第9回「『ファンのお祭り』、その次の姿とは?(前編)」
第8回までで、マンガと読者をつなぐ場について、「こんなのがあれば」といろいろ想像してきた。
では実際の読者=ファンはどこにいるのか?
その姿がよく見えるのが、季節ごとにさまざまな会場で開催される、多彩な「ファンのお祭り」だ。
ファンの集う場として、おそらくもっとも有名なのは「コミックマーケット(コミケ)」だろう。年2回、東京ビックサイトで開催されるコミケは、2013年は夏・冬あわせて111万人を動員。もはや日本の風物詩だ。
コミケは、もとは数人が作品批評やオリジナル作品を持ち寄って始めたファンイベント。徐々に既存作品の二次創作が増え、今では同じ作品を好きなファン同士の交流の場になった。
一時は二次創作のブースが席巻したが、最近は再び初期のようなオリジナル作品やプロマンガ家の作品の出品が増加している。マンガの装丁や音楽、ゲーム、雑貨の同人作品にも光るものが目立つ(既存作品の二次創作は、特定作品の二次創作だけの出展を認める「オンリーイベント」に移行しつつある)。
一方で、「自主創作マンガ作品のみ」を集めるのが「コミティア」だ。個人の創作から、すでにプロデビューしたマンガ家の実験的作品まで本当に多種多様な創作物が一堂に会する。
コミティアの特徴は、各出版社が会場に「出張マンガ編集部」のブースを用意し、持ち込みを受け付けること。多くの新人マンガ家を発掘する場を作ったとして、2014年に第17回メディア芸術祭功労賞を受賞した。当初は数社のみだったが、徐々にブースが増え、今年2月2日に開催された「COMITIA107」では約20社、50以上の編集部が参加。マンガ以外のイラストや小説の持ち込みを受け付けるところや、その場で審査してデビューをさせるところも出てきた。出版社やマンガ家を巻き込んだトークイベントも充実している。
コミケもコミティアも形態は似ている。個人が運営事務局からスペースを借りて出展する形なので、フリーマーケットを想像してもらえばいい。そして、そのどちらも、ファンやクリエイターが自分たちのために作った場所である。そのなかで自由な(ときに自由すぎる)創作が広がった結果、出版社がスカウトの場として目をつけたのだ。
これに対し、出版社が用意するお祭りの場もある。たとえば毎年年末に開催される「ジャンプフェスタ」。ジャンプ関連の雑誌に連載中の作品や過去に連載していた作品、アニメーションが一堂に集まる。新旧の作品にひかれ、幅広い年齢層が集まるイベントだ。
お祭りの場が地方にも広がっていることも見逃せない。コミティアは関西や新潟などでも開催されているほか、2012年には「京都国際マンガ・アニメフェア(京まふ)」が始まった。関西圏のコンテンツ市場を促進し、マンガやアニメに関するビジネスの立ち上げやクリエイターの育成を目指すという。アニメ制作会社や出版社は、そこにブースを出して自社の作品をアピール。また、ここでも特別イベントとして、東京の出版社の編集者を呼び、会場内に「マンガ出張編集部」を用意し、マンガ家志望者が編集者らからアドバイスを受ける機会を作った。海外進出やライセンスビジネスに関するセミナーがあるのも「京まふ」ならではだ。
ひとつひとつのお祭りの場はとても楽しい。コミケやコミティアは新しい表現に出会う可能性があるし、ジャンプフェスタは出版社ならではの先行情報が豊富だ。
しかし筆者が満足しきれないのは、これらが一回限りの「お祭り」であることだ。
マンガは原則、一人で読むもの。だが子供の頃、学校でおもしろいマンガについてわいわい話した思い出はないだろうか。これは、大人になったマンガファンの間でも変わらない。今はさらに、雑誌や出版社の提案するオフィシャルな場以外でも、マンガやマンガ表現を楽しみ尽くそうというファンのマグマがたまっているのだ。
ハレの場で盛り上がった気持ちや熱意を維持し、ファン同士の出会いを次につなげていくには、お祭りの場という点と点とつなぐ“線”が不可欠だ。この“線”は、ちょっとでもマンガという表現に興味があるライトなファン層を、マンガ作品や表現の集まるハレの場につないでいくものでもある。後編ではこの“線”を、常設の場として日常の中に作り出す可能性について考える。
[マンガは拡張する:第9回 了]
(後編に続きます)
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