INTERVIEW

『工芸青花』創刊インタビュー

『工芸青花』創刊インタビュー
菅野康晴(新潮社『工芸青花』編集長)5/8「両者の違いを知ってしまったので、後戻りはできませんでした。」

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2014年11月20日、新潮社より『工芸青花(せいか)』という新しい雑誌が創刊されました。公式サイトを見てみると、「会費20,000円」「1,000部限定」「定価8,000円」という、新潮社が出版してきた雑誌では見たことのない単語が目に飛び込んできます。高額な値段設定や会員制など画期的なコンセプトにもかかわらず、会員数は順調に伸びていると言います。
そんな『工芸青花』の編集長を務めるのが、『芸術新潮』や「とんぼの本シリーズ」で美術や工芸、骨董を中心とした企画を手がけてきた菅野康晴さんです。
多くの出版社が読者の心をつかむ本作りに苦心する中、いま新雑誌を創刊する理由、そして『工芸青花』へのこだわり、出版や編集にかける思いをお聞きしてきました。

【以下からの続きです】
1/8「これだけ本が余っている時代に、今までは屋上屋を架すようなことをしていた。」
2/8「この身軽かつ心細い“個人商店”の感覚。」
3/8「これまで続けてきたことを、一冊の本に同居させる。」
4/8「物の魅力を稀釈せず、そのまま伝える本でありたい。」

ナンバリング用の印の数字選びから

―――創刊号で、内容以外にもこだわったところがあるとお聞きしました。

菅野:こだわりというか、たとえば『工芸青花』(以下『青花』)は限定1,000部なので、奥付頁にシリアルナンバーを入れています。印刷所から本が届いたら、ここで1冊ずつ、1から1,000まで番号を捺してゆく。その数字の書体をどうしようかと考えていて、古い物をとりあげる本だから古い数字がよいかなと思って、ヨーロッパに入った頃のアラビア数字を中世の本から探したり、知人がパリの蚤の市で見つけた19世紀の日記帖から採りだしたりもしてみたのですが、ちょっと読みにくかった。それでまた考えなおして、染色家の望月通陽さんにお願いすることにしました。伊賀のギャラリーやまほんの個展会場でお会いして、もうすぐ刊行日だったのですが、ありがたいことに、3日後にはいくつもの数字が届きました。0から9までと、「S」です。いくつも書いてくださった中からひとつのシリーズを選んで、それを印にして、濃紺の朱肉で捺しています。

『工芸青花』奥付

『工芸青花』奥付

 工芸という言葉は人によって感じかたが違うと思うので、使うのがむつかしいのですが、望月さんのお仕事は、現代の作家が工芸性を追求したときのひとつの答えだと思うし、今回の数字もそう感じました。「S」は、1,000冊のほかに取材先や執筆者など関係者にお渡しする本も少しだけ作っていて、それに捺しています。SEIKAのSですが、望月さんの書くSは特徴的で、なんとなくロマネスク美術の装飾文のようでもあります。

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―――1冊1冊ご自分の手で印を押すんですか。

菅野:そうです。今回はふたりで手分けしました。私はずっと、できたなあと思いながら捺していました。よい時間でした
 他には、見返しを和紙にしたりもしました。表紙を布張りにしたのは手にしたときに布の質感を感じたかったからですが、続く見返しでは紙そのものの質感を感じたかった。それには洋紙よりも和紙がいい、でも表情がありすぎるのも困る、あくまでも脇役で──といったことを考えながら、和紙の見本帖からいくつか選んで束見本を作りました。
 それを、長田くんの知りあいで、紙の問屋につとめているNさんに見せたら、「これは和紙ではありませんよ」といわれてしまいました。たとえ和紙の見本帖にあって「和紙」という商品名がついていたとしても、原料がパルプでは本物の和紙じゃない、「和紙風の洋紙」なのだそうです。そんなことも知らなかったなんて恥ずかしいですが、それからNさんと相談して──Nさんの仕事にはならないことでしたが──楮を漉いたいまの紙にしました。価格はかなり上がりますが、たしかに、手ざわりはまるで違います。

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 それで見返しを変更したら、今度は製本会社から、「この紙はちょっと……」と連絡がありました。強度的には和紙は多少薄くても問題ないらしいのですが、糊がしみやすくて、閉じて重ねると貼りついてしまうというのです。新たに作った束見本のうちの半分は、その言葉通りの状態でした。「和紙風洋紙」ならそうした問題はおきない。でももう両者の違いを知ってしまったので、後戻りはできませんでした。いろいろ話して、見返しに和紙を貼ったあと、糊のしみこまないツルッとした紙を1枚、間に挟んでもらえることになりました。ひと手間余計にかかるので、製本屋さんには感謝しています。
 ここにはその紙を挟んだ状態で入ってきて、シリアルナンバーを打つときに、間紙を抜いてゆきます。その紙は次号でも再利用するので、まとめておいて返送します。
 たまたまNさんがここに遊びにきてくれて、本当によかったと思います。この見返しをさわっているだけで心地よい。気持ちが静まります。

6/8「ほのかに『手』を感じる。その『ほのかさ』が好ましい。」へ続きます
(2014年12月25日更新予定)

インタビュー&テキスト:榊原すずみ
(2014年11月5日、新潮社にて)


PROFILEプロフィール (50音順)

菅野康晴(すがの・やすはる)

編集者。1968年栃木県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、1993年新潮社入社。『芸術新潮』および「とんぼの本」シリーズの編集部に在籍し、美術・工芸・骨董を主に多くの企画を手がける。担当した本に、川瀬敏郎『今様花伝書』『一日一花』、坂田和實『ひとりよがりのものさし』、中村好文『住宅読本』『意中の建築』、金沢百枝・小澤実『イタリア古寺巡礼』、赤木明登・智子『うちの食器棚』、木村宗慎『利休入門』『一日一菓』、三谷龍二+新潮社編『「生活工芸」の時代』など。


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