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山内康裕 マンガは拡張する

山内康裕 マンガは拡張する
第6回「マンガのある『場』、今はどこに?(中編)」

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第6回「マンガのある『場』、今はどこに?(中編)」

前回からの続きです

どんなにいいマンガ作品も、読者と出会わなければその価値はなかなかわかってもらえない。娯楽分野の競合相手が多いいま、マンガ家や出版社など作り手側からも読者との出会いの場を拡張させなければならない。出版社には自社作品を網羅する場=カフェを、書店やレンタルコミック店には、その場でマンガを読める場をぜひ持ってほしい。

マンガコンテンツを束ねる出版社には、ぜひそれぞれの雑誌ごとまたは出版社ごとの「場」――例えばカフェのようなもの――を持ってほしい。読者はその場所に行けば、最新作から昔の作品までその出版社の作品ならどの時代のどの分野のものでも読めるような場所だ。すでにある「JUMP SHOP」などとは違い、キャラクターグッズ販売ではなく、あくまでマンガおよび解説書を「読む空間」に限定するほうがいいだろう。

このような場所は雑誌のコアなファンが対象なので、便利な場所にある必要はない。むしろ出版社にとって意味のある場所(例えば自社の近く、創業地など)にすれば、聖地になりうる可能性も出てくる。大手出版社なら独自で、中堅の出版社は複数社が相乗りして。夏休みだけなど期間限定の出展もあり。スクエア・エニックスなどマンガ出版以外を手がける会社ならマンガ出版以外の分野と連携してもおもしろそうだ。読者が出版社・編集者に期待するのはもはや誌面の編集だけではない。作品を二次利用できる立場である出版社が、「場」を編集してくれることへの期待も高まっている

出版社にとっては、自社の作品の立体的かつ実験的なプロモーションができる場所になる。
例えば雑誌レーベルや作品の枠を超えたフェア。現状では出版社は個々の書店に働きかけることしかできないが、このような自社カフェを持てば、そこで自由に展開できる。このフェアで読者が作品に関心を持てば、それぞれ各地の書店などにいってもらえばいい。これは出版社が書店に提案するフェアと並行してできるだろう。
そして、新たなマーケティング手段としても機能する可能性がある。自社カフェではどんな世代がどのような作品を読んでいるのかなど、一種の読者調査もできる。また、自社カフェに来た読者が、実際に作品に参画できるような企画を行うことで、「マンガづくりに関わっている」という実感を強め、読者のロイヤルティもあげることもできるだろう。もちろん原画の展示会やサイン会、ファンイベントをやっても楽しい。

このような場を持つのは、出版社に限定されない。例えば「TSUTAYA」などを手がけるカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)などが展開するレンタルコミック店。店内または店の近くに、借りた本を読める場所があるといい。今は店舗から持ち帰る場合、レンタル料は1冊100円前後だが、これを店内や店周辺のスペースで読む場合はもう少し安くする。そのかわりそのスペースでは飲食物の販売をして収入の減った分をカバーすればいい。固定客ができれば、それはマンガファンのコミュニティのひとつになる。

マンガの貸し出しには貸与権(ビデオや本などが貸与される際に一定金額がコンテンツホルダー側に支払われる)が絡んでくるが、実は貸与権が適用されるかの分かれ目は、貸し出す店舗から自宅などに作品が持ち出されるかどうかだけなのだ。持ち出すレンタルコミックの場合は貸与権を使うことができるが、前回触れたような、店内だけで読むことを前提にしたマンガ喫茶の蔵書には、貸与権を適用できない。
逆転の発想で、マンガ喫茶内に設置するマンガを貸与権が適用された(使用料支払い済み)のものにするという手もある。そうすれば、権利関係がクリアされ、読者は読み切れなかった分を別料金でそのままレンタルして持ち帰ることもできる。
マンガ喫茶の権利処理がクリアされれば、マンガに詳しい店員がコンシェルジュとして、「このマンガを好きな人は、次はこの作品を」と提案するだけでなく、出版社や編集者、マンガ家が出向いて、雑誌や作品のプロモーションやイベントをする「場」としても機能する可能性も出てくる。

一方、情報技術の向上で、マンガ喫茶が出版社などコンテンツの発信側と連携する道も見えてきた。そのひとつが、マンガ喫茶内限定の電子書籍配信だ。現在のマンガ喫茶の多くは、パソコンを導入している。そこで一定数の電子書籍を読める権利を出版社から購入したり、喫茶内でだけ読める作品をWi-Fiなどで配信したりするのだ。
これはすでにほかの場所で実現している。回転寿司チェーン、くら寿司は、故・手塚治虫氏の作品を管理する手塚プロダクションと組み、くら寿司の店舗内「TEZUKA SPOT」で手塚作品が読める仕組みを構築。スマートフォンなどWi-Fi接続機器を店に持ってきた人は、無料で手塚作品が読めるのだ。

くら寿司公式サイト内の「TEZUKA SPOT」紹介ページ

くら寿司ホームページ内「TEZUKA SPOT」紹介ページ

こうしてきちんとコンテンツホルダーにお金の回る仕組みができれば、従来のマンガファンも安心してこれらのサービスを使うことができる。

実はこのような仕組みは全く新しいものではない。第二次世界大戦前から戦後すぐにかけては「貸本屋」がどの都市にもあり、1冊あたり割安な料金で借りることができた。この貸本屋のネットワークは出版社に売れ筋の作品を提案し、新たな作品を生み出したりマンガ家を売れっ子に育て上げたりもしていた。手塚治虫氏がかかわった作品として知られる「新宝島」も元はこの貸本屋向けに描かれたものだったのだ。

後編では、公の場として可能性を秘めている図書館、そして、あえて最後まで触れてこなかった書店について掘り下げてみたい。

[マンガは拡張する:第6回 了]
後編に続きます


PROFILEプロフィール (50音順)

山内康裕(やまうち・やすひろ)

マンガナイト/レインボーバード合同会社代表。1979年生。法政大学イノベーションマネジメント研究科修了。2009年、マンガを介したコミュニケーションを生み出すユニット「マンガナイト」を結成し代表を務める。また、2010年にはマンガ関連の企画会社「レインボーバード合同会社」を設立し、マンガに関連した施設・展示・販促・商品等のコンテンツプロデュース・キュレーション・プランニング業務等を提供している。主な実績は「立川まんがぱーく」「東京ワンピースタワー」「日本財団これも学習マンガだ!」「池袋シネマチ祭2014」等。「プレジデントネクスト」にて『仕事に効く[ビタミン]マンガ』を連載中。http://manganight.net/