INTERVIEW

VOYAGER SPEAKING SESSIONS

第5回 菊池健×鈴木みそ:あまり多くない読者とともにマンガ家が生きていくには
「『電子出版めんどくさい』と言っていた大御所も市場に入れば、歯車が回りだす。」

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『ナナのリテラシー』など自らの作品をKDP(Kindle ダイレクト・パブリッシ­ング)で発売し、2013年の利益が約1,000万円に達したとことで一挙に注目を集めたマンガ家­・鈴木みそ氏。そして若手マンガ家の育成を支援する「トキワ荘プロジェクト」を率いる菊­池健氏。マンガとマンガ家の未来を本気で考える二人が、マンガ業界の動向を示すデータとともに、セルフパブリッシングの表と裏を­語ります。決して恵まれているとはいえない出版状況の中、読者とのミニマルな関係性の中でマンガ家はいかにサバイブしていくべきなのでしょうか? 本連載「VOYAGER SPEAKING SESSIONS」最終回です。

※2014年7月4日に第18回国際電子出版EXPOの株式会社ボイジャーブースで行われた菊池健氏・鈴木みそ氏の講演「KDPが私の道を拓いた!」を採録したものです。元の映像はこちら

【以下からの続きです】
1/7:「マンガ家一人ひとりの分配がどんどん下がっている中で、」
2/7:「ガラケーの時代からマンガアプリ全盛の今に至るまで。」
3/7:「『たくさんの人にいきなり見せる』というデビューのルートが新しくできた。」
4/7:「売れていく過程がすごくリアルで面白いから、ずっと日記に書いていて。」
5/7:「従来とはちょっと違うタイプの読者たちと一緒に作家は歩いていく。」

電子書籍販売の展望

――いろんな電子出版サービスがあって、セルフパブリッシングをやる作家の数がどんどん増えていく、そしてパイは限られてるとすると、一人ひとりの収入は少なくなってしまうんじゃないかと思うんですが、このような状況でどうやって皆さん食べていくのか、商売をされていくのかということを菊池さんにお聞きしたいです。

(左から)鈴木みそさん、菊池健さん

(左から)鈴木みそさん、菊池健さん

菊池:個々人のお話に関しては、ここに鈴木みそさんというお手本がいます。こういうイベントで電子書籍といえば、鈴木みそ、うめの小沢高弘、赤松健……定番化してますね(笑)。

鈴木:いつも同じ人たちがぐるぐる回してます。またおまえらかって言われますから(笑)。

菊池:最近、僕もその中に入れていただいて言うのもなんですけど。鈴木さんは、今後はどんな人たちが電子出版のプレーヤーになっていくと思いますか。

鈴木:超メジャーどころの人たちが入ってくるだろうと思っています。これまでは小さい作品を自分で電子化するのはハードルが高かったんですが、今では簡単にワンクリックでできるようになった。デジタル障壁が下がって、もう一歩で電子書籍の波が来るというところまで時代が来てるんですね。プロの人たちや、「電子出版めんどくさい」と言っていた人たちが、ドーンとそのうち電子書籍の市場に入ってくる可能性がものすごくありますよね。
 それとともに、今までは「当たったマンガをアニメ化する」という形式が主流でしたが、これからは「マンガが始まる前にアニメが先にスタートする」ということもあると思います。最終的にどこの雑誌で連載するかをマンガ家自身が選んで、いろんな編集部に持って行って売り込む。完全に“売り”と“買い”が逆になっている――そんな強い作家が現れだしているんですね。
 電子書籍の販売部数が6万部の場合で売上が1,000万円ですから、60万部売ったら売上は1億円に届くんですよ。メジャーな作家になってくると、トータルで100万部を平気で売りますから、電子書籍で2億3億売り上げる人たちが出てくる。こういう動きが出てくると電子書籍が一斉にメジャー化していく気がしますね。そうするといろんな人たちがもっと電子書籍を買い始めるし、この歯車が急に動き出すのが今年(2014年)の後半じゃないかと思ってます。

