マンガを取り巻く現況を俯瞰し、マンガと人々がいかにして出会うことができるか。マンガナイト代表・山内康裕さんが連載コラム「マンガは拡張する」全10回の中で描いた構想を、第一線でマンガ界を盛り上げる人々に自らぶつけていく[対話編]の6人目のゲストは、株式会社SCRAP代表取締役の加藤隆生さん。「リアル脱出ゲーム」という大きな器の中で、「新世紀エヴァンゲリオン」「ワンピース」「進撃の巨人」「名探偵コナン」など出版社を問わずさまざまなマンガ・アニメ作品と次々とコラボした公演を制作し、その動員数は年々増え続けています。それぞれの作品の魅力を最大限に引き出し、リアルの場での新感覚の体験に再構築していくプロに、マンガ制作サイドや作品そのものとの距離感、そしてこれから先のリアルの場での作品体験の可能性を伺ってきました。
【以下からの続きです】
1/6「『リアル脱出ゲーム』はほとんどの作品に対応できるハードなんです。」
2/6「世の中は出会いに左右されている。」
3/6「新しく作るより、既にあるものを書き換える。」
コスプレも物語の装置になる空間
山内:海外のマンガイベントをやっている方に世界でのコスプレ文化について聞いたことがあるのですが、国によってはコスプレが舞台芸術に近いものとして捉えられているところもあるようです。日本でも見方を変えれば、「テニスの王子様」(集英社)のミュージカルも“コスプレをした役者の舞台公演”と見ることもできる。コスプレイヤーと演者の境界をあいまいにできる可能性をリアル脱出ゲームに感じました。つまり、脱出ゲームの公演の中で参加者である自分がコスプレをして演者になりつつ楽しむこと。日本でも海外でも舞台と組み合わせる可能性ってもっとある気がします。
加藤:「進撃の巨人」のときにはコスプレして参加したいというという問い合わせが多くて。でも更衣室などは用意できないので、「コスプレできるけど設備はありません」という方向にしようと思っていたら社内のコスプレ好きからすごい反対意見があって。「マナー違反ですよ」って。「コスプレ可」にするなら設備を用意するのは主催者責任なんだということをそこで知りました。
山内:それ、僕も初めて聞いたときには驚きました。
加藤:なので急遽そこでわざわざ追加で部屋を借りて、更衣室を用意したんですが、実際にやってみたらすごくいい効果があったんですよ。一つは単純にコスプレをしたかった人に喜んでもらえたこと。それともう一つはコスプレをしていない人にとっても、コスプレをした人が会場にいることによって、作品の世界観が高まったんですよね。コスプレが物語の装置になったんです。僕はそれが嬉しくて。お客さんも世界観を作る側に回ってくれている。こういうカルチャーは本当にすごいな、と思いましたね。
山内:参加者も演者になって、世界観を作っている。一歩引いてみると、コスプレをした参加者も演者に見えるんですね。
加藤:「巨人」のコスプレをしてきた人もいてね……ある意味では、その人は世界を壊しているとも言えるけど(笑)、そういうことも冗談として受け入れる素養が日本人のマンガカルチャーの中にはありますよね。「魔王城からの脱出」というオリジナル企画があって、それは「魔王を倒した後の城から脱出する」という設定なんですが、そこでは勇者とか盗賊の格好をした参加者がいました。この場合は作品というよりは、“RPGの世界観”という共通言語の中でコスプレをしているんですね。
[5/6「読んで終わりではなく、もっとリアルなものにしたかった。」 へ続きます](2015年1月16日更新)
構成:松井祐輔
(2014年12月2日、株式会社SCRAPにて)
COMMENTSこの記事に対するコメント