INTERVIEW

DOTPLACE TOPICS

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001:「アンドロイドはグリル羊の夢を見るか?」を食す ――早川書房がみずから手掛けるバーの強みとは?(後編)

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「俺は、お前ら人間には信じられない酒場を見てきた―――」。
思わず、映画『ブレードランナー』的なセリフを口にしたくなる、SF作家フィリップ・K・ディックをテーマにしたバーがある。
早川書房1階にある喫茶店『カフェ クリスティ』が、夜の時間帯になると一転、ネオンサインが光る『PKD酒場』となるのだ。
『カフェ クリスティ』では、これまでにもレイモンド・チャンドラーの「長いお別れ」をテーマにした『Bar ロング・グッドバイ』、言わずと知れた名探偵、シャーロック・ホームズがテーマの『パブ シャーロック・ホームズ』といったコラボ企画を実施している。
一連の企画・運営を担当している早川書房の千田さんとカフェ・クリスティの橋野さんに、企画のきっかけやメニュー開発、今後の野望まで、お話を伺いました。

★前編はこちら

――2回目の企画『パブ シャーロック・ホームズ』は、行列ができるほどの大盛況でしたが、来客数はどのくらいだったのですか?

パブ・シャーロックホームズの際の店内。コスプレ衣装の貸し出しも

パブ・シャーロックホームズの際の店内。コスプレ衣装の貸し出しも

橋野:一晩で100名ほど来られる日もありました。約1ヶ月の期間中、トータルで2000名くらいでしょうか。見ての通り大きい店ではありませんから、小一時間お待ちいただく場合もありました。

千田:地下にレストランも運営しているので、そこを待合室のように使っていただきました。我々も「もう少しですから」とご挨拶に行ったりも。長時間並んでいただいた方には、ありがたい気持ちがある反面、申し訳なくもありました。

橋野:ホームズは知名度が高く昔からの読者もいるので、お客さまは多いだろうな……とは思っていましたが、ここまでとは予想していませんでしたねぇ。

千田:圧倒的に女性が多かったです。若い女性2人連れもいれば、母娘でいらっしゃった方も。お母さんはコナン・ドイルの読者で、娘さんはBBCのドラマ『SHERLOCK(シャーロック)』のファンだったり。1人でご来店される方も多かったです。

橋野:『SHERLOCK』のファンの方は多かったですが、皆さん原作も読んでいらっしゃる印象でした。きっかけはドラマでも、そこからコナン・ドイルを読んでホームズの世界にのめり込んでいった、というような

千田:ホームズトリビアテストを行ったのですが、正解率がすごく高かったのですよ。テストは期間中に3回バージョンアップして、かなり難しくなったのですが、それでも全問正解者は出ましたからね。

橋野:『パブ シャーロック・ホームズ』の場合は、グッズが飛ぶように売れたことも印象的です。神戸にある異人館の英国館からキーホルダーなどのホームズグッズを取り寄せて委託販売していたのですが、完売に完売を重ね、何度も発注をしました。
 オリジナルでは、ホームズの名台詞を印刷したコースターを15種類作りました。せっかくだからとそれを15種セットにして販売したところ、これも大好評で、出すと完売。お店に出すコースターがなくなるんじゃないかと思うくらいに(笑)。

千田:混雑していたので、お一人のお客さまにはご相席をお願いすることありました。テーブル席4名が全員初対面なんていう場合も。

橋野:それが、紹介しあったり皆でクイズを解いたりしているうちにいつの間にか仲良くなり、お店の中はサークルのような雰囲気になりました

千田:ファン同士のコミュニティの場となったようです。

橋野:一方、今のディックの場合は圧倒的にコアな男性ファンの方のご来店が多い。故に、皆さん静かに楽しんでいらっしゃいます。

千田:作品によって、雰囲気が全く異なる場所になりますね

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――次の企画はもう決まっているのですか?

橋野:はい。来年の1月8日から2月末まで、アガサ・クリスティの有名シリーズで、ホームズと並ぶ名探偵であるエルキュール・ポアロをテーマにしたバーをやります

千田:これは、比較的メニューが決めやすいのです。
 ポアロは甘いものが好きなので、ホットチョコレートなどのカフェメニューを充実させようと思っています。お酒もベルギービールなどいろいろ考えられますし。

橋野:メニューについては、今までよりもかなりパワーアップしたものになると思います。期待していてください!

千田:店内の飾り付けやイベントも、工夫を凝らそうと思っています。いま、頭を悩ませているところなのですが(笑)。

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――読書離れ、活字離れと言われて久しいですが、こういうリアルな場を設けることで、読者層の広がりなどの手応えはありましたか?

橋野:そうですね。「作品世界を味わう」ということが、昔は活字でしかできなかった。しかし今や表現方法がどんどん多様化してきています。電子書籍などもその一環だと思うのですが、読者の方に楽しんでいただくことは工夫しだいだな、という実感はありますね。

千田:紙の本を読んで、一人で楽しむのももちろんいいですが、同じ作家や同じ本を好きな仲間たちと出会ったり、その作品世界の料理を食べたりといった楽しみ方をすることで、さらにまた別の作品に興味が湧いたりすることもあるのではないでしょうか
 そうやって広がっていったらいいと思っています。

橋野:ポアロの後もまた次々と企画しています。早川書房はミステリ以外にもさまざまなジャンルの本を出版しています。ファンタジーもありますし。

千田:シャーロック・ホームズがとても人気があったので、来年の夏ごろにまたやりたいと考えています。前回は来ることができなかった方にも、ぜひ来店していただきたいですね。
 また、ファンタジーはですね、某有名作家を考えていて………。いろいろアイデアがあるのですよ。これからもどんどん続けていくので、楽しみにお待ちください!

今回お話を伺った橋野さん(左)、千田さん(右)。どうもありがとうございました!

今回お話を伺った橋野さん(左)、千田さん(右)。どうもありがとうございました!

PKD酒場
期間:12月26日(金)まで
営業時間:
平日 午後5時~午後10時(ラストオーダー午後9時)
土曜 午前11時~午後4時(ラストオーダー午後3時)
休業日:日曜
東京都千代田区神田多町2-2 第三ハヤカワビル1F
 
★2015年1月8日開店!
カフェ・ポアロ

期間:2015年1月8日(木)~2月27日(金)
特別企画:
・あなたもポアロに変身!(付けひげ、山高帽あり)
・クイズ 灰色の脳細胞に挑戦!
・乗車券型ポイントカード配布
詳しくはこちら

[DOTPLACE TOPICS 001 了]

インタビュー&テキスト:石田童子
(2014年12月8日、カフェ・クリスティ「PKD酒場」にて)

★本コーナー「DOTPLACE TOPICS」では、DOTPLACE編集部が注目する執筆・編集・出版とそのまわりの旬な話題を取り上げていきます。プレスリリースなども随時受け付け中です


PROFILEプロフィール (50音順)

千田宏之(株式会社早川書房)(ちだ・ひろゆき)

ハヤカワ文庫編集部、ミステリマガジン編集長などを経て、現在は秘書室 室長。 コラボバーの企画では、メニュー名の立案、イベント企画などを担当。

橋野紳一(株式会社ハヤカワ)(はしの・しんいち)

早川書房の宣伝部などを経て、現在は(株)ハヤカワが運営する『カフェ クリスティ』及びレストラン『ラ・リヴィエール』にて勤務。コラボバーでは、メニュー開発やタイアップ企画立案などを担当。


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