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野口尚子 小さな雑誌の編集者(あるいは在庫タワーの管理人)たち

野口尚子 小さな雑誌の編集者(あるいは在庫タワーの管理人)たち
第2回 PLOTTER(中編):私たちの熱いドウジン活動

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第2回 PLOTTER(中編):私たちの熱いドウジン活動

前編からの続きです
 
定期刊行というのは半年周期の薄い本でもなかなかにしんどい。

作業が大変というよりも、どのようにダレずに続けるかというのが大変なのだ。とくに最初のモチベーションが大きく、しょっぱな頑張りすぎるほど、あとが続かない。そういう意味では、同人というフィールドはなかなかに定期媒体向きだと思う。

前回から引き続いて我々の制作している『PLOTTER』を題材とした2回目(お気づきでしょう、もう1回増えました)。前編では個人がメディアを作るうえで、普段は触れられないような製造設備を動かすことができるという話に触れた。今回は「同人活動」として媒体を出すということを少し考えてみたい。

『PLOTTER』は一応の編集長兼メインライターである私と、もうひとり副編集長兼アートディレクターのcarmineのふたりで制作している。もともと私は「PRINTGEEK」という創作ハウツー系のサークル、carmineは「clocknote.」というアニメ・ゲームの二次創作サークルとして、それぞれ別の個人サークルをもち、ジャンルの違う同人イベントに出ている(PRINTGEEKはPLOTTER専業に近くなってしまったけれど)。どちらも共通して出展するのは夏冬のコミックマーケットくらいだが、そこでも別のジャンル、別の日にスペースを出していることが多い。

そもそも、我々の目的はまず「同人活動」であり、つまり「新刊を携えてイベントに参加すること」なのだ。そしてそのイベントはシーズンごとに定期的にやってくる。〆切やイベントがやってくるとわかっている(そして毎度のようにギリギリに企画して絶対焦る)のだから、そこに合わせて出せるものを時間をかけて作ろう、というのが『PLOTTER』が定期刊行物の体裁をとっている理由であり最大のモチベーションになっている。

なぜそうまでしてイベントに定期参加するのか、新刊にこだわるのかと疑問をお持ちの方もおられると思う。それは同人の本質はいまもって同好の士、とくに制作者のコミュニケーションが根にあるところが大きい。それこそ普段はwebでやり取りしつつ、この年2回の会場でしか顔を合わせない人もいるのだが、だからこそ個人的にはお中元やお歳暮のような気持ちで「うちの新刊です」と差し出せることが大事なのだ。

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PLOTTER編集部がもうひとつ、同人活動として行っているものに「PRINTGEEK MTG.」というシリーズの勉強会がある。これも同人雑誌の立ち上げと平行して始めた活動で、『PLOTTER』は雑誌媒体とイベントがセットになっている。MTG.は、たとえば編集やデザインなど、同人作品を作るうえで使えそうなノウハウについて、それぞれプロを呼んできて実践的な話をしてもらう勉強会を「同人作家向けに」行うと標榜している。

同人作家というのは、必ずしもデザイナーやイラストレーターなど制作仕事に携わる人ではない。みんな本職ではなく趣味で制作をしているゆえに、いわゆるデザイナーを対象としたイベントにはどうも参加しづらい向きもあるようだ。しかし、これは私やcarmineのスタンスでもあるのだが、技術は作りたいと思う気持ちにフラットなものであってほしいと思っている。ビッグサイトを埋め尽くすサークル参加者など、ほぼ全員が「印刷を発注する人」だと思えば恐ろしいエネルギーではないだろうか。だからこそ少しでもきちんとしたノウハウが広がればいいと思っているし、興味はあるが遠方で来れない人たちには誌面で共有したい。ゆえに、『PLOTTER』がその受け皿としても機能している。

そうした情報にしろ勉強会にしろ、実は我々自身が同人作家として求めているものでもある。それぞれ本職は編集者やデザイナーではあるが、同人作品としてパッケージングしていくなかで「もっとスムーズに、もっと良くしたい」と思う部分が出てくる。その気持ちを起点に、どうせならみんなで共有しようと公開していくのが、誌面でありイベントなのだ。

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完成したばかりのvol.3誌面では、新しい手法としてデジタル印刷をフィーチャーしている。オンデマンド印刷であったり、デジタル印刷であったり、まだ呼称すら定まっていない感じもあるが、いわゆる物理的な「版」を使用しないプリンターに近い印刷方法だ(それでもそこそこ大きな機械ではあるが)。印刷物も小ロット多品種の需要が増えつつあるなか、メーカーがそれぞれの独自技術を搭載し開発を進めている。そのなかでも品質で注目されるものとしていくつかの機種を取り上げた。これも、小部数でイラストをきれいに刷りたいときに使える方法を検討するためだ。

とくに表紙に使用している「HP indigo 7600」は、物理的な版を持たないにも関わらず、オフセット印刷と似たような構造を持つ、液体トナー式のデジタルオフセットという手法を用いている。オプションによってはCMYKの4色以上の色を使うことができ、判型や使える紙の種類は限られるものの、再現性もオフセットに迫る(場合に寄っては凌ぐ)品質が得られる。

*PLOTTER vol.3 概要+入手方法
http://printgeeeek.tumblr.com/post/69953891068/printgeek-clocknote-plotter
ご興味お持ちの方はぜひ本誌をチェックしてもらえると嬉しい(宣伝)。

そして『PLOTTER』については最後の次回。実際に我々の制作のワークフローや、企画の広げ方について触れてみようと思う。編集からメインの執筆、デザイン、イベント運営まで編集部ふたりだけの小さなメディア。しかもどちらも本業の合間に作業するかたちで、どのように分担・運用しているかをチラッと紹介したい。

[第2回:PLOTTER(中編) 了]
後編に続きます)


PROFILEプロフィール (50音順)

野口尚子(のぐち・なおこ)

編集、物書き、プリンティングディレクター。1984年生。武蔵野美術大学基礎デザイン学科卒業。出版デザイン・DTPを扱う制作会社を経たのち、印刷・広告のディレクションに携わり、現在は主に編集や執筆業に従事。2014年春より雑誌編集者になるとかならないとか。著書に『Play Printing—しくみを知って使いこなす、オフセット印刷、紙、インキ』(BNN新社)。PRINTGEEK名義で夏・冬刊行の同人雑誌『PLOTTER』の編集も行っている。