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山内康裕 マンガは拡張する

山内康裕 マンガは拡張する
第4回「超・属人的キュレーターの時代」

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第4回「超・属人的キュレーターの時代」

今後、キュレーションがマンガのリーチする層を拡大する鍵になるのは間違いない。インターネットの力で情報やメディアが増える中、結局は「誰が」情報を発信しているのかに注目が集まる。そして近い将来、〈情報を発信した誰かをキュレーションする人〉が、メディアそのものになり「場」を作ることになるだろう

第3回でふれたように、「Sumally」など、「誰が発信するか」に起点をおくキュレーションサービスにマンガというコンテンツが入り込めば、マンガの拡張を今よりも後押しする。ではなぜ現在人気の高い「naverまとめ」や「Togetter」では〈マンガ好き〉の枠を越えた拡散には不十分なのだろうか。

それはこれらのサービスが、「誰が」まとめたかよりも「何が」まとめられたかを強調する、いわば「情報キュレーション」だからだ。
たくさんの情報を整理するためには役立つが、その分野やテーマ、キュレーションの切り口に興味がない人、いわばクラスター外の人には広がらないのだ。にもかかわらず、情報キュレーションはテーマや切り口によって、無限に増えていく。だからクラスター外の人からは、ますます情報が探しにくい……こんな悪循環に陥ってしまう。

それを解消しようとしているのが、「Sumally」など「人」を起点にしたキュレーションサービスだ。「誰が」情報を選んで発信しているかに注目が集まり、「この人の発信することなら知りたい」とフォローする。「誰が」選ぶかに注目するキュレーションは、「属人的キュレーション」といえるだろう。

TwitterとFacebookの違いもここにあると考えている。
Twitter上では、趣味や興味関心をベースにして集まるクラスターが基本。そのクラスターが複数重なり、ゆるなかな人と人のつながりが生まれる。そのクラスターやつながりの中では、お互いに面識があるかどうかは問われず、むしろそれぞれが「何を」発信するかが重要視される。興味や趣味が情報を集める起点になっているという点で情報キュレーションと似ており、実際に情報キュレーションの元ネタになっている。

マンガ業界で言えば、編集者・漫画家・書店員らによる情報発信や意見交換がこれにあたる。彼らの関心は「マンガ」。実際の知り合いでなくても、マンガについてつぶやいている人同士で、情報をチェックしたり意見を言ったりしている。例えば、穂積氏の『式の前日』のヒットは、ある書店員が発売直後に品切れになったことをつぶやいたのがきっかけ。旧小学館ビルで8月末に行われた「ありがとう!小学館ビル ラクガキ大会」も編集者と漫画家のTwitter上のやり取りが情報の広がりを後押しし、マスメディアに取り上げられるニュースになった。

それに対し、Facebookは「誰と」つながっているかが重要だ。「この人の情報は今後も知りたい」という動機がFacebook上でつながるきっかけになる。つながった個人の興味関心はそれぞれ違うため、「興味」「趣味」などのクラスターを越えて情報が広がりやすい。Facebook上の情報の整理は、属人的キュレーションなのだ。

この属人的キュレーションは以前から、リアルでもネット上でも行われていた。例えば「このお土産はお薦めです」という著名人のブログの記事などがそれだし、「この芸能人が店に来ました」などリアル・ネットを問わず知名度の高い人や芸能人らが情報の発信源になり、属人的なキュレーションを行っていた。
しかし、今、属人的なキュレーションを担うべき存在は、そこまで一般的に知名度の高い人ではない。Facebookの登場によって、数千人程度のつながりがある人が、その拡散力やリテンションによって、属人的キュレーションの主体になれるようになった。

そうなると、属人的キュレーションの数は無数に増える。その状況になって可能になり、かつ求められるのが、その属人的キュレーターをキュレーションする、「超・属人的キュレーター」だ。

この「超・属人的キュレーター」は、おもしろいことをやりそうな人、感度の高い情報を発信しそうな人を集め、「この人に注目しておくとおもしろいよ」と訴える。これまで何をやったかを参考に、「この先、その人は何をやるだろうか」と将来への期待度が高い人を集め、ひとつのメディアにまとめる。
逆にキュレーションの対象になった人は、生きざまからライフスタイル、どんな発言をするかなど全人格が注目される。
たとえば、マンガ家でいうとカレー沢薫氏。彼女は連載終了の疑惑をTwitter上で自虐的につぶやき、笑いに変えてマイナスの状況を一掃した。Twitter上でのネタ投稿がきっかけで連載を持つようになり、リアルイベントのギャグ漫画家大喜利バトルでも優勝したダ・ヴィンチ恐山氏なども、作品のみならず今後の活動や発言まで注目したくなる作家だろう。
つまりキュレーションの対象が情報・コンテンツであったときは過去・現在までだったのが、キュレーターという人を対象にすることで、未来の時間軸まで対象が広がる。逆にキュレーションの過程でも、未来を意識したセレクトが必要になる。

きっと将来の「雑誌」は、雑誌の範疇にとどまらない。この〈「超・属人的キュレーター」が持つメディア〉という形になるだろう。

「雑誌」の名前と「超・属人的キュレーター」の名前は並列の価値になる。「雑誌」にはマンガを発表する人だけでなく、小説、イラスト、評論とあらゆる表現=情報発信をする人が集められる。キュレーターを選ぶ基準は、コンテンツのパワーだけではなく、彼らのライフスタイルの波及力も考慮される。その「雑誌」のファンになるのは、キュレーターのセンスや情報感度に惹かれる人だ。

実は、ずっと昔のマンガ雑誌はこの形に近かった。第2次世界大戦後の復興期に出版された『少年倶楽部』『漫画少年』などは、ストーリーマンガだけでなく、小説や読み物も掲載していた。少女マンガ雑誌では、人気アイドルのライブレポートなど芸能界情報を載せていた時代もあった。
一回りして元に戻りつつあると思うかもしれない。だが、インターネットとSNSの広がりによって、物理的な障壁はほぼ取り払われた。一回りしたあと、確実にレイヤーは上がっている。

次にくるのは、「超・属人的キュレーター」による「場」のキュレーションだ。「未来」に向けて「これがいい」と人と情報をキュレーションする「超・属人的キュレーター」が、コンテンツ、クリエーター、クラスター内の情報を整理する情報キュレーター、はたまたライフスタイルや選択眼の高さを訴える属人的キュレーターを己のセンスを頼りに並べ替え、雑誌そしてメディアという範疇を超えて、「場」をキュレーションする時代が近づいている。

[マンガは拡張する:第4回 了]


PROFILEプロフィール (50音順)

山内康裕(やまうち・やすひろ)

マンガナイト/レインボーバード合同会社代表。 1979年生。法政大学イノベーションマネジメント研究科修了(MBA in accounting)。 2009年、マンガを介したコミュニケーションを生み出すユニット「マンガナイト」を結成し代表を務める。 また、2010年にはマンガ関連の企画会社「レインボーバード合同会社」を設立し、“マンガ”を軸に施設・展示・販促・商品等のコンテンツプロデュース・キュレーション・プランニング業務等を提供している。 主な実績は「立川まんがぱーく」「東京ワンピースタワー」「池袋シネマチ祭2014」「日本財団これも学習マンガだ!」等。 「さいとう・たかを劇画文化財団」理事、「国際文化都市整備機構」監事も務める。共著に『『ONE PIECE』に学ぶ最強ビジネスチームの作り方』(集英社)、『人生と勉強に効く学べるマンガ100冊』(文藝春秋)、『コルクを抜く』(ボイジャー)がある。http://manganight.net/