言わずと知れた日本最大級の出版社・講談社。膨大な数に上る既刊本だけでなく、年間3,000タイトル以上も刊行されていく新刊本のプロモーションを一手に引き受ける「デジタルプロモーション部」では、どのように本と読者の出会いの場を作り出しているのでしょうか。
PC・モバイル両対応を遂げたBinBリーダーも巧みに活用しながら「講談社コミックプラス」や「講談社BOOK倶楽部」など直営のプロモーションサイトを盛り上げる高島恒雄部長に、“本が人に会いに行く”ためのさまざまな工夫を語っていただきました。
※2014年7月4日に第18回国際電子出版EXPOの株式会社ボイジャーブースで行われた高島恒雄氏の講演「BinBはすごいヤツ ――講談社が取り組む試し読み活用法」を採録したものです。元の映像はこちら。
【以下からの続きです】
「本が人に会いに行く ――講談社のすべての刊行物をプロモーションする仕事」」1/4
講談社という会社をプロモーションする ——元旦広告「進撃の謹賀新年」
高島:さらに、講談社のこと自体もぜひ広めたいということでやったのが今年の元旦広告で、「進撃の謹賀新年」というもの。元旦広告というのはもともと、よく出版社が新聞紙面に出しています。しかし、もうちょっといろいろな人たちに講談社の試みを届けたいと思いまして、新聞(という広告媒体)が悪いわけではないんだけれども、今年はFacebookに広告を出してみました。
「進撃の巨人」は世界の9つの国と地域で翻訳出版がされ、さらにサイマル放送(同時並行放送)でアニメも放映されています。「人類は団結して巨大な敵と戦うべきである」という広告のキャッチフレーズを9つの国と地域のそれぞれの言語に翻訳して出稿しました。
韓国、台湾、香港、タイ、インドネシア、イタリア、フランス、スペイン、アメリカといった国が対象ですね。その結果、配信先の国での総リーチ数が520万にも上りました。
講談社という出版社を「常に何か面白いことをやってるな」「面白いコンテンツを作っているな」というふうに見ていただきたいという想いが常にあるので、こういうことをすることによって、日本国内だけでなく世界中——「進撃の巨人」が届いている国の人たち——にもダイレクトにメッセージを届けることができたのだと思います。
全力でくだらないことをやってみる ——エイプリルフール戦線
高島:またさらに、2013年からはエイプリルフール戦線にも参戦しています。
2013年に試みたのが、「イカ」ならぬ「iKA(アイカ)」ですね。
“i(アイ)”が小文字になっているのがポイントなんですけれども(笑)。イカという生きものは、天然の液晶を体内に持っているじゃないですか(※編集部注:液晶の一種「コレステリック液晶」はイカの肝臓内にあるコレステロールを科学処理して作られている)。iKAはその技術を使った、生きた電子書籍端末として機能しますよ、という……。もちろんこれはエイプリルフールのためのネタなんですが、やりました。実際にも、凸版印刷で液晶を研究している人に「液晶とイカでこういうことできない?」という話を聴きに行ったんですが、「液晶には2種類あって、端末に使う液晶とイカから作る液晶はちょっと違うんだよね」と言われて残念な思いをしましたけれども(笑)。こうやって、すみずみに至るまでくだらないことを考えてやっていました。
ちなみに「面白法人カヤック」という人たちが実際にiKAを作ってみたときの動画がこれ。
面白法人カヤックによる検証動画「【エイプリルラボ】iKAをホントにしました」
「バカな人たちを上回るバカな人たちがいるんだなぁ」と、すごく楽しかった記憶があります(笑)。
そして今年のエイプリルフールでは何をやったのかというと、iKAに続く新しいバージョンの電子書籍端末を開発しました。それが「kebo(ケボー)」です。
つまり、腕の体毛がこのウェアラブルデバイスが流す静電気によって励起されて、マンガの画像になる、と……。もちろんこれは「楽天kobo」の丸もじりなんですが。
ちなみに、今年の4月1日は消費税率の切り替えがあって、楽天社内のkoboチームの方々は徹夜で(価格切り替えの)作業をしていたらしいんですね。そしたら4月1日の明け方、koboチームからうちに「朝からオフィスは『kebo』の話題で持ち切りです。御社のような会社に盛大にイジっていただくことで、楽天koboにとっても親しみやすいブランドイメージに繋がって、プラスの効果が働くのでは?と楽観的に考えています。」という徹夜明けの興奮した感じのメールをいただいて、やってよかったなぁと。
講談社はコンテンツを作る会社ですが、こういうようなことを通じて会社そのものに「何か面白いことをしてるね」というイメージを持ってもらったり、いろいろな出版社がある中で講談社にもう少し寄って「何をやっている会社なのか見てみよう」と読者の方に思ってもらいたいなと思って、あえて苦心しながらこういうことをやっている、ということです。
新しい才能の発掘 ――プロジェクトアマテラス
高島:自分たちの持っているメディアというのがいくつかあります。そのうちの一つが「プロジェクトアマテラス」という投稿型コミュニティサイトです。ここで何をしているのかというと、出版活動に寄与する才能の発掘です。
例えば今は「ミスiD」という、アイドルを発掘するプロジェクトをやっています。これは2年前に始まったんですが、最初の年にグランプリを獲った玉城ティナさんという女の子が現在では『ViVi』の専属モデルになって、最年少で表紙を飾るというような活躍をされています。あるいは、新しい作家を発掘しようということで「ワルプルギス賞らいと」[★]という文学賞を実施して受賞作品を発売したり、「ふくほん」というオールジャンルのブックレビューが投稿できるプロジェクトなどもあります。「ふくほん」には講談社の本だけじゃなく、他の出版社の本やすでに絶版した本のレビューも投稿できるんですが、そこには「面白い本はたくさんある」、「本を好きになってほしい」という想いも込めています。
「プロジェクトアマテラス」は直球ではなく変化球みたいなサイトですが、広く講談社というものを売り込むものであると思っています。
★ワルプルギス賞らいと:2012年、デジタル時代に則した公募新人文学賞を目指して、講談社が自社の投稿サイト「プロジェクト・アマテラス」内に設けた公募新人賞。主にライトノベル作品を募集している。
※動画中の0:10:57から0:16:54までの内容がこの記事(「本が人に会いに行く ――講談社の全刊行物をプロモーションする仕事」2/4)にあたります。
[3/4へ続きます]
編集協力:松村孝宏(numabooks)
(2014年7月4日、第16回国際電子出版EXPOのボイジャーブースにて行われた講演「BinBはすごいヤツ——講談社が取り組む試し読み活用法」より)
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