菊池:何が起きるんですか。

鈴木:マンガ雑誌のアプリ化で、新人マンガ家が出てきやすくなって、同時に大御所の連載も出てくれば、読者は簡単に安くいろんな作品を読めますよね。
 問題はタブレットが小さいことで、iPhoneでマンガをフルで読むのは僕は少し厳しいんですけど、そんな中でタブレットにマッチしたマンガが作られるのか、それとも今までのマンガをタブレットで読みやすく改良するのか、それともわれわれの目が慣れちゃうのか。わからないですけど、スマートフォンで読むのが何の苦痛でもなくなる、そうなるんじゃないかなと。それで読者が増えていけば一気に展開が変わって、急激に電子書籍の売上が上がるんじゃないかと、そう思ってます。

版権ビジネスの広がり

菊池:個人が出版することについての見立ては本当にその通りですね。
 その一方で、既存の出版社さんは、今までは「とにかくマンガを売ればいい」という態勢でしたが、講談社さんや集英社さんに見られるように、版権を通じてのビジネス――つまり、紙でマンガを売る以外のビジネス――に関して、人員的にも制作的にも、非常に力を入れられている側面があると思います。一説によると大手出版社さんでの版権ビジネスの利益の割合は近年かなり上がってきていると聞いたことがありますし、それもなんとなく体感でわかりますよね。

鈴木:大きな出版社は、電子出版に関しての権利はまだ押さえきれていません。契約書の中にある電子出版に関しての項目は、ここ2、3年で契約を結び直すときに、電子出版の権利を自分が持っているということに作家側がみんな気づいた場合、最終的に電子出版の権利はすべて作家に戻っていくでしょうから、そうなったときにどうするか。

菊池:そうですね。

鈴木:僕らはコンテンツクリエイターでありコンテンツホルダーなので、ある程度自分の作品をすでに持っている人たちは、出版不況とはいえ、なんとかなるんじゃないかと(笑)。

菊池:あとは新興勢力ですね、「マンガボックス」や「comico」とかの新しいマンガアプリを作っているIT系の企業とか。ああいうところはどうやってビジネスをしてるんだとよく聞かれるんですが、まず、そもそも今の時点では利益は上げてないんですね。作家にはちゃんと原稿料は支払われてますし、契約に関しては既存の出版社とそれほど変わらないものをされています。マンガボックスはアプリが400万ダウンロードされてたくさんの人に(無料で)読まれていますが、利益を回収するモデルは、紙で単行本化することです。でも、それは一部の作品で、それ以外は今のところ利益の回収はできていないんです。
 ただ、単行本を売り上げるのが最初から最後まで目的なのかというとそんなことはなくて、狙いは版権収入です。自社でマンガとしてできあがったキャラクターや原作を活用して、ソーシャルゲームを作って利益を回収していくとか、他にも、アニメ、グッズ、イベントなどの展開は当然考えられると思います。

鈴木:角川ドワンゴさんとかは得意そうですよね。ものすごく売れる作品は、マンガのキャラクターがゲームになり、アニメになり、爆発的に広がる可能性もあるということですよね。

菊池:あるマンガ家さんが初音ミクを開発した、みたいなイメージになりますかね。そうなるとすごいですよね。


※動画中の0:45:00から0:53:36ごろまでの内容がこの記事(「『電子出版めんどくさい』と言っていた大御所も市場に入れば、歯車が回りだす。」)にあたります。

7/7「どうでもいい作品が大量にセルフパブリッシングされる未来も、また自由である。に続きます(2015年2月6日更新)

構成:長池千秋 / 編集協力:猪俣聡子
(2014年7月4日、第16回国際電子出版EXPOのボイジャーブースにて行われた講演「KDPが私の道を拓いた!」より)


PROFILEプロフィール (50音順)

菊池健(きくち・たけし)

1973年東京都生まれ。日本大学理工部機械工学科卒。機械専門商社、外資コンサル(PwCC)、板前、ITベンチャー等を経て、2010年1月よりNEWVERY。クリエイティブ事業部トキワ荘プロジェクト、マンガHONZレビュワーなど担当。講演・イベント登壇/司会、大学講義など多数。

鈴木みそ(すずき・みそ)

1963年静岡県下田市出身。美術予備校時代から、編集プロダクションのライターとして雑誌作りに関わる。ゲーム雑誌などで、ゲーム攻略、記事、コラム、イラスト、をこなす。東京芸大油絵科除籍後、多忙すぎるプロダクションから独立。マンガを描く。


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