『ナナのリテラシー』など自らの作品をKDP(Kindle ダイレクト・パブリッシング)で発売し、2013年の利益が約1,000万円に達したとことで一挙に注目を集めたマンガ家・鈴木みそ氏。そして若手マンガ家の育成を支援する「トキワ荘プロジェクト」を率いる菊池健氏。マンガとマンガ家の未来を本気で考える二人が、マンガ業界の動向を示すデータとともに、セルフパブリッシングの表と裏を語ります。決して恵まれているとはいえない出版状況の中、読者とのミニマルな関係性の中でマンガ家はいかにサバイブしていくべきなのでしょうか? 本連載「VOYAGER SPEAKING SESSIONS」最終回です。
※2014年7月4日に第18回国際電子出版EXPOの株式会社ボイジャーブースで行われた菊池健氏・鈴木みそ氏の講演「KDPが私の道を拓いた!」を採録したものです。元の映像はこちら。
【以下からの続きです】
1/7:「マンガ家一人ひとりの分配がどんどん下がっている中で、」
2/7:「ガラケーの時代からマンガアプリ全盛の今に至るまで。」
国内マンガのセルフパブリッシング年表
菊池:今回のテーマが「KDP」なので、セルフパブリッシングに話を戻そうと思います。
2010年は電子書籍元年と言われ、いろんな動きがありました。セルフパブリッシングで一番早かったのが佐藤秀峰さんが始めた「漫画onWeb」というサイトだったんですね。マンガ家が自分で自分のマンガを販売できるサイトを作った。その2日後、DeNAとNTTdocomoの合弁会社「エブリスタ」が電子コミックの会社として立ち上がりました。そこが運営している「E★エブリスタ」はセルフパブリッシングの要素も強いんですが、商業的に強いものを作っていくサービスでもあります。その2ヶ月後に、GMOがセルフパブリッシングに特化したサービス「Paboo」を始めまして、そこで出版した電子書籍はKindleの端末でも読めるようにしたり、いろんな工夫をされてます。また同じ年に、赤松健さんが始めた「Jコミ」(※編集部注:2014年7月11日より「絶版マンガ図書館」に名称変更)。これはセルフパブリッシングとは少し違うかもしれないんですが、過去の版権が確保できている作品を無料で読めるサイトで、ここでは今もたくさんの本が読まれているということです。その後、ドワンゴさんが始めた「ニコニコ静画」。ここでは昔の雑誌をまるまる読むなんてサービスもしていましたね。
2012年10月にAmazonのKDPが日本でもサービスを始めました。その後、楽天の「kobo」、「Google Playブックス」、「iBooks」などの大手がサービスを始めて今に至っています。
400万ダウンロードを突破した(2014年5月)マンガボックスさんが、2014年3月後半に「マンガボックス インディーズ」というものを始めました。これはマンガボックスに載りたい人が作品を編集部に持ち込むのではなくて、サイトに作品をいきなりアップしちゃうんです。誰でも読めるサイトに誰でもアップできるんです。何がすごいって、ダウンロードが300万部、「インディーズ」にアップした人の作品が読まれている数が250万部と、ものすごい量なんですね。つまり、かつてはマンガ家志望者が新人デビューするとしたら、「みんな読んでください」と言って全然読まれないところに置くか、編集部に持ち込んでデビューさせてもらうかだったのが、今は「『マンガボックス』のたくさんのお客さんにいきなり自分の作品を見せる」というデビューのルートがひとつ新しくできたということですね。
「note」(2014年4月にサービス開始)は鈴木みそさんもされているSNSのようなところなんですけれども、自分の作品が発表できるというサービスです。長所は課金が簡単なところで、マンガ家さんが結構活用しています。過去の貴重なマンガとか、みそ先生の場合はすごい構想をそこでアップしたりしていますけれども。
そういう形で、電子書籍元年と呼ばれた2010年から、セルフパブリッシングもいろいろ形を変えて、大手もほとんど出揃って、特に今年(2014年)は新しい形のセルフパブリッシングのサービスが出てきて、それが一つのトレンドなのかなと思います。
※動画中の0:24:42から0:28:47ごろまでの内容がこの記事(「『たくさんの人にいきなり見せる』というデビューのルートが新しくできた。」)にあたります。
[4/7「売れていく過程がすごくリアルで面白いから、ずっと日記に書いていて。」に続きます](2015年2月4日更新/次ページから鈴木みそさんが登場します)
構成:長池千秋 / 編集協力:猪俣聡子
(2014年7月4日、第16回国際電子出版EXPOのボイジャーブースにて行われた講演「KDPが私の道を拓いた!」より)
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