン実施、デジタルプロモーション企画、効果検証を担当。ソーシャルリスニングのソリューションとして「Sora-lis」「リスニングプラス」などの分析メソッド、ツイッター上での話題の拡散度合いを測る指標の開発にも関わる。社内横断組織「電通ソーシャルメディアラボ」「電通モダン・コミュニケーション・ラボ」などに所属。2013年、自著『SHARED VISION』(宣伝会議)を出版。


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『SHARED VISION』

廣田周作
単行本(ソフトカバー): 208ページ
出版社: 宣伝会議
発売日: 2013/6/4