言わずと知れた日本最大級の出版社・講談社。膨大な数に上る既刊本だけでなく、年間3,000タイトル以上も刊行されていく新刊本のプロモーションを一手に引き受ける「デジタルプロモーション部」では、どのように本と読者の出会いの場を作り出しているのでしょうか。
PC・モバイル両対応を遂げたBinBリーダーも巧みに活用しながら「講談社コミックプラス」や「講談社BOOK倶楽部」など直営のプロモーションサイトを盛り上げる高島恒雄部長に、“本が人に会いに行く”ためのさまざまな工夫を語っていただきました。
※2014年7月4日に第18回国際電子出版EXPOの株式会社ボイジャーブースで行われた高島恒雄氏の講演「BinBはすごいヤツ ——講談社が取り組む試し読み活用法」を採録したものです。元の映像はこちら。
【以下からの続きです】
1/4「本が人に会いに行く ——講談社のすべての刊行物をプロモーションする仕事」
2/4「本が人に会いに行く ——講談社のすべての刊行物をプロモーションする仕事」
出版社が持つ唯一の“ここにしかない情報” ——講談社BOOK倶楽部
高島:遠回りをしておりますが、これが最終的には冒頭のBinBの話になるので、もうちょっとお待ちください(笑)。BinBにもうちょっと近いところでいうと、「講談社BOOK倶楽部」というサイトがあります。先ほど、講談社の既刊が現在4万6,000タイトルあると言いましたが、このサイトはコミックを除く講談社の既刊書籍の掘り起こしをしているサイトになります。
このサイトの中でもっとも見られているのは「発売予定」というカテゴリですね。実は出版社が持っている唯一の“ここにしかない情報”って何なのかと言うと、「これからどういう本を刊行するのか」という情報なんですね。これはもう自分たちで決めている情報なわけで、例えばAmazonのように巨大な書誌情報を流通させているサイトもあるんだけれども、発売予定に関してはよそのサイトに出す前に講談社BOOK倶楽部で発表している。先ほど「本が人を見つける」という話をしましたが、この部分については「本好きな人が本を見つけにきてくれる」ものだと言えます。
講談社BOOK倶楽部の中でもさまざまな形で本の紹介をしています。中でも見ていただきたいのは、「この1冊!」という、講談社の社員が自分の一生の中で出会った講談社の好きな本を1冊紹介するというページです。ここでは現在238冊が紹介されていて(2014年7月4日時点)、すごく面白いです。自分で言うのもなんなんですけど、やはり出版社の人間はみんな本が好きなんだな、という……ここでは編集者に限らず、営業とか業務とかいろいろな人が書いていますが、本好きだということがもう浮き彫りになるような、泣けてくるような素晴らしいページなので、ぜひ一度見ていただきたいなと思っています。「このページはなかなかいいよね」という話になって、ソニーの電子書籍ストア「ReaderStore(リーダーストア)」では「この1冊!」で取り上げた書籍をピックアップして販売していただいたこともあります(※編集部注:ReaderStore内の特集「本好きのあなたに届けたい、この1冊 講談社の本好きが厳選したおすすめの20冊」)。
本の誕生前に口コミを作る ——メルマガを通じた、読者との濃密なやりとり
高島:さらに、講談社BOOK倶楽部ではメールマガジンも配信しています。今の登録数は3万8,350人(2014年7月時点)で、月2回の配信です。ここではもちろん本の宣伝もするんですが、実はこれから出る本のプルーフ版のプレゼント応募者を募ったりもしています。
「プルーフ版」というのは何かと言うと、本を刊行する前に行う試し刷りのことです。作家や校閲チームが原稿をチェックして「ここを直そう」とか「ここ間違えてる」という指摘をしたりする中で、本番の印刷に入る直前に作るのがプルーフ版。それをご希望の方に差し上げています。ただ、もちろん差し上げるだけではなくて、事前にいろいろと感想を聞くということをしています。プルーフ版を送る方はかなりの倍率——50人に配るときはおよそ10倍くらい——になるんですけれども、そのうち感想が戻ってくるのは9割くらい。相当の本好きの人、いわば「本を見つけようと思っている人」にこちらから本を届けるというような、ものすごく濃いやりとりをしています。その中でいただいたコメントは、帯やチラシ、書店のPOPなどにも使わせていただく。
もともと口コミというのは、本が刊行された後に「あの本良かったよ」とか「王様のブランチで勧められてたけど面白そうだね」というふうに発生するわけですが、ここではもう、本が誕生する前の口コミを(発売時に)一緒につけて売っちゃおう、届けよう、ということをしているんです。やはり、口コミというのは本の売り上げによく効く、ある種の“媒体”だと思うので、それを事前に作る。そうやってメルマガでもこれから出る本のプロモーションを地道に行っているわけです。
試し読みは「車の試乗」のようなもの ——講談社コミックプラス
高島:講談社のサイトでは、本の試し読みもできます。例えば「青い鳥文庫」という子ども向けの児童文庫のサイトでは、現在450タイトルくらいの試し読みができるようになっています。ここには残念ながらBinBは使っていませんが、子どもたちにとって大変興味があるサイトなので、新しく試し読みが更新されたときはかなりアクセスが増えます。講談社BOOK倶楽部全体では、だいたい月に300〜400万PV(ページビュー)があるんですが、その中の「青い鳥文庫」のサイトだけで実は50万PVくらいある……小学生が50万人毎月集まる。まあ、50万人といってもPVですけど、そういう強いサイトになっています。
もう一つ。コミックを紹介する「講談社コミックプラス」というサイト。
コミックプラスが何をしているのかというと、これもコミックの既刊の売り伸ばしですね。『少年マガジン』、『ヤングマガジン』、『モーニング』、『なかよし』、『フレンド』など、それぞれの雑誌の編集部が独自のサイトをコミックプラスの中に持っていて、それぞれの編集部の作品の試し読みができる。今現在このサイトの中で試し読み可能な点数は1万2,108点(2014年7月時点)。ここではすべてBinBで読めるようになっています。
書店さんではよくマンガの単行本を(店頭で)フィルムパックしている場合がありますが、講談社が刊行するマンガの単行本に関しては、すべて出荷前にパックしちゃうんですね。つまり、書店の店頭で自由に立ち読みができない。例えば「はじめの一歩」を今までずっと読んでいる人にとっては、新刊が出たら中身を読まなくても買うということはまああろうかと思うんですが、初めて単行本が出る作品の1巻目というのはやはり、中身がわからないと買えないだろうと思うんです。そこで、サイト内で試し読みをしてもらうことによって、作品について知ってもらう。
つまり、いろいろなアプローチで本の方から読者に「これ見てね、見つけてね」と呼びかけた末に「ちょっと気になるな」と思ってくれた人でも、実際に内容まで見ることができないと買ってくれるまでには至らないんじゃないかな、と思うわけです。例えば車を買うときも、自分でカタログを見て調べたり、人の噂を聞いたりして「この車が良さそうだ」と思った段階では買う人はまずいないと思うんですよ。やっぱり自分でディーラーに行って試乗してみて、話を聞いて、内容をよりよく知らないといけない。そういう意味では「車を試乗するようなものが試し読みだ」というふうに思っています。
※動画中の0:16:54から0:24:50までの内容がこの記事(「本が人に会いに行く ——講談社の全刊行物をプロモーションする仕事」3/4)にあたります。
[4/4へ続きます]
編集協力:松村孝宏(numabooks)
(2014年7月4日、第16回国際電子出版EXPOのボイジャーブースにて行われた講演「BinBはすごいヤツ——講談社が取り組む試し読み活用法」より)
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