「これからの編集者」をテーマに、さまざまな人にインタビューしていくシリーズ。第7回は、「NEWSポストセブン」など数々のネットニュースの編集を手がける編集者、中川淳一郎さんです。
※下記からの続きです。
第7回:中川淳一郎(ネット編集者) 1/5
第7回:中川淳一郎(ネット編集者) 2/5
第7回:中川淳一郎(ネット編集者) 3/5
ネットニュースを見ている人たち
――企業がネットで影響力を持とうとするときに「Yahoo!トピックス」を狙う、という話をよく聞きます。ずっと疑問なのですが、これは永遠に続くのでしょうか。中川さんは、今後も10年20年、ずっとヤフトピを狙う時代が続くと思いますか?
中川:10年20年はわかんないけど、少なくともあと3年はそうでしょうね。なぜならまず、たぶん日本のネット人口は、いまもうほぼ飽和状態になっていると思います。そして、その人たちの行動様式っていうのが、この十何年間、変わってないわけですよ。まずYahoo!を見る。ネット論者はしきりに、検索の時代が終わったとか、ポータルは終わったとか、すべてTwitter経由でニュース知るようになったとかって言うけど、それは未だに一部の人だけなんですよ。彼らが2010年くらいに提唱した概念が、いま3年後に現実になったかっていうと、なっていないんですよ。
ただ、オレ自身は将来がどうなるかって話は本当に苦手で、いまがどうかを分析することしかできないんですよ。だからいままでにも本にはそういうことは一切書いてない。自分はすべて現状にどう対応するかしか考えてないんで。いまはyahoo!だろう。だからこうしよう、ということでしかないですよね。
中川淳一郎さん
で、ネット論者が言うような学歴があって知的な人って、超マイノリティーなんですよ。たとえばこれってすごい明確なんですけど、いまのオレの@unkotaberunoっていうアカウントをフォローしているのは、まともな人ばかりなんですよね。たとえばですね、ここで1回ログアウトして。オレアカウントを4つ持っているのですが、例えばこのアカウントでフォローしている相手っていうのは「騎乗位」って言葉をつぶやいた人だけなんです。あともうひとつのアカウントは、瑛太が主演の「素直になれなくて」(2010年)っていうTwitterドラマがきっかけです。第一回の放映が終わったあとに、mixiで「素直になれなくてをみてからTwitter始めた人コミュ」ってのができて、ここで地方の若い学生やOLみたいな人々や主婦みたいな人々がみんなID晒しまくっていたので、それをフォローしまくった。自分自身も「岡山のアパレルショップで働くOL」という設定ではじめたアカウント。こういうアカウントのタイムラインを見ると、よくわかるわけです。まったくニュースなんかつぶやかないし。これ内沼さんが普段見ているタイムラインと違うでしょ?
――たしかに、違いますね。
中川:でも、ネットニュースはこういう人たちが見てるわけですから。この人たちが、世間の8割ぐらいなんです。
――たしかにそうですよね。近い話かもしれないですけど、『ウェブで儲ける人と損する人の法則』でも書かれていたし、マイナビのサイトのインタビューでも仰っているのですが、企業がネットで発信するっていうときに、企業の担当者はブランディングを意識しすぎている、格好つけずにもう少しネットユーザーにすり寄ったほうがいいんじゃないかということを、よく中川さんはおっしゃっていると感じます。そこで伺いたかったのが、たとえば深い共感みたいなものは、PVでは測れないわけじゃないですか。いわゆるネットユーザー一般にはウケないため、数字は取れないけども、ブランディングには成功しているみたいな事例もきっと、ありますよね。そうしたブランドについては、中川さんはどのようにお考えですか?
中川:もちろん例えばグッチのようなハイブランドは、それでいいと思いますよ。あと学者。学者ってネットであんまり論文を発表しないんですが、それって学者の価値を高めてると思いますよね。なぜこんなに論文が少ないかっていったら、バカが「お前の日本語破綻してるw」とかね、意見を書けてしまう。そういった意味で、オレはこの研究に30年勤しんでるのに、なんでこんなやつから言われなきゃいけないんだと思って、じゃあ論文の価値を低めるようなインターネットには出さない、ということだと思うんですよ。そういうものは、インターネットと距離を置いたほうがいい。
――例えばハイブランド以外にも、一般消費財なんだけど、いわゆる評価の高いブランドってあるじゃないですか。ナイキとかスターバックスみたいなやつとか。そういうところがあんまり下世話なニュースとか発信するべきではないですよね。
中川:それはそうですよね。もうすでに支持があるんで。たとえば「ナイキの靴でうんこ踏んだらすぐ水で洗えば取れる」とか、そんなのはやっちゃだめですよ。それは月星化成とかが一発逆転を狙って、おもしれえなって言われるようなときに使う裏技でしょ。
――そこで想像なんですけど、月星化成もいつかはナイキになりたいと思ってやっている可能性が、大いにあるじゃないですか。「いや、うちはいつかナイキになりたいんで、そんな下世話なニュース出せません」って思うんじゃないかって思うんですが、そこをきっと中川さんは「そこは一発逆転狙うなら、やったほうがいい」って言う側ですよね。
中川:そうですね。ただ、それが御社の判断として正しくないのなら、全然やらなくていいですよってことですよ。オレは大前提として「ネットでウケたい」ってオーダーで呼ばれることばかりなんです。だから「ネットではこうだよ」って伝える。それで「それはうちは無理ですね」となれば、じゃあやめましょう、となるだけなんです。
