第3回 PLOTTER(後編):できることならラクしたい
※前編、中編からの続きです
ラクをするのもラクじゃない、というのがこの話のオチなのかもしれない。
連載3回目、『PLOTTER』の最後は編集部のワークフローについて紹介していく。まず、2回目のPLOTTER(中編)でも触れたように、我々ふたりの編集方針は「頑張って雑誌を作ること」ではなく「イベントに合わせて安定した質で新刊を出す」こと。それも通常業務の片手間で。
もちろんクオリティアップはするに越したことはないし、自分たちが面白いと思えないようなものを作るつもりもないのだが、趣味の同人活動である以上、仕事を圧迫しては元も子もない。楽しくなけりゃ意味がないし、できることならラクしたい。そのため、制作がつらくなる要素をできるだけ減らし、フローを改善してとにかく手間が省けるようにしている。そのための取り組み方を少しまとめてみたい。
まず、ワークフローのカナメと言える部分として、編集部のふたりがどちらもある程度のレベルまで、媒体制作の全工程をカバーできるのが前提になっている。主に私(野口)が企画とライティング、交渉を担当し、carmineがデザインやデータのFIX作業と分かれてはいるが、どこからどこまでという明確な決まりはない。分担基準は「そのときラクにできる方がやる」。いざとなればお互いにバックアップすることができるため、そのうえで各々が得意な方、ストレスにならない作業を担当するかたちで分業している。撮影やレタッチもどちらかが行うことが多い。
半年の制作期間があるとはいえ、スタート時期はとても早い。本誌の制作は、その号のテーマとコンセプトのテキストを起こすところからだ。コンセプトテキストは、その号の原稿担当者、そして読者へ視線を向ける先をぼんやりと示すためのもので、誌面に収録する序文にあたる内容。それができてから台割を切って各所に依頼をするのだが、編集部が厳密に内容を規定することは少ない。「何を載せたいか」よりも、このテーマを「誰に取り組んで欲しいか」から企画を立てていくため、それぞれがどんな答えを出してくれるのが楽しみでもあるのだ。ときにはゲストの原稿からまったく予測外の方向へ(いい意味で)編集のハードルが上げられてしまうことも。
制作全般にわたって、編集部であまり綿密な打合せはしない。台割や共有ドキュメントから状況を予測しつつ、ほぼ各自の判断で動いてたまに進捗報告をする程度。時々失敗はするものの、ベースの理念と終着点=データが共有できていれば案外ズレてはいかない。このあたりは最小限のユニットの利点ではある。それが一番顕著に現れるのは、大詰めのデザインと校正のフェーズだ。ここまで余裕をもってスケジューリングしているはず……なのだが、どっちも仕事やらなんやらでバタバタしているうちにデザインと校正を1週間程度の集中作業でこなすことになったりする。それをどうにか可能にしている大きなポイントは、制作環境の統一とファイルの共有だ。
制作環境の統一は、vol.2の制作時期から編集部で同時にAdobe Creative Cloudに切り替えたことで、常に同じバージョンのアプリケーションが使える状態になっている。素材やプレビュー用のデータはほとんど、オンラインストレージサービスのDropboxで共有する。具体的にはGoogleドライブで台割を共有し、台割に対応させた企画別の共有フォルダをDropbox上に作る。それぞれの企画フォルダに、野口がテキスト原稿とラフ(InDesignファイル)、画像素材、補足資料などを入れていき、carmineがページレイアウトにしてプレビュー用PDFを作成。それを校正用のフォルダで確認して、赤字を入れたファイルを戻し、修正されたPDFを確認し……というのを繰り返す。こうしたやり取りを、ほぼ台割のステータス入力と、共有ファイルの状況を見ながら進めていく。データのやり取りについては、もう少し丁寧な解説がvol.3に収録されているので、ご興味があればご覧いただきたい。
媒体制作をされたことのない方には想像がつきにくいとは思うが、一番面倒な進行管理をツールと自律性に委ねてしまって、実制作に集中するフローという感じだろうか。実制作自体はストイックだが、原稿の執筆者や勉強会に参加してくださる方、読者の方々なども、我々にとっては制作者のひとりなのだ。同人イベントで手に取ってくれる方々の顔を見られるからこそ、どうにかして新刊を出していける。大人数でのんびり山を登りながら、頂上で食べるおにぎりをせっせと握っているような感覚である。
最後に大事なことがもうひとつ、「いきなり100%を求めない」こと。むしろ、できなかったことを丁寧に回収して、反省と改良とスキルアップを次号のネタとして積極的に取り込もうとするのが我々のあざとくもお茶目なところである(自分で言うなよな)。ブラッシュアップの工程そのものを一緒に追いかけてもらえるのも、同人雑誌の面白さ……ということにしておいていただきたい。
さて、ここまでお話ししてきた『PLOTTER』の話も今回まで。読者の顔がほとんど見えるところで作ること、ラクするための地道な準備、なにより「こういう同人誌もあるんだよ」というのがお伝えできればなによりである。次回からは2回にわたって、Farmer’s Marketの季刊情報誌として刊行されている『NORAH – Farmer’s Market Chronicle』のお話をご紹介していく予定。どうぞお楽しみに。
http://norahnorah.jp/
[第3回:PLOTTER(後編) 了]
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