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今村友紀 〈出版×デジタル〉の未来予想図 〜作家・今村友紀による『ツール・オブ・チェンジ』精読〜

今村友紀 〈出版×デジタル〉の未来予想図 〜作家・今村友紀による『ツール・オブ・チェンジ』精読〜
#01:はじめに

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#01:はじめに

 
 2013年11月、ボイジャーから注目すべき一冊が電子書籍として発売された。タイトルは『ツール・オブ・チェンジ 本の未来をつくる12の戦略』。コンピューター関連書籍の出版を専門とするアメリカ合衆国のオライリー・メディア社が編集したこの本は、デジタル情報革命が「本の未来」に与える影響について、様々な識者の記事を紹介し、まとめたものだ。
 米国よりやや遅れ、日本でもAmazon Kindleや楽天koboなどの電子書籍事業が立ち上がり、また多くの新しいネットメディアが勃興し、出版業界は未だかつてない激動の時代を迎えている。出版の未来、本の未来を考える上で、米国における先行事例や識者の議論を知ることは重大な意味をもつ。出版に関わる人にとって、読まずに済ますことはできない必読の書と言えるだろう。
 ただ、本書は書き下ろしではなく、立場や意見の異なる識者によって書かれた記事を再編集したものなので、必然的に、やや雑多な話題を詰め込んだ印象を受けるのも事実だ。そこでこの書評連載では、本書の内容を要約・整理しつつ、理解の補助線となるような包括的な視点を提供できればと考えている。既に本書を読んだ方、あるいはこれから読みたいと考えている方に、少しでも役立つことができれば幸いだ。

 連載の最初に、筆者の簡単な自己紹介もしておこう。
 筆者は、著者として本を書きはじめてから、既に8年以上のキャリアがある。2005年、大学1年生のときに受験勉強法の本を書いてデビューした筆者は、以降、十数冊の実用書・ビジネス書を、単著・共著問わず出版してきた。その後、2011年に文藝賞を受賞してからは、小説家としても活動している。2013年には新たに会社を立ち上げ、小説やエッセイの投稿サイト「CRUNCH MAGAZINE」を運営。著者の発掘やプロデュースにあたっている。
 小さい頃から文章を書くことが好きで、実際に20歳になるかならないかの頃からずっと出版業界で仕事をしてきた筆者にとって、本の未来は、自分自身の未来でもある。本連載では、そんな切実な立場から、皆さんと一緒に未来について考えていきたい。

 さて、本書の内容紹介に移ろう。
 サブタイトルに「12の戦略」とあるように、本書は12章構成になっている。

【本書の構成】
第1章 イノベーション
第2章 収益モデル
第3章 リッチコンテンツ
第4章 データ
第5章 DRMと囲い込み
第6章 オープン
第7章 マーケティング
第8章 ダイレクトセールス
第9章 法律
第10章 フォーマット
第11章 価格
第12章 プロダクション

 だが、実際に本を読んでみると、異なる章でも共通した話題を扱っていることが多く、また同じ章にもいくつか視点の異なる話題が盛り込まれていたりもする。これらを筆者なりに再整理してみると、大きく次の5つの話題にまとめられる。(A)読書体験(B)プライシングとマネタイズ(C)コミュニティ(D)データ(E)エコシステム、である。

(A)読書体験 ――「読む」ことの体験をどうデザインするか?
 デジタルの世界では、コンテンツの見せ方の自由度が広がった。動画や画像、インタラクティビティを追加したリッチコンテンツを創ることもできるし、多くの読者が本の感想や読み方をシェアする「ソーシャルリーディング」のような新しいサービスも次々と開発されている。
 本やPDF、ePubのような「パッケージメディア」の行く末についての議論も盛んだ。ある識者は、Web、つまりHTML5こそが本の未来であると主張し、一方ではパッケージメディアには保存性などの価値があり、これからも重要であり続けると指摘する識者もいる。
 そうした事例や議論のすべては、つまるところ、「読む」ことの体験をどうデザインするのか、何が読書体験として価値があるのかを見極めることがテーマとなっている。