情報を消費する人と換金する人の分かれ道
――「WEB本の雑誌」の「オトコの本棚」という本を紹介するコーナーで、最後の段落にすごくいいことが書いてありました。「編集と聞くと、出版社をイメージされる方が多いと思うんですが、じつは編集はあらゆる仕事と切っても切れない存在であり、普遍的な技術です。得意先で小耳にはさんだ雑談と、新聞で見たニュースをうまくからめたセールストークをするというのも編集の一つ。無数に飛び交う情報をただ“消費”する人と、“換金”できる人との分かれ道は、編集能力にあるといっても過言ではありません。さらに、酒が強ければ怖いものなしですね(笑)」。これがまさに中川さんの編集観なんだろうと思うのですが、ここで「技術」や「編集能力」と言われているものは、どうやって身につけるものなんでしょうか。
中川:そうですね……オレも元々編集者じゃないからね。たぶんね、いろんな組み合わせなんですよ。「SMAPが解散したらどうなるか」というシミュレーションを記事にするとしたとき、「すごくインパクトがある」っていうのが前提じゃないですか。だとしたら、でっかくするにはどうするかとまず考える。それでいろいろ積み上げていったら、損害は930億になるという数字が出る。次に、930億ってどう表現すりゃいいかなって考えるんですよ。当時はデフレで、吉野家がガンガン値下げして牛丼が250円になった頃で、ファストフード界の雄だった。その吉野家の売り上げがちょうど930億だったわけです。だったら「吉野家一社が稼ぎ出す額と一緒」っていうのを中核にすりゃいいと。何が一番インパクトがでかいかを考えるのが、編集者の仕事なんですよ。
――中川さんがそれを最初に依頼されたとき、まだ編集者じゃなかったじゃないですか。このほうがおもしろいとか、もののおもしろがりとかって、いつ頃何によって培われたとかあります?
中川:たぶんね、プロ研ですね。一橋です。常見陽平くんと会ったことがすべてですね。
――そうですか。高校生までとかどういうかんじだったんですか?
中川:中学のときは、普通にテストの成績がいいだけ。で、高校行ってアメリカ行ったでしょ、数学が得意だった。そうそう、これ見て。
――すごい、これは天才のノートですね。英語はどこで勉強したんですか。
中川:筆記体が楽しくて、ずっと書いてた。それやってるうちに英語が好きになっちゃった。で、行って5ヶ月間は何もしゃべれなかったんですけど、5ヶ月後に突然わかるようになるんですよ。で、これがバカになるのが大学生になってからなの。
――そうですか。
中川:これは、スーパーファミコンの「スーパーフォーメーションサッカー」っていうゲームで。日本が何対何で勝ったかっていうのをずっと記録するっていう。落差が激しいんですよ。1年でこんなバカになっちゃって(笑)。大学に入って、もうレベルが激落ちなんですよ。
――先ほどからお話を伺っていると、そのプロ研が本当に才能を輩出してますね。常見さんもそうですし、『週刊ポスト』の「のりピーマン」さん、最初のニュースサイトを始めたときの学生たちも。その後もプロ研卒業生は活躍しているんですか。
中川:してますね。編集者とかメディア関係者が多いです。『週刊ポスト』の「のりピーマン」のほかにも、「ラモス瑠偉16世」ってのがMBSに入ったり、「RESET」ってやつが『TV Bros.』の編集者になったり、「中条ピロシキ」ってのがTBSの敏腕プロデューサーだし、「チャコ」ってのが日テレのディレクターだったりね。そういう人ばっかですよ。(※以上、できれば正しいリングネームを教えていただけますでしょうか)
――その輩出っぷりは何なんですかね。人はプロレスをやると面白くなって編集をするようになるんですか。
中川:まず、年に1人か2人しか新入部員が入らないんですよ。しかも学園祭で一番注目されるでしょ。注目されることにみんな快感を味わうんですよ。そしたらどうするかっていったら、注目される業種に入ろうと思うんです。それがメディアなんでしょうね。
――なるほど。その注目される快感に気がつくってことですかね。
中川:だと思う。その注目されることが、嬉しかったりする。学校でも「この前の試合よかったよ」って言われるわけですよ。そうするとこれと同じ快感を世間でも味わいたいって思うんでしょう。常見なんかもそうなんだけど、「この前の記事よかったですよ」とか言われたいんですよね。「本おもしろかったです」とか。だからプロレスがなぜかジャーナリズム方面に行くんじゃないですかね。
――そうやって「次どうしたらもっとおもしろくなるか」とか考えてるってことなんですよね。
中川:うん。前と同じことやったら「お約束ですか」みたいなこと言われちゃう。ネットでニュース書いたりするのも、どんなことをしたらウケるかとか考えているわけですから。
「第7回:中川淳一郎(ネット編集者) 5/5」 に続く(2013/07/12公開)
「これからの編集者」バックナンバーはこちら
インタビュアー: 内沼晋太郎
1980年生。一橋大学商学部商学科卒。numabooks代表。ブック・コーディネイター、クリエイティブ・ディレクター。読書用品ブランド「BIBLIOPHILIC」プロデューサー。2012年、下北沢に本屋「B&B」を、博報堂ケトルと協業で開業。
編集構成: 内沼晋太郎
編集協力: 片山菜緒子
COMMENTSこの記事に対するコメント