(B)プライシングとマネタイズ ――収益化や価格戦略はどうなるか?
 本というメディア自体が変われば、その収益モデルも変わるはずだ。
 電子書籍は本と違い、ほとんどの場合、友達に貸したり、古本屋に売ったり、図書館で借りたりすることができない。またKindleで買った本がkoboで読めない、といったプラットフォームによる囲い込みの問題もある。そうしたことを考えると、現状の価格設定が妥当かどうかは疑わしい(もっと大胆に安くするか、貸し借りを認めるべき)との議論がある。
 また、デジタル情報革命によって、人々が触れるコンテンツの量が激増し、多くの忙しい現代人にとって「読む時間」は非常に貴重になっている。一つのコンテンツについて、ロングバージョンと要約バージョンを販売し、後者に高い値段をつけられるかも知れない。あるいは、1ドルの電子書籍を100冊売っても、「時間が無くて」5人しか読んでくれないのなら、はじめから価格を20ドルにして確実に読んでくれる5人に売る方がいい、との考えもある。サブスクリプション制や無料サンプルの扱いなども注目のポイントだ。

(C)コミュニティ ――読者とどのような関係を構築すべきか?
 マネタイズにも関係するが、実際に本を売って収益を上げる際に重要となってくるのは、ブランド力のある著者や作品のシリーズである。そしてブランド力とは、作家や作品、あるいは出版社と読者との関係の集積、つまりコミュニティによって規定される。
 Web上では、既に優れた読書コミュニティがいくつも立ち上がっている。こうしたコミュニティは、読者がかんたんに利用でき、自分自身のアイデンティティを表明する場ともなっている。Webコミュニティにおける活発な交流のなかから、読者と著者、読者と作品とのあいだに深い絆が構築され、これが長期的な意味での収益にもつながる可能性がある。
 出版社や著者はコミュニティの力を活かしてブランドマネジメントを行う努力が求められる、と指摘されている。

(D)データ ――コンテンツ制作やマーケティングをITはどう変えるか?
 コンテンツづくりにせよ、マーケティングにせよ、様々なデータを活用することがますます不可欠になってきている。既にデータから文章を自動生成するサービスが登場しているし、機械学習によって読者の好みを知り、おすすめの本を推薦し、売上を増やすこともできる。あるいは、販売データを分析することで、価格変更や、有名人による推薦文などが、実際の売れ行きにどの程度影響するかを知ることも可能だ。
 とりわけ収益に関わる販売データについては、これを収集し、経営に活用することは出版社にとって非常に有益である。そのためにこそ、出版社は率先して読者へのダイレクトセールス(直販)を行い、詳細な販売動向データを集めるべきだ、との提言もなされている。

(E)エコシステム ――出版をめぐる市場構造や制度の枠組みはどうなるか?
 電子書籍プラットフォームによる囲い込み、DRM、あるいは法整備など、出版にまつわる社会制度や市場の枠組みそのものを視野に入れた論考もある。急変するメディア環境に適応するために、いかに企業組織を創っていくか、といった経営論的観点で書かれた記事もあり、出版社で働く人には非常に参考になるだろう。

 今回の書評連載では、以上の5つの視点に沿って、本書の内容を紹介していきたい。
 次回は、「(A)読書体験」について。

[#01:はじめに 了]
(短期集中連載として、これから週刊でお送りしていきます!)


PROFILEプロフィール (50音順)

今村友紀(いまむら・ともき)

作家。1986年秋田県生まれ。CRUNCHERS株式会社CEO、CRUNCH MAGAZINE編集長。主な小説作品に『クリスタル・ヴァリーに降りそそぐ灰』『ジャックを殺せ、』など。 http://crunchers.jp/ https://i.crunchers.jp/